BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――明暗クッキリ……

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 勝負駆けは常に明暗分かれるものだが、10Rではそのコントラストがかなり色濃くあらわれた。1号艇の西橋奈未と2号艇の松井洪弥だ。松井は1着条件の勝負駆け。そう、勝つしかない。そこで松井が選んだのはジカまくり。スリットでややのぞくと、問答無用で西橋を外から攻め立てた。これが決まった! 松井は見事に先頭へ。渾身の勝負がハマった。

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 一方、西橋はこのあおりを受けて、1マークの出口でズルリと失速してしまう。西橋は4着条件の勝負駆け。しかし、この失速で5番手を走ることを強いられてしまった。その後もなんとか着をあげようと奮闘するが及ばず。それほど厳しいノルマ出なかったはずが、今日は5着2本で6・00を大きく割り、予選敗退が決定的になってしまった。

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 ピットでは、当然のことながら松井は笑顔がはじけている。レースも会心だし、これで準優行きも決まったのだから、もちろんそうなる。吉田凌太朗が「水神祭!?」とおどけ、松井が「もう勘弁!」と笑ったり。とにかく、松井も含め、彼を取り巻く面々の表情が明るくなっていた。

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 一方の西橋は、ヘルメットの奥で明らかに瞳が悔しさをたたえていた。そこには憤りのようなものも見えた気がして、それを気遣った中川りなも渋面になって慰めている。絶対に準優へ、と誓ったはずの西橋だけに、この敗退はあまりにも激痛。ただし、これがまた西橋をさらに強くするのだと、固く信じたいと思う。上を目指す意思の強さに比例して、この悔恨が西橋をさらに押し上げる原動力になるはずだからだ。

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 10Rは、外枠に116期の大山千広と鈴谷一平が入った。大山は無事故完走で当確。鈴谷は3着以上が必要。その時点でボーダー18位だった。鈴谷は大外枠とはいえ、なんとか予選突破の気合で臨んだはずだったが届かず。逆に無事故完走だった大山は5コースからまくり差しで2番手追走で、ポイントアップに成功した。これもまた、同期のなかで生じた明暗だったか。

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 鈴谷は、ヘルメットを脱いだ時に一瞬、悔しそうな顔を見せた。やや肩を落としているようにも見えたが、苦笑いに近い笑みを漏らしてもいた。控室に戻る際、競技棟の手前20mほどからは大山と並んで歩き、レースを振り返り合っていた。そこでも笑みを見せていたが、あとは同期に任せたという思いもあっただろうか。

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 で、鈴谷が18位圏内から陥落して、18位に浮上したのが116期の入海馨なのだから、運命はいつも不可思議だ。入海は1便で帰ったのか、姿は見かけなかったが、いったいどんな思いでいたのだろう。この時点ではもちろん準優確定ではないわけだが、状況がはっきりと見えたとき、その胸中は複雑にもなるだろうし、同時に鈴谷の分も、という決意も生まれるだろう。

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 12Rには巨大な“暗”が生まれてしまった。6号艇の高田ひかるはチルト0・5度に跳ねて、展示タイムは破格の6秒72。このレースに臨む高田はまさに“ギリペラ”で、とことんペラを向き合って、ということは一撃仕様を追求している。しかし……6コースから一気に伸びて、内5艇を呑み込んだものの、バックに出たあたりで「返還⑥」の文字がモニターにあらわれた。まさかのフライング……。
 ピットに戻った高田の表情はひたすらカタく、そして暗かった。ただのフライングではなく、内の選手を呑み込むかたちにもなったこともあって、高田は一目散に各選手のもとに飛んで行って、頭を下げている。もちろん、どの選手も高田の思いやその戦法、またこれがどれだけ痛恨で背徳感をかぶってしまうことかをわかっているから、軽く手をあげて返している。勝った中田達也は微笑を返してもいた。控室に戻る高田の足取りは、心なしか速足になっており、いち早くその場を立ち去りたいという思いもうかがえた。

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 一つ言えるのは、これも勝負駆け、ということである。コンマ05ということは即日帰郷。失意のなかで高田は徳山を後にしなければならない。しかし、ひたすら勝ちにいった、その思いは尊いと僕は思う。このフライング自体は当たり前だが褒められないが、彼女の見せた姿勢は紛れもなくザ・ボートレーサーだったと思う。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)