BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

セミファイナル・ダイジェスト

2着の機微

9R
①佐藤隆太郎(東京)14
②茅原悠紀(岡山)  15
③山田雄太(静岡)  14
④船岡洋一郎(広島)14
⑤関 浩哉(群馬)  15
⑥石田章央(静岡)  18

f:id:boatrace-g-report:20220109184113j:plain

 穏やかな枠なり3対3から、スリットは美しいまでの横一線。外からの攻めが渋滞している間に、インの隆太郎がすたこら逃げきった。
 昨日の12Rの隆太郎19号機は2コース差しで1着もある展開から野村誠に競り負け、さらに坪井康晴にも捌かれての3着。道中でズンズン坪井に引き離されていく様は「調整が合ってないな、中堅までか」というちょいと不安な見え方だった。

f:id:boatrace-g-report:20220109184152j:plain

 で、今日はすんなり楽なイン逃げだからして「昨日から上昇」とは断言できないけれど、スタート後の伸び返し、ターン出口の押し足ともに軽快そのもの。昨日の重たさが解消された印象だ。少なくとも、前検でワースト2位に甘んじた数字とは別物のパワーだと肝に銘じておきたい。
 このレースで案外だったのは茅原で、人気を裏切る大差の6着。ごくごく普通の2コース差しに見えたものだが、他艇の引き波にまったく持ちこたえることができずにズルズル後退してしまった。これほどの惨敗を喫した原因は、ちょっと見た目では分からない。

f:id:boatrace-g-report:20220109184242j:plain

 2着を取りきったのは、3コースから握って攻めた山田雄太。今節はF持ち未消化の身の上ながら、昨日から鋭い踏み込みで気合の充実が感じられる。ついでに体重も充実の58キロなのだが、コッチはもっと控えめにした方が得策だろう(笑)。

f:id:boatrace-g-report:20220109184335j:plain

 さて、山田が2着に入線した瞬間、9R以降の選手たちに大きな“縛り”が発生した。昨日の山田のトーナメント成績は1着なので、昨日のトーナメントで2着以下だった選手は、「今日のセミファイナルで2着を獲っても山田の成績に及ばず、ファイナルには進出できない」という縛りだ(昨日の1着選手が2着=山田と同成績ならレース後の抽選でファイナル5号艇が決定)。より分かりやすく9R以降の選手たちの勝負駆け条件をまとめると
【1着なら文句なしにファイナル進出(1~4号艇)、昨日のトーナメント1着選手は2着でも山田雄太ら同成績者と抽選でファイナル5号艇のチャンスあり、昨日の2着以下の選手は1着以外はアウト】
 うむ、どう書いてもややこしくはあるが、とにかく昨日のトーナメント2着以下の選手は「勝つっきゃない!」という立場に追い込まれたのである。もちろん、この縛りで大きなアドバンテージを得たのは、9R2着の山田本人に他ならない。

最後の“勝者”は……??

10R
①井上大輔(岡山)01
②岡崎恭裕(福岡)09
③川原祐明(香川)11
④中山雄太(愛知)13
⑤中村 尊(埼玉)08
⑥細川裕子(愛知)10

f:id:boatrace-g-report:20220109184534j:plain

 賞典除外が続出……なんとも後味の悪いレースになってしまった。
 レースを作った主役は、文句なしに井上だ。インコースからコンマ01!! キワのキワまで踏み込んでしっかりがっちり逃げきった、かに見えた。
 しかも、このレースは1マークで「第一の事件」が勃発。3コースの川原が5コース中村の猛攻を防ぎきれず、バランスを逸して転覆(選手責任失格+後続艇に不利を与えたため不良航法で賞典除外)。こうなると、事実上のレースの攻防は1周2マークだけに限定される。
 バック先頭は井上で、1、2艇身後方に岡崎。ハナを切る井上としては、「2マークを大事に回れば勝てる」という思いがあったかも知れないし、事故を告げるチェッカーランプを見てレースに対する集中力が緩慢になったかも知れない。

f:id:boatrace-g-report:20220109184614j:plain

 そんなわずかな井上の隙を、岡崎は見逃さなかった。“最終関門”の2マーク直前、艇を外に開いて「差すぞ」と見せてから、スッと減速して舳先を内へと急転換。将棋でいうところの「盤上この一手」の如き絶妙な切り返しで井上のインサイドを強襲し、あっという間に先頭を奪い取っていた。

f:id:boatrace-g-report:20220109184658j:plain

 これで何の問題もなければ、「これぞSGレーサーのしたたかさ、つまりは底力」などと絶賛するところだが、現実には2マークで井上艇の脇腹に接触。私の目には「反則一歩手前のダンプ成功」と映ったが、審判員は「突っ込みによる不良航法」と判断して岡崎も賞典除外となった。つまり、1着ながらファイナル進出ならず。
 そんなすったもんだの挙げ句、このレースで明日のファイナルの切符を入手したのは、井上ではなく中村尊! 2マークの競りに乗じて、はるか10艇身ほど後方にいた中村がギリギリ井上を交わして2番手に浮上していたのだ。

f:id:boatrace-g-report:20220109184733j:plain

 うーーーん、尊さま、恐るべし!! 昨日のトーナメントは4着ながら原田幸哉の待機行動違反(即日帰郷)で繰り上がりセミファイナル進出~今日も今日とて2着(昨日は4着だから、本来ならファイナルの権利なし)ながら岡崎賞典除外の繰り上がりで、規定によりファイナル4号艇GET。さらに言うと、相棒の10号機は「三島敬一郎のイチ推し43号機が不参加で、繰り上がりのトップモーター昇進」というイワク付きなのである。勝負の流れだけで言うなら、中村10号機はブッチギリの節イチ。中村尊の俗人離れした風貌も含めて、このまま「神がかりのミラクルV」があっても不思議ではないだろう(笑)。

貫禄ワンツー

11R 並び順
①村上功祐(大阪)09
②坪井康晴(静岡)09
④高田 明(佐賀)06
⑥徳増秀樹(静岡)12
③松尾 充(三重)14
⑤遠藤エミ(滋賀)19

f:id:boatrace-g-report:20220109184835j:plain

 格の違い、と言うべきか。GPレーサーの坪井が2コースから冷静的確な差しを決めて、こちらは文句なしのファイナル入りを決めた。まさに「貫禄差し」という1マークだったが、相棒20号機のパワーも日々上昇。

f:id:boatrace-g-report:20220109184916j:plain

 三島Aランクの20号機は「スリット近辺の行き足が強力」で、元よりこの部分の足を重視する坪井とは相思相愛の関係か(笑)。今日もスリット同体の2コースから素晴らしい加速感でイン村上を煽り、完全に主導権を取りきってから余力たっぷりの差しハンドルを入れた印象だ。

f:id:boatrace-g-report:20220109184954j:plain

 さらに、ターン出口からの押し足(坪井スタイルでは、この部分が弱点になることも多い)もしっかりしていたし、2マークを先取りしてからの出足も申し分なし。坪井が実力を発揮できるときのパターン「行き足を中心に全部の足が強め~抜群」という理想形に近づいたと見ていいだろう。完成形がどうかは、明日のメンバー構成もあって断言できないけれど。とにかく、明日も2号艇を引き当てた坪井としては、「最高のリハーサルをクリアした」とお伝えしていいだろう。

f:id:boatrace-g-report:20220109185027j:plain

 2着は、これまた静岡支部のSGレーサー徳増。前付けの4コースでスタートこそやや後手を踏んだが、慌てず騒がず二番差しでバック最内を疾走。2マークをくるり小回りして2番手に浮上し、ファイナル5号艇の抽選権利を獲得した(例によって抽選運だけはウスかったが……w)。
 強いレーサーが持ち味を出しきるレースをすれば、結果はおのずと付いてくる。そんな月並みな感想が浮かぶ実力本位のレースだったと思う。

ナデシコ乱舞

12R 並び順
①西橋奈未(福井)11
⑤赤岩善生(愛知)23
②宇野弥生(愛知)16
③柳生泰二(山口)12
⑥田路朋史(兵庫)05
④野村 誠(群馬)28

f:id:boatrace-g-report:20220109185108j:plain

 1号艇の西橋からすれば、“赤鬼”に見えたに違いない。5号艇の赤岩がゴリゴリオラオラの前付けで2コース進攻。その押し引きがまた巧妙で、あっという間にインの西橋だけがズンズン深くなる大ピンチの最終隊形となった。【1・52/364】みたいな。

f:id:boatrace-g-report:20220109185143j:plain

 ひとりだけ貧乏くじを引いた西橋の起こしは90mちょい。しかも、前付けの赤岩がドカッと凹んでまったく壁のないイン戦に! 勢い5コースから突出した田路が伸びなり襲い掛かり、これまた絶体絶命の1マーク直前に見えたものだった。

f:id:boatrace-g-report:20220109185220j:plain

 だがしかし、今節の西橋8号機はまったくへこたれない。スリットからの伸び返しが半端なく、瞬く間に田路に対抗できるほどに突出。まくらせない差させないターンで当面の敵を完封し、さらに内からドカドカ差し込んだ宇野&赤岩の地元コンビも、素晴らしい行き足で一気に突き放した。

f:id:boatrace-g-report:20220109185243j:plain

 昨日も書いたけれど、やはりこの部分の足は文句なしの節イチパワーだ。軽量の女子力も含めて、坪井20号機よりも強力。レース後の3人のアミダ抽選でもっとも遠い3号艇を引いてしまった西橋だが、枠なり3コースから全速発進ならば難敵の坪井をも超えて一気に突き抜けるパワーだと確信している。明日の私の◎は、もはや現時点で不動不変とお伝えしておこう。

f:id:boatrace-g-report:20220109185307j:plain

 2着も混戦をしっかり捌いて女子レーサーの宇野。今節の弥生にとって「私らしく」はスタート勝負のみならず、地元ファンへの感謝を凝縮したファイティングスピリットではなかろうか。正直、最近の宇野は勝負どころでちょいと弱気に過ぎるターンやポジショニングを見ることが多いのだが、昨日今日は前へ前へ、怯むことなく突き進む「弥生らしさ」を随所に魅せている。

f:id:boatrace-g-report:20220109185340j:plain

 ならば、男女混合のGⅡを制した女傑の本領発揮。レース後の抽選で5号艇を勝ち取った運(山田、徳増は落選)も含め、明日も外コースからファン感謝に満ち溢れた猛アタックを敢行する可能性は高い。2022年の「私らしく」は、去年よりも怖く、強そうな気がしてならない。(photos/チャーリー池上、text/畠山)