得点率トップは、5Rで早々に確定。池田浩二だ。それでも池田は遅くまで残ってプロペラ調整。まったく緩めていないし、安心もしていない。
一方、18位ボーダーが非常に激戦となっている。10Rを終えた時点で6.00の前本泰和が次点。18位は6.17の辻栄蔵となっていた。得点率6.20で予選を終えていた萩原秀人が、神妙な表情で歩み寄ってきて、「1点増しなら大丈夫かな?」と得点状況を聞いてきた。こちらの資料を見せながら、6.20ならかなり有力である旨を告げる。もし間違ってたらすみません、と付け足すと、萩原は気にするなとばかりにうなずき返してきた。ひとまずおおよその状況を確認できたことで、気分的には落ち着いただろうか。
10Rの結果で18位に浮上した辻栄蔵は、レース後しきりに首を傾げた。それだけ見れば、勝負駆けにひとまず成功した選手の様子とは思えないわけだが、レースを見た方ならなるほどと首肯するだろう。1号艇で出走した辻はピット離れで遅れ、回り込んだものの3コースまでにしか入れなかった。バナレで後手を踏んだ時点で、辻の心が晴れようはずがなかった。展開が向いて2着にはなったが、反省しきりのレース後。ヘルメットを乾燥機に入れる際には、他の選手とレースを振り返り合って「サイッテー」と己を責めた。
このレースでインを獲ったのは毒島誠。ピン勝負の一戦、見事に逃げ切って勝負駆け成功だ。しかし、毒島にも笑顔は見られなかった。自力で掴んだというよりは、敵失により転がり込んできた勝利、という感覚が強かっただろうか。厳しい条件の勝負駆けをクリアした達成感はそこには見えず。1着2着がともにボーダーラインを超えたレースだったというのに、そのどちらからも喜びが伝わってこないという、不思議な勝負駆けレースとなったのであった。
11Rは上平真二が3コースまくり差しで1着。これは準優1号艇を確定させる勝利で、いつも通り、勝ってもそれほど表情を変えないレース後ではあったが、エンジン吊りから離れる際に仲間たちと挨拶を交わしたとき、一瞬だけニッカリと笑顔を見せている。
ボーダー勝負駆けだったのは原田幸哉と秋山直之。これが完全に明暗分かち、大敗の原田は準優への道が閉ざされ、2着の秋山が準優圏内に浮上している(この時点で辻は次点に下がっている)。さすがに原田の表情は渋く、控室へ戻る途上で、前を歩いていた同期の瓜生正義に声をかけて会話を交わし始めたが、その間も渋面が消えることはなかった。一方、秋山はヘルメットをかぶったまま(シールドも下りたまま)のエンジン吊りで、終了後はそのまま控室へと猛ダッシュ。様子についてはまったくわからずじまいなのだった。秋山もレース後はそれほど表情に変化はなく、ヘルメットの奥もそうだったのかなあ、と想像するしかできない。
1号艇インコースから先マイを放ち、上平に差されたものの先頭争いを演じ、しかし2マークでは揉まれて後退、それでもなんとか菊地孝平を抜いて3番手確保、と出入りが激しい戦いとなった中野次郎は、とにかくからかわれまくりのレース後だった。新田雄史が笑顔で声をかけて、次郎は苦笑い。さらに池田浩二が背後からカポックあたりに軽くパンチを見舞うと、また次郎は苦笑い。1号艇を活かせなかったという無念も含めて複雑な感じなんだけど、妙に明るい次郎周辺、なのであった。
12Rは平本真之がフライングに散る波乱があった。感情をあまり隠さない男がこのレース後に見せた顔は、ただただ沈痛。1号艇の返還を生んでしまった責任を一身に背負い、悔しがるでもなく、落胆するでもなく、ただただ己を責める姿がそこにあった。今日の夜は、ひたすら落ち込むことになるかもしれない……。平本は準優圏内にいたので、これにより辻栄蔵が18位に再浮上している。仲間の手痛い戦線離脱があっての浮上では、さすがに辻も今日のところは素直に喜べない。明日はこの幸運をしっかり受け入れて、思い切った戦いを見せてもらいたい。
勝った石野貴之は、レース後は淡々とした様子だった。顔つきこそ凛々しかったが、やはりFのあったレースでは嬉々としたところを見せられないといったところか。実際は1マークでは完全にまくり切っていたから、Fうんぬんは関係がない。明日はさらに凛々しい姿を見せてくれることだろう。
無念だったのは篠崎仁志だ。石野のまくりを利しての差しを狙ったが、内の艇と進路がかぶってしまった。ピン勝負だっただけに、決然と差し勝負に出たがかなわなかった。エンジン吊りを終え、控室へ戻る仁志はあまり見たことがないほどの早足で、まるで悔しさを踏みつけるかのように、ドシドシとした足取りでもあった。その様子がまた、己のふがいなさを責めるようでもあり。残り2日、しっかりと鬱憤を晴らす走りを見せてもらいたいところだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)