ピット取材をしていると、仲が良い選手……と書くと語弊があるかもしれないが、仲が悪い選手がいるということではなく、よく行動をともにする選手同士の絡みというものを目にするわけである。ファンの間でもよく知られていると思われるのは池田浩二と西山貴浩。YouTube動画などでもよく共演していて、西山もインタビュー等でしょっちゅう池田の名前を口にするものである。もちろん、ピットでもしょっちゅう絡んでいて、池田が爽快に笑っているのを見るのは一節に数回では済むまい。
その池田と実は仲良しなのが濱野谷憲吾。支部は違うし、期も10期ほど離れているが、やはり若い時期から記念戦線でよく顔を合わせてきたからなのか、言葉を掛け合って大笑いしている場面をよく見かけるというわけなのだ。池田が10Rを2着であがってきたときも同様。土屋智則のエンジン吊りに参加していたはずの濱野谷が、いつの間にか池田と大笑いし合っていたのである。そこにはやはり土屋のエンジン吊りに加わっていた西山もいた。仲良しチームが和やかにレースを振り返っていたというわけだ。そういえば、濱野谷と西山の絡みというのはあまり見ないっすね。やはり期が相当離れているからだろうか。
同期というのは当然、そうした組み合わせの代表的なものだ。10R発売中、田口節子がふらりと装着場にあらわれて、ボートリフト脇の柵にもたれて水面を眺めていた。どうしたのかなあ……と思ったら、井口佳典が試運転を走っていたのであった。徳山では、レース後の試運転は10Rまでと決められているから、これが最後の試運転。ということは井口はこの後ボートを陸に上げるだろうと、田口は同期のエンジン吊りをするべく待っていたのである。控室から井口が試運転をしているのを見たんでしょうね。井口は田口に出迎えられ、さらにペラ調整所から駆けつけた関浩哉とともにエンジン吊り。関がモーターを整備室に運搬する役を買って出ると、井口は「関ちゃん、ありがとう!」と叫んで、その後は田口と談笑しているのであった。同じ釜の飯を食った間柄というのは、レース場の現場においても心強い存在なのである。
もちろん同支部というのもまた、こうした絡みの代表的なもの。実は、田口が井口を待っていたとき、離れた水面際では船岡洋一郎が同じように水面を眺めていたのである。試運転を走っていたのは大上卓人。田口と同様、大上のエンジン吊りをするべく、船岡もまた待機していたのだ。井口から遅れること1分ほど、大上がボートを上げると船岡が駆け寄る。実際は、井口のヘルプもしようとリフトのほうに歩み出していたのだが、船岡が到着する前に井口と田口と関で吊り終えてしまっていたという次第。船岡は7Rを4着で終えたあと本体整備をしていたのだが、その後に後輩のエンジン吊りを待ち構えていたわけである。
支部違いでも、地区が同じで仲が良いという組み合わせもある。守田俊介と萩原秀人もよく会話を交わしており、そこそこキャリアがあるファンならニヤリとしてしまうかも。今日の5R、このふたりが2番手争いで競り合った。2マーク、外マイで交わそうとする守田に対して、萩原は握り返して張るかたちになり、守田は大きく流れて6着大敗。ガチンコでぶん殴り合うような接戦だったのだ。それはきっと仲が良いからこそ、信頼し合ってぶつかり合えるということでもあるのだろう。10Rのエンジン吊り後、萩原を出迎えた守田がふたりで肩を並べて控室に戻るシーンを見れば、あの競り合いの禍根などいっさいないことがよくわかるだろう。
支部が違っても、期が近い同士はわりとよく絡んでいたりする。たとえば毒島誠と馬場貴也。92期と93期、1期違いである。ということは、やまと学校(現ボートレーサー養成所)で半年間、訓練がかぶっていたわけで、デビュー前からお互いを知る間柄というわけだ。スピードスターっぷりも似てるし、共感する部分もいろいろとありそうだ。
というわけで、9R発売中に岡崎恭裕が片岡雅裕にアドバイスを送っているのを見て、ちょっと驚いたのであった。これまでにふたりの絡みを見た記憶はなく、期もやや離れていて、支部ももちろん違う。整備室でテーブルを挟んで、ゲージを手に取りながら片岡に言葉を投げかける岡崎。それに聞き入りながらうなずいている片岡。こういう珍しい組み合わせを見ると、ちょっとグッと来るんですよね。そして、こうした場面に出くわすのも、ピット取材を許された者の喜びだったりするわけです。ほんと、幸せ者だ。
さてさて、9Rは激戦だった。1号艇の磯部誠は1マークで前田将太に差されながら、2マークではさらに内から逆転を狙う中島孝平と前田の間に豪快にまくり差しハンドル。これがズッポリと決まって、取りこぼしかけていた白星をもぎ取ったのだ。ピットに戻った磯部は、まず石野貴之に深々と、何度も頭を下げた。攻めてくる石野に飛びつくようなかたちになったため(それでふところを開けてしまって差された)、真っ先に謝らねばと思ったのだろう。もちろん石野はまったく意に介しておらず、その後は西山貴浩も交えて3人で大笑い。正直、石野のまくりはそこまで届きそうなものとは見えていなかったから、警戒しすぎた、そしていったんは差されたことをみんなで笑いあった、というようにも思えたのだが、どうだろう。
一方、中島が前田にパンチを浴びせる素振りを見せながら、ふたりで苦笑いを合わせた。中島としては、前田との先頭争いと最内からアタックをかけた2マークだったに違いない。そこに磯部が飛んできて、まとめてやられてしまったのだから、唖然とした部分もあったか。勝っても負けても淡々としていることが多い中島にしては珍しいアクションだっただけに、印象に残った次第。それくらい、この9Rは見どころや勝負の綾が多く、スペクタクルもあふれる名勝負だったわけなのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)