BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――今日も慌ただしいチャンプ

 カポックの色が違ってはいるのだが、まるで昨日の12R後の再現シーンを見ているようだった。ピットに戻るや、大急ぎで動く平尾崇典。感情をあらわにするでもなく、だからもちろん笑顔もほぼ見られない。とにかく慌ただしく、競走会職員の指示を受けながら、装備をほどき、着替えに走る。
 ただ、今日向かうのは、自身の表彰式! そう、平尾崇典、バトルトーナメント第9代チャンピオン!

 なにしろ、今日はレースを終えるとウイニングランという祝福の儀が間に挟まり、それから表彰式に向かうのだから、さらに忙しい。また、予約しておいた新幹線の発車時刻がまあまあ迫っているらしい、という噂も聞こえてきている(笑)。そりゃあ、慌ただしくもなるよね! しかしそれは、嬉しい慌ただしさだ。
 昨日の枠番抽選会では、1号艇を引き当ててもまったく表情を変えず、司会の荻野滋夫さんに嬉しいでしょと問われて軽く首を振ったりもしていた平尾。しかし今日は晴れやかな表情も見せた! ちょっとおどけてみせる場面まで! インタビューに応える声も力強く、それはまさにチャンピオンの姿であった。

 まあ、結局ピットでは昨日も今日も、勝者らしい様子は見られていないのだが。だから勇ましいことはあまり書けない(笑)。まあ、それも平尾崇典らしさ、ということで収めておこう。あるいは、唯一無二のルールで行なわれるバトルトーナメントならでは、でもいい。思えば、トーナメントは3着でギリギリ勝ち上がり、セミファイナルは決まり手恵まれ、枠番抽選で1号艇を引いてファイナルは逃げ切った。勝負は時の運という物言いがあるなかで、最も運を味方につけなければならないこの大会らしいウィナー、ということも言えるだろう。これで来年1月のBBCトーナメントの出場権も勝ち取った平尾。勝って歓喜を見せる姿は、年明けに存分に見せてもらうとしよう。

 平尾がウイニングランに行っている間、敗れた選手たちが続々と堤防を越えてピットに戻ってきているのだが、これを待ち受けていたのは長谷川雅和だった。岡山支部、平尾の後輩である。そして、5人すべてに「すみませんでした」と頭を下げている。あまり見たことのない光景だな、と訝しく見ていたのだが、記者席に戻って平尾が待機行動違反(スタート時コース幅)と不良航法(1周1マーク押圧)をとられているのを知って腑に落ちた。先輩がすみません、ということか。うーん、よくデキた後輩だ。

 それに対して、5人全員が微笑で応えている。思うところはあったとしても、もちろん長谷川に罪はない。そして、5人の各選手はそれぞれ、もちろん苦笑いの色が濃くはあったが、むしろテンション高めに1マークの展開を振り返り合っている。ちょっとしたアクシデントがあったことが、会話の量を増やしていた感じだ。これはまさに勝負のアヤ。それを各選手ともに知っているからこそ、そこに遺恨らしい遺恨は残さない、といったところか。もちろん、表彰式から帰った平尾が控室で各選手に頭を下げていたはずだとも思う。長谷川がしっかり露払いした、ということになるのかな。

 ただ、無念の色が強めに見えたのは、やはり石渡鉄兵だった。1マークでは押し込まれ、接触もあって何もできなかった。待ちに待った江戸川の“ビッグ”、その優勝戦が消化不良に終わってしまったのだから、溜息が出て当然だ。攻め込んで及ばず、なら素直に悔しがることもできただろうが……。

 それでも、やはり今節の主役を演じたのはあなただった、と言っておきたい! この大会に絶対に欠かせなかった江戸川鉄兵。トーナメント6号艇をクリアし、セミファイナルはまくり差し快勝、そうしてファイナルに名を連ねた時点で、石渡はしっかりと責任を全うした。もちろん最高の結果につながればベストだっただろうが、それこそ勝負は時の運である。この江戸川で、江戸川鉄兵の、いや、石渡鉄兵の戦いを見られたことは最高に幸せでした。3日間、お疲れ様でした!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)