BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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セミファイナルダイジェスト

奥深い①-②

9R
①中澤和志(埼玉)07
②三嶌誠司(香川)14
③大峯 豊(山口)12
④黒柳浩孝(愛知)02
⑤佐藤大佑(東京)23
⑥山下流心(広島)13

 ここは江戸川。何が起きても驚くつもりはないが、なかなかにサプライズな①-②決着だった。
 まず、ハナを切ったのは4カドの伏兵・黒柳。昨日のチルト1・5度からさらに2・0度に跳ね上げ、スタートもコンマ02突出。そのまま凄まじい伸び足でスロー3艇を一気に叩き潰した。どう見ても1着=ファイナリスト確定として思えない鮮やかな一撃まくり!

 だがしかし、ここから「1着勝負」ならではの紛れが発生する。バック直線、3艇身ほどの差で追随するは、まくられながらインから小回りで食い下がる中澤。同じくまくられながら、「換わり全速」でぶん回した三嶌。百戦錬磨のSG覇者コンビだ。
 2マークの手前、独走かと思えた黒柳に勝負手を放ったのは中澤だ。真っすぐターンマークに突き進んで距離を短縮、やや無謀ながらも先マイでの大逆転を狙う。黒柳は外マイでギリギリこの奇襲を交わし、引き波で流れた中澤は完全にファイナルの圏外へ。

 これで黒柳が安泰かと思いきや、その内から強烈な二の矢が飛んできた。外に開いて渾身の差しをねじ込んだ三嶌! ギリギリ届いたその舳先を、チルト2度の黒柳がパワー任せで振りほどく。
 振りほどいた。

 そう見えたが、三嶌は外に持ち出さない。最内に潜り込んだまま、2周1マークを強引に先取りしようとする。それは許さん、と握って叩き潰そうとする黒柳。1着だけが欲しい意地と意地のぶつかり合いは、相譲らないままターンマークを大きく外して真横へと流れ去った。

 この大競りの果てにまんまと先頭に躍り出たのは……2マークで力尽きたはずの中澤! まくられて叩かれて、ボコボコに傷ついたはずの本命がゾンビのように蘇った。私の勝手な憶測だが、このレースが「1着勝負」ではない通常の準優なら、2マークの中澤~2周1マークの三嶌ともどもまったく別の戦術を選んだ気がしてならない。

 1着・中澤、2着・三嶌。
 すったもんだの末に終わってみれば、SGコンビが激辛の勝負根性でワンツーを占拠。「1周巡って格の違いを見せつけた」と言っていいだろう。

圧逃!

10R
①田村隆信(徳島)04
②坪井康晴(静岡)18
③赤坂俊輔(長崎)17
④桑原将光(東京)24
⑤羽野直也(福岡)19
⑥清埜翔子(埼玉)22

 9Rのデッドヒートとは真逆の展開で、すんなり本命サイドの決着となった。↑スリット隊形を見れば一目瞭然。実績も枠番コースも万全の田村がこの突出スタートを切ってしまえば、外5艇の出番はない。2コースから伸び返す坪井を壁にくるり旋回したらば、バック中間で唯我独尊のセイフティリードを保っていた。

 この大会のセミファイナル=1着条件として、もはやレースについて書くことは少ない。触れるとするなら、ファイナル5号艇を懸けた2着争いか。独走する田村から5艇身ほど離れて、3コースから握った赤坂~2コースから差した坪井。ほぼほぼ①③②か①②③態勢が固まっていたのだが、どっちが2着かでファイナル5号艇の行方は激変する。

 独自のルールとして【2着選手のうちトーナメント成績の最上位⇔成績が同じ場合は選考順位の最上位が5号艇】があり、9Rの2着・三嶌はトーナメントも2着。このルールを踏まえると、「昨日1着の坪井が2着なら、とりあえず三嶌超え確定」。逆に「トーナメント2着の赤坂が再び2着なら、三嶌と同成績ながら優先順位が上位の三嶌に軍配」となる。つまり、現実の2着争いは赤坂vs坪井でありながら、水面下では三嶌vs坪井の生き残り勝負となっていたわけだ。
 知ってか知らずか、3番手の坪井はターンマークごとに猛チャージをかけたが、赤坂が激辛の応接で交わし続ける。結果、ファイナルの目がない赤坂がしっかりと2着を獲りきり、三嶌がファイナル5号艇の可能性を残した。

絶対エースの達人芸

11R
①酒見峻介(佐賀)19
②島村隆幸(徳島)15
③石渡鉄兵(東京)17
④橋本久和(群馬)19
⑤岩瀬裕亮(愛知)19
⑥森高一真(香川)18

 江戸川ではモノが違った。モノを言わせなかった。江戸川鉄兵の独壇場だ。
 スリット隊形はさほど有利だったわけではない。ほぼ横一線から、絶好調の2コース島村がわずかに舳先を覗かせる。トーナメント同様「まくらんかな」のオーラを発してイン酒見ににじり寄る。この展開になると、鉄兵としては島村の挙動を見極めてから動く必要がある。いわば他力本願の展開だ。

 だがしかし、鉄兵の攻撃に1ミリの迷いもなかった。酒見の伸び返しを肌で感じた島村が正攻法の差しに構えた瞬間、もう握っていた。1マークのはるか手前でのツケマイ強攻。あまりの仕掛けの早さに、島村も斬られた実感がなかったのではないか。あっという間に、本当にあっという間に引き波にハメていた。

 うわぁ、はやっっ!! 難水面の江戸川でこんな見切り発車ができる選手は、やっぱこの男しかいないべさ。
 なんて思う間もなく、鉄兵は内2艇のど真ん中を切り裂いて先頭に立っていた。そりゃそうだ。あの早さだもの。評判機を駆る酒見10号も、無傷の2連勝・島村もこの絶対エースの前には脇役でしかなかった。

 一方、大混戦の後続争いから、ゴボー抜きで2着をぶんどったのは6号艇の森高だ。アウトからの2着は大殊勲と呼ぶべきだが、森高もまた10Rの赤坂同様、選考順位の差で9R2着の三嶌にわずかに及ばず苦杯を舐めた。

ふたつの強運

12R
①土性雅也(三重) F+04
②平尾崇典(岡山) 07
③上野真之介(佐賀)03
④中村かなえ(東京)08
⑤浜田亜理沙(埼玉)10
⑥湯川浩司(大阪)    14

  200倍の好配当となった11Rとは、違った意味での大波乱。抽選で1号艇を勝ち取った土性が気合パンパン、おそらくパンパンすぎてスリットラインを大幅にはみ出した。うむ。

 2マークの手前、土性がすごすごと消え去った水面では2コースから差した平尾~3コースから握った真之介が主導権を握った。すんなり順走からの繰り上がりワンツー態勢。昨日の平尾はスタートからやや覇気のない見え方だったが、今日はコンマ07まで踏み込んでの冷静な差しハンドル。決まり手は「恵まれ」だが、「もっとも運の強い選手が勝つ」といわれる大会だけに、ある意味「もっとも強い勝ち上がり」と表現してもいいだろう。

 タラレバで言うと、土性がFではなく平尾2着だったらファイナル5号艇にも入れなかった。それがあれよあれよの展開でファイナル1~4号艇の切符をつかみ、さらにその後のスーパーあみだマシーンの抽選で……この先は別の記事に委ねるとしよう(笑)。元より江戸川巧者として知られる男でもあり、何号艇であっても侮れないのだが。

 さて、2着争いだ。平尾の後ろにはしっかりと真之介が貼りつき、この隊列には少なからぬ意味が隠されていた。真之介のトーナメントの着順は2着で三嶌と同じ。こうなるとファイナルと5号艇は選考順位で決まるのだが……
☆上野真之介=9位
★三嶌誠司=14位
 そう、優先権は真之介! そのまま後続を引き離した真之介は、ファイナル5号艇へと続くゴールラインを通過した。平尾が強運なら、恵まれ2着で紙一重の差を勝ち抜いたこちらも強運。「黄色カポックの真之介」と聞くだけで、妙な胸騒ぎを感じる読者は少なくないだろう。もちろん、自称・穴党の私もそのひとりだ。(photos/チャーリー池上、text/畠山)