9R、6号艇6コースから2着の菊地孝平。着替えを終えてピットにあらわれると、難しい顔をしていた。まくった中田竜太をバックでは確かにとらえたが、抜き返されての2着。「惜しいっ!」と声を掛けたら、菊地はさらに顔を歪めて「悔しいっ!」と叫んだ。
勝負駆けという観点から言えば、4着条件だったのだから、2着は成功。6コースからノルマをクリアしたことも合わせれば、上出来であろう。しかし、勝負という観点からなら、これは掴みかけた勝利を取りこぼしたことになる。準優に行ける安堵はあれども、悔しいレースでしかないわけだ。勝負駆けのみの狭い視野に留まらない発想、感情。これが菊地の強者たるゆえんかと思う。
その菊地が、10Rを逃げ切った池田浩二を笑顔で出迎えた。2着条件で臨んだ池田だが、1号艇である。2着で良しのわけがない。必勝の意思だったに決まっているのだ。それをよくわかっているから、あるいは自身であっても同じ発想だっただろうから、逃げた池田に爽快な笑顔を向ける。池田もちょっとおどけて脱力した様子を見せながら(なにしろ6番手スタート。余裕の逃げ切りというわけではなかったのだ)、菊地の笑顔に応えていた。
11Rでは、磯部誠が1号艇で3着に敗れた。1マークでは膨れ気味になり、白井英治の2コース差し、さらには佐藤翼の3コースまくり差しを許してしまったのだ。レース後の磯部はまったく納得がいかない表情。何度も何度も首を捻っている。なぜ流れてしまったのか、それを考えていたことだろう。磯部は5着で完全に準優当確、6着でも望みはあったから、3着でも勝負駆けのノルマは十分にクリア。しかし、そういうことではないのだ。1号艇は必勝態勢で臨むわけで、取りこぼしがひたすら許せないわけである。あえて勝負駆けのことを言うなら、勝っておけば準優2号艇あたりが手に入っていた。しかし、そのときの磯部の頭にその発想はなかったはずだ。ただただ1号艇で敗れたことが悔しい。強者のメンタルである。
その11Rでは、中島孝平が4着条件で4着。ひとまずその時点で18位に残った。ただ、やはり中島にそのことによる安堵や歓喜は見当たらなかった。なにしろ4着なのだから、そういうものだろう。また、得点率6・00は安泰とは言えない状況でもあった。それが頭にあったとしたらなおさら、ホッとしたりはできなかったはずだ。
勝負駆けについて押さえておくなら、10Rは、重成一人が5コースからまくり差して2着。3着条件だから、勝負駆け成功。池田に声を掛けながら、ヘルメットの奥の目が細く笑う。
3着条件はほかに村岡賢人、野中一平。しかしながら、3着の座はひとつしかないのだ(同着なら別だが)。3番手を走ったのは……村岡! 勝負駆け成功か、と思われたのだが、3周1マークで先マイを仕掛けた山口剛を外マイで交わし切れなかった。3周2マークは山口がしっかり先に回って、村岡は万事休す。これは悔しい! 硬い表情の村岡を、茅原悠紀が優しい笑顔で出迎えたが、村岡の表情は硬いまま。この悔しさは来年のびわこ甲子園で晴らせ!
11Rは秋元哲が1着で相手待ちになる状況。しかし、6着ではどうにもならない。レース後の秋元は少し脱力感がうかがえ、5着だった豊田健士郎とレースを振り返る際には実に力弱い笑みが浮かんでいる。やっちまった、そんな苦笑交じりの笑みである。
さて12R。桑原悠の逆転首位はあるか、片岡雅裕の2着条件など、トピックはさまざまあったが、毒島誠が逃げ、峰竜太が差し、池永太が握って①-②-③態勢。実に順当な結末となったのであった。そして、毒島が圧倒的な得点率トップ! 3年ぶり2度目の甲子園制覇にグググっと近づいた。桑原さえ封じてしまえば、仮に6着であったとしても得点率2位に落ちることはなかった。桑原以外は首位浮上の可能性がなかった。ということで、実にアッサリした雰囲気の予選ラストカードのレース後である。毒島も実に淡々としたもので、もし敗れていれば首位キープでも感情の波はあっただろうが、逃げ切り快勝ということで、特に表情を変えることもないのであった。いろいろあった勝負駆けデーだが、片岡は悔しかっただろうけど、最後はおおむね平穏でした。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)