BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

春嵐の興亡

12R優勝戦
①吉川元浩(兵庫)  05
②毒島 誠(群馬)    08
③土屋智則(群馬)    05
④宮之原輝紀(東京)07
⑤桐生順平(埼玉)   10
⑥平本真之(愛知)   13

 今節はパワーもリズムも運も節イチ候補と見ていた吉川が、最後のトラップに引っかかった。ジャスト1時間前から、狂ったように吹き荒れたホーム追い風。オフィシャル公表の風速は10m。直前11Rのそれは【向かい風5m】だから、ちょっとありえないほどの自然のトラップだった。
 それでも、コンマ05という最強レベルのスタートを切った元浩は、自慢の行き足でぐんぐん外の艇を引き離していく。

 これなら押しきれるな。
 スタンドの片隅で私がそう思った5秒後、1マークを回った吉川は激しく横転した。3コースからまくり差した土屋も、事故艇に乗り上げてエンスト状態に陥る。その間に、漆黒のカポックがバック最内を力強く突き抜けて行った。
 もちろん、吉川の敗因の大部分は「風」だったはずだ。少なくとも、11Rレベルの風であれば、相棒の36号機とともに1マークをしっかり舐めてそのまま逃げきった可能性は高い。レース後に1マークを何度かリプレイ検証したらば、吉川はターンマークをかなり外している。百戦錬磨の猛者であることを思えば、これもまた単なるターンミスではない、「風に煽られたターン漏れ」と考えた方が自然だろう。

「(勝因は、と聞かれて)風です!」
 一方、2コースからブッ差した毒島は、表彰式で間髪入れずに答えた。風がなければ、吉川に逃げきられた可能性が高い。この勝者も、そう思っていたからこその即答。だがしかし、毒島に3年4カ月ぶりのSG優勝をもたらした旋回は、1ミリたりともターンマークを漏らしていなかった。風に煽られたであろう吉川を、転覆の手前で完璧に舳先を貫いていた。読者の中には「吉川が転んだことによる恵まれ的な優勝」と思っている方もおられるだろうが、今日の毒島の決まり手は完全無欠の「差しきり」だったとお伝えしておこう。7度目のSG戴冠にして初めてのクラシック制覇、おめでとう、ブス君!

 うむ、レースは実質半周で終ったし、私自身も山崎郡42号が準優で負けてから廃人と化してるし、予想もボロカスに外れたし、もうこれでレースについて書くべき言葉(気力)もない。もう一言だけ加えるなら、「風の力、恐るべし!」か。
 4日目も10mを超える暴風が吹き荒れて、7R以降が中止になった。だから当然、7R以降の選手は風の影響を受けなかったわけだが、吉川の6号艇がなくなって予選トップとか、毒島も6号艇がカットされて予選3位とか、予選トップの可能性が低くなかった宮之原が2号艇カットで4位とか、水面下でV争いに与えた影響は計り知れないものがあった。

 しかも、この4日目の時点で、近年やたらと正確な天気予報は優勝戦の水面がこうなることをほぼぴったり予測していたのである。
【20日の16時あたりにちょっと雨が降って、それを境に10m前後の追い風が吹き荒れる】
 と。この予報を受けて施行者さんは早い段階で安定板を義務づけ、おそらく選手たちにも天候の激変を昨日から何度も伝えたはずだが、それでも自然の猛威に打ち勝つことはできず残念な事故が起こってしまった。誰のせいにもできない、ならない“自然災害”。もちろん、それは舟券を買う側にもそれなりの影響を与えるわけだが、ビギナーの方はよくよく覚えていただきたい。
――ボートレースと風は他の公営競技よりはるかに密接に影響し合い、選手には過酷な試練を与え、舟券には試練のみならず時に深いコクを与えることもある。

「(最大の勝因は)風です!」
 最高峰のレースの勝者が断言するファクターを軽視せず、過信せず、時には「舟券の相棒」として上手に仲良く付き合っていただきたい。(photos/シギ―中尾、text/畠山)