BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――進入からエキサイティング

●10R

 選手代表の林美憲が苦笑いしながら、遅れてエンジン吊りへと向かっていた。すれ違いざま「ゼロヨン!」と林。思わず「すげっ」と声が出てしまったが、際どいスタートに代表の立場として肝を冷やしたのである。すると、林は一拍置いて「すごいですよね」。勝負師としては、ペナルティも重くなったGⅠ準優Vで攻めた選手たちの凄さに思いを馳せることにもなるのだろう。そのゼロヨン=実際はコンマ03だったのは勝った吉川元浩。展示とは進入が変わりながら、トップスタートを決めてみせたのだからやはり名人級! 自身のコースがどこになるのか、石川真二のピット離れや徳増秀樹の腹の内次第でわからないほどの激戦のなか、「スタートは掴んでいた」と確信をもって(Fを切っていないというのも含めて)好スタートを決めたのは素晴らしいの一語だ。

 その吉川にのぞかれながらも攻めさせず、自身が攻め手となった赤岩善生は「勝って(優勝戦)3枠以内」を狙っての先まくり。吉川に差されはしたものの、優出にはしてやったりの表情を見せた。足の手応えも万全。スタートも見えていた。1マークも冷静に回れた。2着ではあったものの、優出を決めることができた高揚感は、表情からも、また記者会見の様子からも伝わってくるのだった。
 外枠になったことで、優勝戦ももちろん前付け。「江口さん、田頭さんが帰ってしまって、肩身が狭くなってきたけど」と笑ってみせたが、もちろんそんなことで怯む男ではない。「みんな百戦錬磨。いろいろ考えてくると思う。だから裏をかけるようなレースができれば」と、優勝戦も進入から盛り上げてくれることだろう。もちろん盛り上げるだけでは終わらせるつもりは、赤岩にはない。

●11R

 10Rで好スタートの話を書いたばかりだが、11Rでは勇み足が出てしまった。服部幸男だ。寺田祥が3カドに引いて2対4の進入。寺田が伸びるだけに、ついていければチャンスあり。その思いが前に出すぎてしまったか。真っ先に戻ってきた服部はやや淡々とはしていたものの、出迎えた東海勢がやはり沈痛な雰囲気だった。静岡支部や東海地区の精神的支柱でもある服部の痛恨に、空気が重苦しくなるのは当然というもの。その後、モーター格納作業をしている服部は、やはり沈鬱な表情になっていた。それを見たこちらも、なんだか気持ちが落ちてしまった……。

 勝ったのは3カドまくり一撃の寺田祥。足の特徴を見事に生かした勝利である。そして、その外から連動した谷村一哉が2着。山口支部の“新人”組がワンツー! 控室に先に帰ってきたのは谷村。待ち構えるカメラマンのレンズに控えめに会釈をして控室へと入っていった。そこに祝福にやって来たのは寺田千恵と岩崎芳美。先輩2人に称えられると、谷村も思わず相好を崩すのだった。

 寺田は6人のなかで最後に控室へ。白井英治と肩を並べて笑みを浮かべながら控室へとたどり着いている。控室へと入ると、谷村が着替え中。白井を交えて3人で、かなり高いテンションで話しているのが窓越しに見えるのだった。大将格だった白井は無念の一節となったが、レース場にも一緒にやって来た盟友のワンツーには高揚感しかなかっただろう。

 で、この時点で寺田は1号艇か2号艇となったのだが、寺田は吉川元浩のほうが予選上位と思い込んでいたらしい。1号艇の可能性があると聞かされて「エッ!」と絶句。さらには「これはまずいぞ……」と悩み始めた。つまり、寺田の足は伸びに特化されており、イン向きではないのだ。寺田自身は3号艇あたりでセンター戦と想定したようで、この足で内寄りは……と不安を覚えた。結局最後まで歯切れが悪く、優勝戦内枠に懸念を示すという珍しい会見になったのであった(笑)。ちなみに、谷村のほうも、同期の赤岩善生の前付けにどう対処するのかで口ごもり、やはり歯切れの悪い会見に。あれだけ盛り上がっていた山口コンビが悩んだまま会見を終ええるという不思議なシーンになったのだった。

 1号艇の濱野谷憲吾は、3カドまくりを浴びて大敗となってしまった。自身コンマ07のスタートも、さらに早いスタートを伸びのいい3カドに決められては厳しい。レース後の濱野谷は、まさに笑うしかないといわんばかりの苦笑まみれ。負けて笑っているのではない。それが言うまでもなく、おおいなる悔恨のあらわれだ。控室前で待ち構えるカメラマンたちに気づくと、濱野谷は苦笑のままペコリと頭を下げる。どうもすみません、と声なき声が聞こえてくる、そんな姿だった。

 それにしても、田村隆信の敗退もやはり残念! 地元マスターズに特別な思いで臨んでいただけに、悔しさを隠せないレース後だった。装着場にあるスリット写真を見ていたら、モーター格納を終えた田村が合流。スタート隊形を見ながら「濱野谷さんくらい行けてたらなあ……」と悔やんでいた。それでもコンマ12は、本来悪くないスタート。伸びのある寺田が3カドから攻め込んだのは、致し方ないところだろう。と話しても田村は「うーん…………うーん…………」とまるで納得がいかないように唸っていた。そのまま控室へと戻っていったのだが、どうしたって悔いは取り払われない準優だったのだ。

●12R

 菊地孝平がスリットからしっかり出ていっての先マイ完勝。フライングがあったレース後でも、きっちりコンマ07のトップスタートを決めるあたりが抜群のスタート力を持つ菊地である。自分の感覚を信じてスタートを決めたというから、腹の据わり方も完璧だったのだ。
 優勝戦1号艇をゲットしても「厳しい戦いが待っている」とまったく気を緩めた様子もない。もちろん不安を感じているのではなく、「勝つという強い気持ちで戦う」とこちらも腹を括っているわけである。実際、準優でも前付けがあるなかでしっかり逃げ切っている。明日も揺るぎなく、タイトルを獲りにいくことになる。

 2着は松井繁。前付けで4コースに入り、外マイで攻めての優出圏確保。優勝戦は準優と同じ5号艇だ。しかも6号艇に赤岩。「進入? 荒れるでしょうね」と嘯きつつ、「そのほうがチャンスがあるでしょう」と虎視眈々と狙う。そう、明日ももちろん動く! 王者の優出で、優勝戦はさらにさらに濃いものとなった。進入はおおいに悩みそうだけど、これぞボートレースの醍醐味だ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)