ウガァッッッッ!
1Rのスリットを全艇が通過した瞬間――いや、視線は1コース1艇に注がれていたか――水面際の“アリーナ席”で観戦していた選手たちが悲鳴をあげた。直後、スタート判定中の文字が対岸のビジョンに浮かび上がり、実況の不穏な声も届いてきた。
返還①。
「何やってんねん!」
上條暢嵩が苦笑いとともにそう叫ぶ。小池修平、フライング。まさかのSG初陣での勇み足である。上條や、そこにいた丸野一樹らはみな、小池の走り、もっと言えば、小池のSG初出走初勝利に刮目していたことだろう。しかし、結果は最悪なものとなってしまった。フライング艇は真っ先にピットに戻ってくるので、上條はやるせない表情でボートリフトへと駆け出した。
エンジン吊りに出てきた大阪支部の全員が、残念そうに顔をしかめていた。松井繁も。湯川浩司も。石野貴之も。それでも次々と慰めの言葉をかけていて、小池の表情には笑みが浮かぶ。少しは癒されたのだろうが……僕にはかえって胸の内を隠すための笑みに見えたのだったが。
F2になってしまったことで、今節はもちろん、しばらくは思い切った勝負には出られないのかもしれない。今後、次のSGがいつになるのかも不透明だ(勝率的には問題なかったダービーはF休みの見込み)。だが、実はあまり見た記憶がない「SG初陣F」を今後にどうつなげられるかが小池の未来のカギになるような気がしてならない。ともかく、Fを切ったからといって戦いが終わったわけではない。重い足かせだが、今節の水神祭を諦めないでほしい!
勝ったのは島村隆幸。こういう結末だから、やはりレース後は歓喜は見られない。でも、喜んでいいでしょう。だって、決まり手は「差し」なのだ。恵まれではないのである。そう、島村は小池をしっかりと差し切っていた。相手がたまたまFで欠場扱いになっただけなのである。堂々たる勝利!
さて、セット交換が行なえない今節、それでも整備室には選手の姿がある。なんかセット交換に我々もずいぶん引っ張られてしまっているが、セット交換だけが整備ではないのは当たり前のことである。抽選制になったキャリアボデー交換を、前検日に唯一行なった平本真之は、今日は本体を割っての整備である。ようするに、前検での感触が悪かったということなのだが、初戦となる8Rまでになんとか立て直そうという気合が見え隠れする。
地元の砦・原田幸哉も整備! いや、モーター本体を外し、キャリアボデーのあたりを丁寧に磨いていたので、ひょっとしたら交換なのかも。原田は今節F2での参戦。そりゃあやっぱりスタートには気を遣うことにはなりそうだが、しかし勝負を投げるわけにはいかないし、この男が投げるわけもない。整備の内容はともかく、初日から整備室に入ったこと自体が気合のあらわれだろう。
あと、試運転から上がってきた今垣光太郎が、そのままボートを整備室に運び込んでいる。こちらは本体を外し、さらにギヤケースも外したので、キャリアボデー交換で間違いないと思います(換えてみて良化していなければ元に戻すケースもあるので、直前情報はご確認ください)。今垣は今期、出走回数の関係でA2級となっている。そもそも成績での降級ではないのだし、レースに臨めば級別は関係ない。そして、いつでもどこでもブリンカーを掛けたかのように全力投球するのが今垣光太郎である。11Rまで、全力で仕上げを続けることだろう。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)