BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――整備など

 2R発売中に試運転に降りていった前田滉が、何週かした後、同じ発売中に陸に戻ってきた。ボートをリフトの近くに置き、整備室へ。やがて、整備士さんとともに整備室を出て、キャリアボデーのあたりを一緒に点検し始めた。どうやら試運転で気になるところがあったようで、それを整備士さんに確認してもらっていた様子。問題が解決したのか、整備士さんに「ありがとうございました!」と前田は快活にお礼。その時点ではすでに試運転停止の赤灯がついていたのだが、リフトの係員さんが「今ならいいよ!」と声をかけ、前田は「ほんとですか!」と速攻でカポックとヘルメットをつけて、リフトに乗り込んだのであった。試運転はできないが係留所には移動できる。3R発売中、すぐに水面に飛び出していける。
 前田が点検したのが何かはよくわかってはいないが、ボートレーサーたちの微細な部分への感覚やこだわりには本当に感服する。当欄でも西山貴浩や守屋美穂が艇番のちょっとした違和感にこだわって別のものに交換していたシーンを書いたことがあるわけだが、強いレーサーは特に完璧を追求する傾向があるように思う。あるいは、そうした細かいところに気が付くからこそ、強くなるということか。個々によって違いはあるだろうけど、どこまでこだわれるかもレーサーの重要な資質なのではなかろうか。

 西岡成美のボート周りでは、中村かなえ、小芦るり華がしゃがみ込んで会話を交わしていた。どうやら西岡がやはりどこか違和感を覚えたようで、前田と同じようにキャリアボデーあたりを見つめ、時に指さしたりしながら、話し込んでいたのである。もちろんそうした話し合いは実にいいことだと思うのだが、せっかくだから男子の強くて信頼できる先輩に聞いたらいいんじゃないかな、と思ったり。あるいは前田のように整備士さんとか。まあ、若手女子がなかなか上條暢嵩のような年長グランプリレーサーに話しかけるのは難しいだろう(近くにいました)。俺もその立場なら無理です。しかし、SGや記念にも顔を出す男子がいる機会というのは貴重だと思ったりするわけである。そういえば何年も前のヤングダービーで、渡邉優美が岡崎恭裕と長く話し込んでいたのを思い出す。渡邉は来月、ダービーに登場する。

 などとぼんやり考えていたら、整備室から大山千広が整備士さんと話し込んでいる声が聞こえてきたりして。SGや混合GⅠの場数を考えれば、それがそういう会話の大事さを学ばせたのかもしれないし、逆に言えばだから大山はSGなどでも走れるのかもしれない。などということをつらつら考える2日目午後イチのピットだったのであります。

 そんなことを考えている間、視野には常に栗城匠の姿が入っていたりもした。本体整備を整備室出入口間近のテーブルで行なっていたのだ。今節整備室のドアはオープンになっているので、そのテーブルで整備をしていると自然に視界に入ってくる。栗城については昨日、レース後に素早くギヤケース調整を行なっている様子をお伝えした。それに飽き足らず、今日は早くから本体を割ったわけである。というか、昨日はもう時間もあまり残されていなかったからギヤ調整にとどまっただけで、ハナから本体整備を考えていたということなのだろう。8R1号艇は何があっても負けられない、そんな気合が感じられる整備である。

 大きな整備をしていたのは栗城くらいで、多くはプロペラ調整に取り組んでいる。調整所の人口密度は昨日よりかなり濃くなっているように見受けられる。そんななかで目立ったのは仲谷颯仁。出入りが激しいのだ。もちろんそれは、ペラ叩いて試運転、いったん切り上げてペラ、またもや叩いて試運転、の繰り返しということである。ドリーム戦は4着。最悪の結果ではなかったものの、ピット離れは遅れるし、手応えはいまひとつのようだったし、だからとにかく慌ただしく動きまくっているわけである。それは実績上位でもあり、人気を背負う立場である仲谷の、責任感のようなものに根ざしている動きではないかと思った次第だ。しかも、これが最後のヤングダービー。生半可の仕上がりで納得するわけにはいかない、そんな気合が感じられるわけである。どこまで引き上げることができるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)