BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――強ぇえ!

 オールスターのように、東京支部は佐藤隆太郎ひとりだけ、というケースは別として、同支部から複数出場、それも3人以上で、全員が優出したSGってあったのだろうか? すぐに記憶が辿れないが、しかも地元からの出場選手が全員である。準優が終わった時点でそれはわかっていたのだが、優勝戦のピットアウト目前に改めて実感することになった。
 もし彼らの誰かが優勝したとき、祝福の出迎えをする同支部の選手が不在、なのである。たとえば、片岡雅裕には森高一真がいた。峰竜太には宮地元輝と山田康二がいた(上野真之介は先に帰郷した模様)。地元SG制覇という歓喜を、分かち合う選手が彼らにはいないのである。
 事実を書けば、群馬支部と東京支部、関東地区の若手選手は居残った。エンジン吊りなどもあるから、その要員としてということだろう。あ、ベテランだけど齊藤仁も。仁さんは残るよなあ。ただ、ピットアウトして、選手たちが水面際にずらり陣取ったなかに、3人も出場した埼玉支部の選手がいないというのは、なかなか異様な光景。
 そしてこれはつまり、本当に本当に、快挙だったのだ!

 しかし、その3人のなかから優勝は出なかった。中田竜太が準V、桐生順平が佐藤翼を逆転して3着。2~4着を地元勢が占めた。もちろん、まったく喜べない結果である。優勝者を除いた上位を占めたので、奇しくも陸に上がってくるボートリフトにはその3人が並んだ。無念の光景。まずは個人個人が悔しさを噛み締めるわけだから、隣に誰が乗っているかは誰も意識していなかったと思う。だが、それを外野から見ているこちらには、少しせつない光景と映った。

 とにかく全員が悔しがっていた。中田竜太の顔には苦笑いが貼りつき、佐藤翼は先輩に3着逆転されたこともあってか、かなりカタい表情。桐生順平は何度も溜息をつき、リプレイを映し出すモニターから目が離せず、モーター返納に向かう際には頬を膨らませる様子もあった。

 桐生はスリット写真を見て、「だっせー!」と大声をあげてもいた。コンマ22。ペナルティがどんどんと厳しくなっていくなかでは、致し方ないと思う。しかし、戦った本人はそうは思えない。地元SGの優勝戦なのだ。キワを攻めるつもりはないにしても、もう少し前にいられなかったか。そんな思いになったとしても無理もないというものだろう。
 返納が終わったとき、桐生と中田は顔を見合わせて苦笑いを交わしてもいた。中田はSG初優出。悔いのない戦いができただろうか。おそらく、お互いの表情を見て、その内心はある程度理解しあったことだろう。もちろん自分が勝ちたかった。だが、終わってしまえば、誰かが結果を出せれば。そんな共通の思いもあったかもしれない。

 池田浩二を出迎える面々は、平本真之、磯部誠、吉田裕平。彼らはやはり水面際で偉大なる先輩のレースを見守った。逃げ切り。その瞬間、彼らは沸き立った……というわけではなかった。笑顔は見せたが冷静なのだ。3周目に突入した頃、静かに立ち上がって凱旋する係留所へと下りていく。磯部は何度か手を叩いていたが、やはり高揚感は見えない。彼らは静かに先輩の優勝を見届けたのだった。

 つまり、池田浩二のSG優勝は何も特別なことではない、ということだ。これが11回目のSG制覇。現役では2位タイとなった。そうした数字を持ち出すこともなく、彼らは池田先輩のひたすら強いところをずっと間近で見てきた。平本も磯部もSGウィナーではあるが、まだまだ池田先輩を超えられない、そんな思いも強いだろう。
 だから、彼らが冷静だったということは、池田浩二への最高の敬意なのである! そして、池田の強さの証明でもある。やっぱり、池田浩二は強い!

 そんな池田は、優勝記者会見で「出来すぎ」と開口一番、言ったのである。たぶん、誰もそんなことは思っていない。選手仲間も、我々報道陣を含むファンの方々も。それはちょっと謙遜しすぎではないかと思ったりもするのだが、池田は年齢のことも口にしていた。池田もマスターズ世代に突入し、ベテランの域となった。なにしろSG初優勝は22年前のグラチャン。それだけ長きにわたって一線を張り、強くてイキのいい後輩の台頭を目にしていれば、年齢を意識させられる局面もあるだろうとは理解できる。
 それでもなあ、出来すぎという言葉はまったくしっくりこないですよ、池田浩二! 仲の良い西山貴浩も、レース場を去るときに、こう叫んでいるのだ。
「あの人、強ぇえ! ほんとに強ぇえ! アッパレ!」
 池田は「西山には言われたくない」と言うのかもしれないが(笑)、選手仲間がどれだけ池田浩二の強さを間近で実感しているか。西山の言葉はつまり、他の全選手の言葉でもある。

 というわけで、我々はまったく出来すぎだとは思っていないので、これからも強い池田浩二を見せつけてもらいたいと強く思う。ピットに帰還して見せたとびきりの笑顔。それをまだまだ見せてもらわねば。池田はこれが戸田初優勝で、23場目の優勝となった。コンプリートへ、残すは若松。若松といえば8月のボートレースメモリアルの開催場だ。2カ月後、24場制覇も達成して、またその笑顔を見せるというのはどうでしょう?(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)