BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――笑顔満開!

●11R

 同じく4号艇、4コースまくりで優勝した22年レディースオールスター。あの時の守屋はレース後、涙を見せている。では今日は?
 笑顔満開! 昨年はSGオールスター準優Fがあって、レディースチャンピオンも、レディースチャレンジカップも、クイーンズクライマックスも不在となった(シリーズには出場)。女子ビッグだけでなく、SGや混合GⅠからも遠ざかった。その鬱憤を晴らすかのような、4カドまくりでの優勝。さまざまな思いも沸き上がってくるか、と思いきや、守屋はただただ「本当に嬉しいです」と喜びを表明するのみであった。

 守屋が見ているところは、やはりここではないということなのだろう。女子賞金ランクも、平高奈菜とは30万円ほどの差で、優勝戦の結果次第ではトライアル初戦1号艇の座を明け渡すことになっていた。それを優勝というかたちでしのぎ切った。だが、それもまた特に意識していなかった、ということかもしれない。
 優勝後の囲み会見でも、取り立てて大きなことを言ったり、感慨にふけったりすることもなかった。笑顔は見せていたけれども、その意味では淡々としていたと言ってもいい。

 周囲は本当に嬉しそうだった。仲良しの松尾夏海は守屋がまくり切った瞬間にガッツポーズ! ピットに戻って来た守屋には抱き着くようにして、熱いハグを交わしている。出迎えた寺田千恵もニコニコ顔で拍手を送った。吉田拡郎も野太い声で祝福の言葉を送った。なにしろ1号艇は遠藤エミである。巨大な敵を鋭い攻撃で倒したことは、守屋ももちろん嬉しかっただろうが、周囲もテンションを上げる出来事だったわけである。

 遠藤は守屋の肩をポンと叩いて、祝意を示している。しかし、表情はカタかった。1号艇で敗れたとあれば、その表情はむしろ自然なものだ。守屋を称える気持ちはあれども、悔しさは募る。

 2着に入った平高奈菜もまた、悔しさを隠していない。むしろわかりやすいほどに、顔をしかめてもいた。12R発売中に、平高は管理解除となって帰郷しているが、そのときにも顔をしかめる場面があった。まあそれは別のことに対してだったかもしれないけれども、しかし傍目には連続性をもって映ったりもしたのである。

 唯一、13位以下からの逆転を狙った細川裕子は及ばずの4着。3番手の遠藤との差を詰める場面もあったが、そこまでだった。視線を下に向けて、やや肩を落としながら戻っていく姿はやはり痛々しさがあった。クイーンズクライマックスの常連の一人である細川としては、シリーズ回りを強いられるのはやはり屈辱的であろう。12Rの展示から戻って来た池田浩二に「頑張って」と声を掛けていたが、どこか力弱い声に聞こえたのは気のせいだっただろうか。

●12R

 15年8カ月ぶりのSG制覇である。10年ボートレースクラシックでSG初制覇。それから、常に第一線で活躍してきたのに、なかなか2度目のタイトルには届かなかった。そのクラシック制覇は、「やまと世代」のSG初制覇と喧伝された。ボートレーサー養成所が、富士山の麓の本栖湖から福岡県柳川市のやまと学校(当時)に移転し、そこで入所→卒業してレーサーになった選手を当時「やまと世代」と呼んでいたのだ。ちなみに90期以降の選手を指す。そのやまと世代からいの一番にSGウィナーとなったのが、91期の山口剛だったのだ。

 それから15年8カ月の間には、山口の後輩たちがビシバシとSGを獲り、やまと世代1期生=90期の石野貴之は11回も優勝を重ねている。いまややまとで育った選手がSGでも多数を占めており、やまと世代という言葉は死語のようにもなっている。そうした同世代や後輩の活躍を横目で眺めながら、山口はどんな思いでいたのだろう。そして、ついに2つめのタイトルを手にしたこのチャレンジカップにどんな感慨を抱いたのだろう。

 表彰式でも突っ込まれていたが、山口は笑顔満開! そう、もしかしたら涙を流すのではないかと見ていたのだが、そんな素振りは1ミリもなかった。山口曰く、「実感が湧かない」。そして、「ここじゃないんだろうな、と思った」とも。これだけのブランクを埋める勝利は、とてつもない感動を呼び起こすのかと思いきや、そうではなかった。求めているのはこれではなく別にある、それはまだかなえていない、ということだ。
 それを山口は記者会見でグランプリと言った。そこを勝つまでは、山口には真の達成感は訪れないということなのだろう。もちろん、チャレンジカップを優勝したこと、SGを獲ったことは嬉しい。だからもう、笑顔満開! 今日の福岡の終盤はひたすら笑顔で彩られたということだ。

 まったく対照的だったのは、池田浩二だ。1号艇で敗れては、笑えるわけがない。エンジン吊りの間、磯部誠や吉田裕平、大峯豊らが池田の言葉に耳を傾けて、顔をしかめていた。池田がどんな思いを口にしていたのか、あるいは何が起こったかを話していたかは、おおよそ想像できるだろう。モーター返納に向かう際には、露骨に渋面を作っていた池田。とてつもなく悔しい敗戦だった、ということである。

 4着の茅原悠紀も、やはりモーター返納に向かう際には複雑な表情を見せていたのだが、返納を終えて控室に戻る際には、なんとガッツポーズを見せている。そのココロは、というところで本人には確認していないのだが、ひとつ言えるのは、茅原はこの4着で賞金ランク1位を死守! 池田の追撃をしのいで、首位のまま住之江に向かえるのである。今日は敗れたとはいえ、この勢いは大きいかも! 
 今日の優勝戦メンバーは全員、グランプリでふたたび相まみえる。最高峰の舞台での再びの真剣勝負を、他の12人も含めて、おおいに期待することとしよう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)