BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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賞金王ファイナル 私的回顧

2人の最強者

 

'12R 進入順

①池田浩二(愛知)12

②中島孝平(福井)14

③新田雄史(三重)13

④毒島 誠(群馬)15

⑥田村隆信(徳島)19

⑤篠崎元志(福岡)17'

 

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 池田が勝った。

 今節の池田も、いつも通り強かった。いや、いつも以上に強かった。

 賞金王ファイナルを、私ははじめて2マーク側のスタンドで観戦した。いつもは1マーク側でスリット後の攻防を楽しむのだが、今日は2マーク側と決めていた。

 田村がどこまで他艇を脅かすか。

 それで今日のレースのあらかたが決まる。そう確信していた。楽な進入になれば、池田の逃げきりが濃厚になる。逆に、もつれればもつれるほど6艇の勝機が均等になってゆく。田村のアタマ舟券だけを買っている私は、もちろん後者の展開を祈った。

 

 

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 ファンファーレ。6艇が一気にピットから飛び出した。それだけで大歓声なのに、田村の動きを見てスタンドは騒然となった。田村が、小回り防止ブイをほぼ全速のモンキーで旋回したのだ。これまでのすべてのスタート練習、スタート展示を含めて、もっとも激しい攻撃。生半可な抵抗では、間違いなくインが奪える。そんな勢いだ。仮に、池田が本気で抵抗すれば、2艇がどれほど深くなるのか。見当も付かない。

 だが、バック水面をぶん回す田村に飛び付いたのは、4号艇の毒島だった。田村もモンキー、毒島もモンキー。もはやそれは待機行動ではなく、本番レースの2マーク大競り、そのものだった。スタンド沸騰。

「やめろーーー!!」

「ブス、サイコーー!!」

「タムラ、負けんなーー!!」

「カッコイーーー!!!!」

 

 

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 どこかの女性が叫んだこの「カッコイーーー!!!!」は、書いている今も耳にこびり付いて離れない。とにかく、凄まじい歓声だった。が、それも2、3秒後には落ち着いてしまう。

 ピット側へと跳ね飛ばすような毒島のモンキーを喰って、田村は静かにスピードを緩めた。この瞬間、トリックスター田村の野望はほぼ潰えたと言っていい。2艇の大競りを尻目に、池田、中島、新田がゆっくりとホーム水面に入る。田村自身も、スタート練習(80~90m起こし)よりはるかに余裕のある待機行動になった。が、これは田村にとってさほどありがたいメリットではない。池田はじめ、内枠のアドバンテージの方が何倍もでかい。そして、深い進入にこだわり続けた田村は、スタート勘の補正もしなければならない。

 

 

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 元志だけが艇を引いての、穏やかな12346/5。池田が勝つ。私はほぼそう確信し、それから唯一の紛れる展開を思い描いた。スタート練習で田村を警戒し、深インの特訓を積んできた池田にとっても、この待機行動は想定外なのではないか。昨日、コンマ41というドカ遅れをやらかした池田が、またしても勘を狂わせるのではないか。

 池田が負けるとしたら、それしかない。

 12秒針が回った。まずは元志が目の前を猛スピードで駆け抜け、スローの5艇もほぼ一斉に動きはじめた。スタート。池田の舳先が、頭ひとつ抜け出していた。そして、田村の艇が頭ひとつ凹んでいた。

「池田だっ!!」

 

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こう叫んだのは、5人や6人ではなかった。私は叫ばなかったが、ピアノの連弾のようにあちこちで響く叫び声に同意した。そこからは……私が咄嗟に思い描いた脳内レースを正確になぞってゆく。池田が逃げ、中島が差し、新田がまくり差した。もちろん、池田には届かない。あのスリット隊形で、いかなる攻撃をも浴びる男ではない。あっという間に、2艇身突き抜けていた。強い。いつも通り、強い。そして、今節はトリックスター田村の存在があったからこそ、まったく動じないイン逃げはいつも以上に強く見えた。勝ち時計は、1分44秒8。それまでの71レースとは別次元のタイムで、池田は二度目の賞金王のゴールを通過した。

 ピットへと帰還する池田に、2マーク側にいたほぼすべての観衆が拍手と祝辞を送る。池田は両手を上げてその歓声に応え、さらに立ち上がってまた両手を上げ、さらに両手を挙げたままボートの上で2度ぴょんぴょんと飛び跳ねた。最近、池田が妙に人間臭くなってきたような気がするのは、私だけだろうか。

 

 

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 そして……6番目にピットに帰還しようとする田村にも、暖かい拍手が送られた。今節、この男がいたからこそ、進入から激しい緊迫感と高揚感が生まれ、道中での激闘へとつながった。私はそう確信している。田村隆信がいた2013年の賞金王決定戦は、信じられないほど面白かった。

「やっぱ競艇は進入だな、進入でだいたい決まるんだよ」

 レース後、若者が若者に熱くこう語っていた。その通り。心の中で頷く。今日は田村の前付けが阻まれたことで、内寄りの艇が俄然有利になった。もしも、あの超高速モンキーに誰も抵抗できなかったら、今日の進入と結果はどうなっていたか。今日は幻となったが、そんな凄まじい光景が、いつかSG優勝戦で見られることだろう。4000番台では最初の、そして最強のトリックスター田村隆信がそこにいれば。(photos/シギー中尾、text/畠山)