BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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尼崎オールスター優勝戦 私的回顧

ヒーローの分岐点

 

12R優勝戦

①平本真之(愛知)10

②重成一人(香川)15

③松井 繁(大阪)14

④峰 竜太(佐賀)13

⑤岡崎恭裕(福岡)09

⑥服部幸男(静岡)23

 

 このシリーズがはじまるまで“脇役”的存在だった『ファン投票ではコレナインジャー2号』が、スーパーヒーローたちをなぎ倒して頂点に立った。推薦枠での優勝は、オールスター史上はじめての快挙だとか。おめでとう、平本真之!

 

 

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 楽なイン逃げではなかった。むしろ、絶体絶命のピンチだった。1マークを回って、いちばん優勝に近かった選手は岡崎恭裕だ。このファイナルの正念場で、岡崎は誰よりも完璧なレースを見せた。コンマ09のトップスタート、峰竜太にツケマイを浴びせながらの高速まくり差し。狭い狭い艇間を、まったく怯むことなく決め撃ちで突き抜けた。あのスリット~1マークは、SGを優勝するに相応しい10秒間だった。

 だが、現実の勝者は違った。バック直線で、岡崎から平本に移った。変えたのは、平本自身だ。平本のレースを振り返る。スリットはコンマ10ほぼ全速で、これは文句なし。行き足も上々で、1マークまでに他艇より1艇身近く抜け出した。だが、この余裕が平本の心に迷いを生じさせたのだろう。ターンマークに寄り過ぎ、スピードとハンドルワークが噛み合わず、ターンの出口で舳先がピョンピョンと何度か浮き上がった。わずかなミスを犯した平本と、120%完璧なターンをした岡崎と。もしも勝者が岡崎なら、私はこのわずかな差を分岐点として記しただろう。

 

 

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 バック直線、入り口。ここでの平本の行動が秀逸だった。隊形は内に岡崎、中に1艇身遅れで重成一人、外に平本。内外の艇間は10mほども離れていたと思う。

「このまま直進したら、岡崎に差される!」

 遠目の目測でそう判断した平本は、迷うことなく左ハンドルを入れる。重成の舳先をかすめるように交差し、内から伸びる岡崎を一気に絞め込んだ。激しく寄せられた岡崎の艇はその反動で左右に揺れ、失速を余儀なくされた。あっという間に2艇身の差が開いた。この平本の判断と決断の早さ速さが、今日の勝因のほとんどと言っていいだろう。もう数秒でも直進していたら、平本の艇が暴れた分だけ内の2艇に伸びられ、岡崎はおろか重成すらも絞り込めなかったはずだ。

 

 

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まさに、優勝するにはこれっきゃない、というギリギリかつ絶妙な絞め込みだった。サヨナラ逆転満塁ホームラン級の絞め込み。よくぞ、あの状況で身体が反応したものだ。いつもニコニコ、人懐っこい笑顔&性格で知られる平本だが、その体内には肉食系の野獣の血が混じっているのだな。そうじゃなければあんな芸当はできないし、単に「草食系のいいヤツ」がおいそれとSGを獲れるはずもない(「瓜生正義はどうなんだ?」と聞かれたら言葉に窮するが……笑)。

 エキストラ級の脇役から、正義のスーパーヒーローへ。その振り幅が大きければ大きいほど、ヒーロー物のドラマは盛り上がる。今日の優勝で『コレナインジャー2号』は賞金ランク2位まで浮上した。このトホホな名前のヒーローが、どこまで昇り詰めるか。年末までその“変身”ぶりを楽しませてもらうとしよう。うん、その賞味期限は今年限りだな。来年以降、平本が『コレナインジャー』を名乗ることは、おそらく二度とないはずだから。

 

 

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 そしてそして……このブログを読んでいる?という噂のある岡崎よ。『コレナインジャー』と互角以上に渡り合った今日の『キレンジャー』は、勝者に負けないくらいカッチョいいヒーローだったぞ。今晩は、思いっきりヤケ酒を飲みなされ。飲んで呑まれて泣きわめきなされ。でもって、また明日からてっぺんのスーパーヒーロー目指して、頑張りなされ!!(photos/チャーリー池上、text/畠山)