BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――全国制覇へ!

10R 光ちゃん優出!

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「うわーっ!」
 永井彪也の差しがずるりと滑った時、装着場のモニターでレースを観戦していた中野次郎が悲鳴をあげた。自身は準優出できなかったが、そうなれば気になるのは愛弟子のこと。しかし優出が絶望となったその瞬間、たまらず天を仰いだというわけだ。
 もちろん、永井自身が最も悔しい。5日目はレース後に洗剤を使ってのボート洗浄が選手一丸となって行なわれる日だが、永井はその間もずっと暗鬱な表情のままだった。その横で、中野も意気上がらぬ表情。言葉を交わさずとも、師弟は同じ思いを共有していた。

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 2着で優出の瓜生正義は、前沢丈史とにこやかにレースを振り返った。3コースの茅原悠紀が攻め、4コースの前沢にも展開が向いたように見えたが、その上をまくり差していったのが瓜生。2マークでは前沢が渾身の先マイ見せるも、瓜生が悠々と捌いている。そのあたりの展開、足色の差などについて語り合ったのだろう。前沢としては脱帽といったところだったか。
 瓜生も実は元高校球児。ただ「高校時代は甲子園にとても手が届かないところにいた(笑)。ボートでは優勝を目指したいですね」。優勝戦は6号艇。まずは進入に注目したい。

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 今垣光太郎の地元ビッグ準優1号艇といえば、どうしても15年オーシャンカップを思い出す。あのときも10Rだった。そして、激しい2番手争いを演じ、ハナ差の3着。ボート上でがっくりと首を垂れたのはやはり忘れられない。SGとGⅡの違いはあれど、今回は見事に逃げ切り! 地元の意地を示したと同時に、甲子園連覇がつながる勝利となった。特に歓喜をあらわしたりはしていないけれども、いろいろな意味で安堵できる結果となったことだろう。
 今垣はそれに加え、「まだクラシックの権利がないので獲りたい」ともうひとつの目標も口にしている。3号艇なら3カドもあったのだが、優勝戦は結果2号艇。出足に寄せる仕上げを選択することになるだろう。

11R 甲子園があるのは兵庫県

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 ピットに戻ると、篠崎元志がヘルメットを脱いで、すぐに吉川元浩のもとに向かって頭を下げている。1周目バック、2番手争いとなったのは篠崎と田村隆信で、両者で吉川の外に換わろうとしたとき、篠崎の舳先がわずかに吉川のモーターと接触し、一瞬だけ吉川のバランスが崩れているのだ。大事には至らなかったが、篠崎としては看過できないことだったのだろう。

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 吉川はどの場面を謝罪されているのかをすぐに察して、右手をあげ、左右に振った。ぜんぜんどうってことないよ、と篠崎に気にすることがないよう、逆に気を遣ってみせたのだ。篠崎はもう一礼して、ボート洗浄へ。吉川も何事もなかったように、洗浄を始めている。

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 結果的に吉川は1号艇なのだが、よくよく考えれば甲子園球場があるのは兵庫県ではないか。実はこのタイトルにゆかりのある選手ともいえるわけである。記者会見では、兵庫県代表として、と問われ、「そんなんはなんもないよ(笑)」と目尻を下げた後、まるで言わされたかのように「全国制覇できるよう頑張ります」と言って、たまらずに吹き出している(笑)。甲子園うんぬんの前に、吉川にとっては勝つべき、勝ちたいレースのひとつ、なのである。

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 篠崎を制して田村隆信が2着を獲り切っている。ボート洗浄を終えると、篠崎を含むほかの選手たちに、笑顔で頭を下げていた。
「明日は事故、ケガをしないように」
 田村は会見でそう語っている。当たり前のことといえばそうだが、田村に関しては大きな意味がある。次節は、待ちに待った地元鳴門SGなのだ。16年、17年の鳴門SGには田村を含む地元勢の参戦はゼロだった。半世紀以上もSGが行なわれなかった鳴門にやっと来たSG。なのに、徳島勢は、そしてエース田村は出場していないのだ。鳴門オーシャンが決まってから、田村の照準は圧倒的に鳴門に絞られていた。それが、次節にあるのだ。足かせを着けるわけにはいかない。
 しかし、それは勝利を目指さないという意味では決してない。落ち着いて走ることは、展開を冷静にとらえることにもつながるのだ。なにしろ、左隣には超抜パワーが入ることとなった。ある意味、最も美味しい位置が手に入ったのだ。肩に力を入れすぎることなく突き抜けて、鳴門SGの景気づけを果たす可能性は十分にあるだろう。

12R 足ではなくレースで負けた

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 萩原秀人が、まさかの2着に敗れた。その伸びの強烈さは予選でいかんなく発揮してきたが、「唯一敗れるとしたら、これだった」という出足の甘さを峰竜太に突かれた。そう、ピンポイントで敗戦が転がり込んできてしまったのだ。だから、萩原としては「峰くんを褒めるしかない。レースで負けた、って感じですね」ということになる。バーチャル開会式で「やる気と野望は家に置いてきた」と言い、「地元だから、というのもあまりない」と必要以上に入れ込むことはないけれども、しかしレースで負けた、あるいは峰竜太に負けた、というのはやはり悔しい。ひとつひとつの言葉に、わずかながら苛立ちもまぎれているように聞こえた。
 ただ、あの伸び足を見ていると、優勝戦4号艇は決して不利ではないし、むしろ内枠勢にとっては脅威ではないか。3日目の3コースまくりを決めた時が最も伸びていたと証言しているが、その足に戻すことができれば、昨年の甲子園優勝戦で今垣先輩が決めた4カド一撃は十分にあるだろう。

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 なにしろ、勝って優勝戦3号艇になった峰竜太が「華麗にまくられます」と断言(?)したのだ(笑)。勝ってゴキゲンな峰の軽口に近い言葉ではあるが、もちろん萩原の足をおおいに警戒しているわけである。なお、「もし萩さんを止められたら、100%まくり差し。バレても突き抜けるやつ(笑)。えっ、明日は風が追い風に変わる? だったら4割ツケマイ。いや本当は6割ツケマイ(笑)」と話が右往左往。やっぱりゴキゲンなのである。結局は、レースになれば体の趣くままにものすごいハンドル入れてくるんだろう。

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 で、峰は地元で予選トップの萩原を差し切って、喜びとともに、気遣いも見せていた。さぞかし大笑いでピットに帰ってくるかと思いきや、ボート上での表情からは歓喜を見せず、ボートリフトで萩原の隣に乗ると、申し訳なさそうに頭を下げるのであった。萩原の悔しさが想像できるからこそ、自分の勝利の喜びよりも萩原の心中を慮ったのだろう。ただのアロハ男ではなく、相手を思いやることもできる男なのだ。
 と言いつつ、記者会見ではやっぱりゴキゲンで、締めの言葉は「ボートレース代表として、アロハの精神で頑張ります(ニッコリ)」。意味わからん(笑)。きっと頭に浮かんだことを脊髄反射でしゃべったんだと思います。ようするに、峰竜太、絶好調!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)