新鋭王座といえば、水神祭!
これがGⅠ初出場となる選手も多いため、
毎年たくさんの水神祭が行なわれている。
このいちばん寒い時期に大変だ……
いや、そこは嬉しさと若者の熱気が勝って、
盛り上がり方も実に若々しいものである。
初日から、GⅠ初1着が4本も飛び出して、早くも水神祭ラッシュ! 1R1着の前沢丈史、6R1着の大野芳顕、7R1着の深谷知博、
そして11R1着の前田将太。前沢は初出場だった昨年は
未勝利に終わっていて、2年越しの水神祭である。
この4つの水神祭は、11R後にまとめて行なわれている。
前沢と深谷が11Rとの2回走りで、
勝った前田も含めて3人がこのレースに出走していたのだ。
大野は1回乗りだったが、ここで一気にということになったらしい。
大野は前沢と同期、結果的に初1着となった前田が
後輩ということも関係していたようだ。大挙11名参戦の福岡勢は、
11R後にはさっそくリフト付近に集合していて、
雰囲気から察すると、前田と一緒に投げ込んでしまおうという目論見があったようである。 ただ、前田は勝利者インタビューに出演しなければならないため、なかなかリフト前にはあらわれなかった。
「よーし、大野を先にやっちゃおう!」という里岡右貴の号令で、
初日水神祭ラッシュの口火を切るのは大野芳顕に決定!
気温3℃、水温2℃という酷寒のなかの水神祭、開始~~!
大野の巻の中心はもちろん福岡勢。
ドリーム戦出走の西山貴浩以外は全員が参加して、
さらに97期勢もその輪に加わっている。
ウルトラマンスタイルで水面に放り投げられた大野だが、
さ、さ、さっむーーーーいっ! 見ているだけで芯から凍えるような
錯覚を覚える、真冬の水神祭。大野も大急ぎで陸によじ登り、
体を抱えて震えているのであった。
それを見て、仲間たちはもちろん大笑いだ。
間髪入れず、前沢の巻! 水摩敦が「東京!」と
前沢の支部仲間を大声で呼びながら、
自分もその輪から離れるつもりはない様子。
東京支部だけでなく関東地区がずらり揃って、
こちらはワッショイスタイルで敢行されている。
中田竜太、秋元哲が呼ばれて前列にハマったのだが、
まさか一緒に落とそうってつもりじゃないでしょうね……。
今日はやめてあげてーっ!
でもやっぱり、若い二人を突き落そうという素振りを見せていた
非情な先輩たちでありました。中田&秋元はキャッキャ言いながら
逃げ、落とそうという先輩たちもキャッキャとはしゃぐ。
さあ、テンションがさらに上がってまいりました!
立て続けにいこう、前田の巻!
関東勢が輪から離れると、ふたたび福岡勢が勢揃い。
同期の山田康二、上野真之介、桑原悠らの九州若手軍団の顔も
見える。彼らからウルトラマンスタイルで持ち上げられた前田は、
冷たい水の中にドッボーーン。
そして陸ではまた、誰かを突き落そうという画策がなされ、
キャッキャ言いながら押し合いへし合いしていたのでありました。
ここで九州勢は退場。主役は静岡&東海勢に移って、
深谷の水神祭が敢行された。若林将が「ヤマコー! 同期だろ!?」と
参加をうながすが、いえ、山田康二は102期、深谷知博は103期です。ヤマコーも怪訝な顔で「えっ、違いますけど……」と笑っていた。
もっとも、私は深谷のほうが先輩かと勘違いしてましたが。
水神祭ラッシュのトリを飾った深谷は、
ワッショイスタイルで水中へ。仲間の拍手が沸き起こり、
深谷は震えながらも嬉しそうに頭を下げていた。
11R終了後のピットは、若者たちのテンションがうなぎ上りとなった
熱狂の時間帯。そして、深谷が控室へと消えていくと、
ピットは祭りの後のような静けさに覆われているのだった。
その静けさを境に、ピットはまったく違う空気に
包まれることとなった。
12Rドリーム戦。山口達也がまさかの出遅れを喫してしまったのだ
(選手責任)。ピットにいる者も、一瞬何が起こったのか理解できず、
しかし岡山勢は一足先に帰還する山口を出迎えねばならない。
その頃、水面では同門の茅原悠紀が先頭を走っていたのだが、
そちらに気を取られている場合ではなかったのである。
あまりに不本意な終戦に、山口は肩を落としてピットへと戻ってきた。
後輩たちは、気軽に声もかけられない様子で、
黙々とエンジン吊りの作業を行なっている。
そこへ、ドリーム戦を戦い終えた5名が戻ってくる。
1コースを守り切り、もっとも前方から起こしている茅原には、
先輩に何が起こったのかなど知る由もなく、
ただただ複雑な表情を見せていた。
ドリーム戦勝利の歓喜はどこにも見えない。
他の選手たちも、何が起こったのか、
ほとんどわかっていないようだった。
平本真之が歩み寄り、山口と状況を振り返り合う。
その平本が西山に説明をし出すと、
西山は「えっ、うそっ、俺が×◎○?!%」と
後半が聞き取れなかったが、驚きながら表情を曇らせていた
(山口は西山の引き波にハマって給水したらしい)。
桐生順平は、何も言わずにそっと山口の腰を抱く。
山口がレースに参加できなかったことをめぐって、心を痛めたり、
山口をいたわったりと、そこにはドリーム戦の華やかさなど
入り込む余地など少しもなかったのだ。
そんな空気のなか、山口はうつむきながら一人、
控室へと戻っていっている。いや、その前に競技本部か……。
その余韻を引きずってか、カポック脱ぎ場にも、
レースの感想戦を語り合う笑顔は見えなかった。
勝者も敗者も、苦笑交じりではあっても、
ここで笑顔をかわすことが少なくないのに……。
西村拓也もまた、淡々と報道陣の質問に応えるのみだった。
わずかな時間に明と暗が同居し、
空気を入れ替えてしまった初日の終盤戦。
どちらも新鋭王座の風景、勝負の世界の風景ではあるが、
若武者たちの戦いにはやっぱり若者らしい
はしゃぎ気味の空気がふさわしいように思う。
山口も今日を吹っ切り、他の選手も次なる戦いに気持ちを切り替えて、明日はハツラツとして笑顔を見せてほしいぞ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)