BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――三羽烏よ!

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「動かざること山の如し」

 新プロペラ制度導入後、湯川浩司はそのスタイルでやって来た。しかし、やはり動かさなければならないと考えるようになった。山は簡単にうごくもんやなぁ、うん。

 というのが開会式での湯川のコメントの意訳。ようするに、当初は特に調整やペラ叩きをせずに戦ってきたが、記念やSGではさすがにそれでは勝てないので、また調整をするようになった、ということ。そして、今日のまくり1着後、湯川はふたたび「山は動かず」と表明している。 山は動かないんですか、と直撃すると、「山は簡単にうごくもんなんや……」と遠い目で呟く湯川。あら、明日もやっぱり動かすの?「明日次第やなぁ……」とふたたび遠い目。本来、ここで湯川のコメントの真意を問うのは野暮ってもんなのだが、いちおう聞いてみることにした。すると湯川、ほんとにクロちゃん野暮やなあ、という表情になった。

「山は俺やで。動かんってことは、仕事はせんいうことや(笑)」 つまり、足は上向いているってことでしょ?

「そういうこと!」

 明日も今日の気配を保つことができていれば、山は動かない。しかし気象条件などで気配が変わっていたら、簡単に動く。ともかく、山が動かないときは機力上々、簡単に動くときは苦戦気味ということ。などと書くのはやっぱり野暮ですかな、湯川選手。

 

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 いずれにしても言えるのは、湯川には余裕があるということ。ひょうきんな男であることは誰もが知っていることだが、一方で苦戦気味のときや精神的に追い詰められているときなど、意外なほど無口になり、言葉は悪いが不愛想になることもあったりする。根は真摯な勝負師なのだ。

 で、どんなときにも余裕を見せるのが原田幸哉。09年チャレンジカップの優勝戦、1号艇だった原田がレース直前に話しかけてきたのには驚いたものだ。たとえば今日の12Rが迫ってきた頃、山崎智也がどえらくおっかない顔をしていたが、レース前の選手というのはたいてい緊張感を滲ませていて、基本的にこちらから声をかけることはしないようにしている。だというのに、SG1号艇の原田幸哉は自分から談笑を仕掛けてくるのだ。会話は楽しかったが、話していてよいものかどうかヒヤヒヤもしたのを覚えている。

「今のプロペラ制度、どうですか?」

 今日もだった。11Rが数分後には発走するという時間帯、12Rの展示のためカポックを着こみながら、原田は声をかけてきた。まずはたじろぐ。しかも内容が新制度について!? 時間的にじっくり話し込む余裕はないよなあ……。

 内容をざっと記すと、僕は好機を追いかける楽しみができて面白いと言い、原田はでも思った以上に変化はないと言った。たしかに。こちらも、次号のBOATBoyに掲載するデータをこっそりと披露。選手たちがさらに慣れていったら、もっと変化が少なくなるのでは、と原田は言った。う~ん、時間があるときにまた語り合いたいですね、幸哉選手! 今度沖縄に遊びに行っていいですか、とは言えませんでした、ナハハ。で、この制度、原田幸哉向きでしょ、というと、否定しなかったことを付け加えておこう。力強くうなずいて展示控室に向かった原田の背中が大きく見えたぞ。

 

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 さて、予選3日目を終了して、坪井康晴がトップ。誰が見ても、凄い足だ。まさしく絶好調。しかし、坪井の表情はというと、特別ふだんとは変わっていないのであった。

 パワー劣勢のときでも坪井はそれほど表情を変えない男で、整備や試運転をとことん行ない、忙しそうに動き回りながら、しかし不機嫌さや切羽詰まった感は少しも伝わって来なかったりする。顔を合わせると、優しく微笑してくれたりもして、それはそれで不思議でもあったのだ。

 そして、こんなにも明らかな超抜ぶりとそれを反映しての好成績であっても、やっぱり雰囲気が変わらないのがこれまた不思議であり、そして凄い。この不動心が、強さの秘密のひとつであろう。

 

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 菊地孝平も、11Rの快勝で予選4位へと浮上している。菊地といえば、じっと一点を凝視し、脳内コンピュータをフル回転させて思索にふける“菊地モード”と言うべき表情を時に見せるわけだが、今節のモードはそれとは少し違って見える。近寄りがたいまでのオーラを発することはないが、顔つきは非常に力強く、充実感を伝えるものになっているのだ。菊地モードの穏やか版と言ったらいいだろうか。菊地孝平のまた新たな一面が出現したという印象を受けたりもするわけである。

 11R後も、もちろん仲間に囲まれれば柔らかに笑ってもいたが、やがてきゅっと引き締まった表情になり、しかし目は穏やかに光っている。ピットの雰囲気が結果に結びつくとは決して言い切れないが、ピット節イチというものがあるとするなら、僕の見立ては菊地孝平。坪井との同期対決が後半戦の見どころになる可能性は十分にあると思う。

 

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 一方で、横澤剛治は今日は着を落としてしまい、3日目終了時点でボーダー上となってしまった。レース後はさすがに厳しい表情も見せており、今日の結果に納得できないという雰囲気であった。パワーは悪くないと思うのだが……。明日は勝負駆け。これをクリアして、静岡82期三羽烏の激突を上のレースで見たいぞ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)