BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――なぜか敗者が気にかかる

f:id:boatrace-g-report:20171129111604j:plain

 11R前に整備室を覗くと、モーター格納作業や松井繁の転覆整備などでにぎわうなかで、池田浩二が本体を整備していた。池田は今日、ピンピン勝負に敗れた。前半戦で1着を獲れなかった時点で準優への道は閉ざされた格好となっていたが、後半も勝つことができずに、ついに予選ゼロ勝。総理杯に続いてのSG予選落ちは、やはり異常事態と言うしかない。

 それでも気持ちは切れていないということなのか、本体と向き合う時間を池田は作った。4日目の午後というのは、勝負駆けに失敗した選手がこうして整備をしているシーンは多々見かけられるもので、彼らの戦いが決して勝ち上がりに関係しているレースに限っていないことを思い知らされる。池田もまた同様。むしろ、明日明後日を無為に戦うことのほうが、MVPのプライドとして許せないことだろう。

 池田の様子に悲壮感はなく、やはり整備をしていた永井聖美と会話を交わしていい笑顔を見せてもいたが、心の奥にはグラグラとしたものが宿っているはずだ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171129111615j:plain

 地元勢が相次いで勝負駆けを成功させていくなかで、重鎮・服部幸男はボーダーに到達することができずに予選を終えている。ここまで着をまとめていただけに、今日の大敗は服部のプライドをおおいに傷つけたものだったはずだ。

 レース後、服部はペラ室にこもっている。装着場内ペラ室の、向かって左側入口入ってすぐ。トビラが開いていれば、装着場から丸見えの位置。ここは服部ポジションとも言うべき場所で、浜名湖のSGやGⅠのたびに、常にその場所で服部はペラを叩いていた。今節は、そこで服部を見る頻度は以前より多くはなかった。新プロペラ制度になったことで、調整の手順などが変わったのか。その場所には時折、赤岩善生がすわっていたりして、それはそれで新鮮ではあった。だが、今日のレース後、服部はそこにいた。マイポジションに陣取って、鋭い視線をペラに向けている。服部もまた、改めて闘志に火をつけたことだろう。準優で後輩が活躍する日に、浜名湖天皇とまで呼ばれた男が情けないレースはできない。いや、この姿こそが「ベストを尽くす」という座右の銘の有言実行だろうか。ともあれ、ペラを一心不乱に叩く服部の姿には迫力があった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171129111628j:plain

 いきなり勝負駆けに敗れてしまった選手のことから書き始めてしまったわけだが、どういうわけか彼らのほうが目に留まってしまった4日目の午後。ほかにメモされているのは、やはり予選落ちしてしまった山崎智也に関する記述「笑ってはいるが、ため息もついた」とか、予選突破組では、予選最終走で着順を落として準優外枠になってしまった今垣光太郎に関する記述「いつもと変わらずボートを磨いている」とか、あまり景気のいいものはない。

f:id:boatrace-g-report:20171129111647j:plain

あるとするなら、延々と試運転を続けていた菊地孝平と横澤剛治で、その徹底した準優への準備っぷりと、試運転から引き揚げてきたときの二人の笑顔についての記述くらいだ 。

f:id:boatrace-g-report:20171129111658j:plain

 あ、予選1位の井口佳典について何か書き殴ってる。「湯川の肩を抱く」だって。そうそう、11R、スタート後手のイン中島孝平を2コースからまくったものの、渡邉英児に差されてしまった湯川浩司が、レース後に井口に声をかけられて、脱力した格好でフラフラと歩いていたのだ。それを井口が抱き留めた格好となったのが、そのメモ。ともに予選突破、井口にいたってはトップ通過で優勝に王手をかける立場となっているのだが、その喜びとか上機嫌とかいうことではなく、単に銀河系の仲の良さに関する記述なのであった。思えば不思議な勝負駆け空間だ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171129111710j:plain

 で、メモはしてないけど、もっとも強く印象に残ったというなら、報道陣に囲まれる渡邉英児だろう。本当に申し訳ないことに、ここまでノーマークでした。必死に記憶を手繰り寄せてみても、やけに短髪になっていることと、相変わらず素敵な笑顔を見せていることくらいしか思い出せない。伏兵であるのは確かだが、本当に迂闊であった。同じ静岡なら三羽烏とか服部とか笠原亮に目を奪われていたってことだろうな。

 その渡邉はやはり充実した表情で、報道陣の囲み取材からはときどき大きな笑い声も巻き起こっていた。なにしろ予選2位、静岡勢のなかではトップ、もちろん準優1号艇だから、気分が悪かろうはずがない。その囲み取材も含めて、JLCの展望番組や勝利者インタビューなどにもあちこち連れ回されている渡邉だったが、むしろその状況を楽しんでいるようにも見えたぞ。総理杯に続いての、アッと驚くニューヒーロー誕生があるだろうか。

 

f:id:boatrace-g-report:20171129111723j:plain

 なお、10Rで転覆してしまった松井繁は、明日の出走表にも名前があります! 足は良かっただけに、あまりに痛恨。選手責任外だから、不完全燃焼で予選を終えてしまったことだろう。そのリベンジ、なんて言ったら、「そういうことやない」と王者には言われてしまいそうだが、それでも鬱憤を晴らす走りを見せてもらいたいぞ。

(PHOTO/中尾茂幸=池田、山崎 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)