THE勝負駆け
今村が、池田が、松井が、服部が……
風雲、急を告げる!? 主だった銘柄級が続々と勝負駆けに失敗し、今年の笹川賞は群雄割拠の戦国絵巻と化した。
まずは2Rで、ドリーム戦士の今村豊が5着大敗。②②条件の望みを、後半へ持ち越すことができずにV戦線から離脱した。
続いて優勝の望みを絶たれたドリーム戦士は、ファン投票トップの池田浩二。池田は元より①①条件の苦しい状況だったが、第一関門の5Rで見せ場なく5着に敗れ去り、こちらも後半を待たずに赤信号が点った。同じレースでは、③着条件だった濱野谷憲吾も6着でゲームセット。昨日の時点で圏外に追いやられた山崎智也とともに、関東の2トップエースが脱落した。
そして、極めつけは10R。ファン投票4位の松井繁(最終的には⑤着条件だった)、地元の総大将・服部幸男(③着条件)の同期ふたりも、最後のハードルを超えることができなかった。松井に至っては、1マーク手前で振り込んだ原田幸哉(妨害失格)に乗り上げて転覆失格。今節の王者は、西島義則に張り飛ばされ、幸哉に準優への進路を妨げられ、と散々なシリーズになってしまった。一方、バック4番手に甘んじた服部も、同期の不遇なアクシデントでそのまま安全航走を義務付けられた。ふたつの巨星が、同時に消えた。
V候補が続々と離脱する中、ドリーム組でひとり気を吐いたのが艇聖・瓜生正義だった。好枠をしっかり生かしきって、2着1着。今節が初めての新ペラ制度実戦、さらにパワー的にも一息という状況の中で、予選を終えてみれば5位での通過は流石の一語。今節の瓜生は、外に振ると見せかけて内から艇を合わせたり、逆に内に潜り込むと見せてから外に振って全速差しで逆転したり、劣勢パワーを極上のテクニックで補ってきた。新ペラ制度での有力なサバイバル術を、身体が勝手に実践しているように見えた。2号艇の明日は、どんな極意を披露してくれるだろうか。
背水の奇襲
今日、『MAN of the 勝負駆け』を挙げるとしたら、2Rの佐々木康幸しかいないだろう。5号艇でメイチの①着勝負だった佐々木は、スタート展示では穏やかな枠なり5コースを選択した。が、いざ本番になると、スーーーッと艇を進めてあれよあれよのイン奪取!! 完全に1号艇の茅原悠紀を出し抜いた(多くのファンも?)。私なりの表現を使うと「やらずのやり」進入だ。
瞬間、あの賞金王トライアルの重成一人のイン奪取を思い浮かべたが、あのときは「やりのやり」。重成が動くことは、想定内ではあった。が、今日のスタ展を見てから佐々木のイン戦を予想できた人は少ないだろう。
「いやぁ、スタート展示で5コースから行ったら、さっばり伸びなかった。このままじゃマズイと思って、イチかバチか行きました」
勝利者インタビューでのこの言葉が真相のようだが、もちろん原動力は「地元で予選落ちはしたくない!」という強い意志とプライドだろう。しかも、背水の①着勝負。5コースから勝つべき足がないとみたら、現状の足でいちばん勝ちやすいコースを奪う。当然の発想だし、かつての“競艇”では日常茶飯の戦法だった。
スタート展示をも勝つための“ダシ”に利用した佐々木は、スタートをしっかり決めて逃げきった。「スタ展とまるで違うことをしたら、ファンが困惑するだろ」なんて意見はお門違いもはなはだしい。スタート展示~本番のコース取りに法的拘束はなく(以前はいくつかあった)、それを盲目的に信じるほうがどうかしている。新鋭王座ファイナルの私のように(土屋智則の「やりのやらず」)。選手は、何よりも「自分が合法的に全力を発揮して勝つ」ことを第一義として走っているのだから、スタート展示をその武器のひとつとして利用するのは、むしろ当然だろう。今日の佐々木は勝つために5コース→1コースに方向転換したわけだが、敵を欺くために「やりのやらず」や「やらずのやり」を活用したって構わないのだ。
佐々木の“奇襲”は、記者席を大いに沸かせた。ガラス越しにスタンドからの歓声(奇声?)も響いてきた。勝負駆けの原点と本質と醍醐味とが、ぎっしり詰まった崇高なイン逃げだった。
やまと軍団、奮闘!
これ以外では、西山貴浩、桐生順平、山口剛のやまと軍団トリオの勝負駆けが見事だった。8Rで②着勝負だった西山は、3コースからコンマ03発進。少し覗き加減だったのでまくり差しの選択もあったが、西山は若者らしく迷わず握った。もちろん、②着条件も念頭に置いての戦略だったはず。リスキーなまくり差しより、インの今村を付け回る旋回をしておけば、2マークでもう一度勝負がしやすい。2着以内を狙うための常套手段だ。SGの勝負駆けとは思えないほど冷静沈着かつ的確なターンで、必要な2着をもぎ取った。
9Rでは、1号艇③着条件の桐生が圧倒的なイン逃げを決めた。そのスリット通過タイミング、コンマ01!!!! 電撃タッチ逃走だ。普通、イン戦で3着条件となると、気持ち的にちょっとあやふやになりそうなものだが、スタートを決めて逃げる以外に準優への道はない、と心に秘めていたようだ。去年の新鋭王座の頃から男っぷりと度胸の良さは知れ渡ってはいたが、やはりこの男、SGにも媚びたりはしない。
そして、初日の不良航法の減点を見事に克服した山口剛。今日のレースそのものは期待したよりスマートなものだったが、2・4号艇での1着2着~滑り込み準優ゲットはさすがの勝負師ぶり。明日は何でもありの6号艇だけに、進入からあっと驚く奇襲、大技を魅せるかも??
ナデシコ軍団、壊滅。
笹川賞の風物詩、水面を艶やかに彩る7人の女子レーサーも、大輪を咲かせることなく散りきった。しかも、半端な散りっぷりではない。
42位 山川美由紀
44位 田口節子
45位 横西奏恵
46位 日高逸子
48位 永井聖美
49位 寺田千恵
50位 平山智加
※51位は妨害失格の原田幸哉、52位はFを切った白井英治
「花に嵐」のたとえがぴったりくる惨敗ぶり。横西と日高は転覆に泣き、永井や山川は機力に泣いた。が、それらを差し引いても、今節の女子は総じてターン回りでの判断の遅さや、混戦での躊躇(遠慮といってもいい)などがやけに目立った。「笹川賞はファン投票によるお祭りSG」という一面があるが、今節の成績&レースぶりでは真に実力があって参戦できなかった男子レーサーに失礼だと思うぞ。選出方法を変えろ、などと野暮なことは言わない。女子はSGでは通用しない、なんてことも思っていない。いつか、軽量を生かしてSGの頂点に立つと思っているからこそ、今節の7人には猛省と奮起を促したい。この枕を並べた“討ち死に”を、レーサー人生で最大級の屈辱と肝に銘じてほしい。(Photos/中尾茂幸、text/H)