沈痛な顔を何度も見た終盤のピットだった。
10R後、
悔しそうに顔を歪めたのは笠原亮。
バック2番手で、キープしていれば勝負駆けは
かなり楽になっただけに、揉まれての5着後退は痛い。
着を落とした2マークは「落としすぎた」そうだ。大事に回ろうとしての
失敗は、後悔も大きい。 もともと悔恨を素直に表情や振る舞いに
あらわす男だけに、その悔しがり方は非常にわかりやすかった。
今日はさらに、「がーっ!」と頭を抱えてみせたりもした。
この感情表現は、笠原には珍しい。もう少し話を振ろうとも思ったが、悔恨を振り切るように足早に整備室へ向かう笠原を見送ることに。
穏やかそうな見た目の奥にある炎の熱さが、
ビンビンと伝わってくる足取りであった。
11R後は、なんといっても白井英治だ。まさかの6着。前半、2番手を走りながら2周1マークで謎の振り込みを喫しており、なんと今日は6をふたつ並べてしまうことになっている。前半でリズムを崩したか? ヘルメットを脱いだ白井の顔は、泣いていた。いや、実際には涙をこぼしていたわけではないが、泣き顔としか表現できないほど悲痛だったのだ。取り返しのつかない失敗をしてしまった、という表情である。控室へと向かう歩様も、トボトボ、としか言いようのないもので、その様子を見ていたらこの世が終わってしまうのではないかという錯覚にとらわれてしまった。きっと、今度こそ優勝をと意気込んでもいたのだろうな。それがかなわぬと知り、悲嘆にくれる。予選3日目の6着で、ここまで悲しい表情を見せるというのは、そうそうないことだ。
12Rは、やはり今垣光太郎か。イン逃げ実らず、
さらに2マークで転覆。グラチャンからどうもリズムが悪すぎる。
レスキューを降りた今垣は、ずぶ濡れのままうなだれて
カポック脱ぎ場へ。視線はどうしたって上を向きそうになく、
大丈夫かと問いかけると、こちらに一瞥をくれただけで「はい」とだけ
言い残し、去っていった。 これで気持ちが切れなければいいが、
と思う。白井の表情とは違う、悪夢が連続して降りかかることへの
呆然とした表情。誰にでも「なぜ俺ばっかりこんな目に……」と
思いたくなるような経験はあるかと思うが、
今垣もそんな思いにとらわれているように思えてならなかった。
転覆の直後に装着場に飛び出した萩原秀人が
「あぁ……これでB2級になってしまう」と嘆いていたが、
F2本とこの事故点で、今垣は相当に追いつめられることと
なってしまった。細かい計算はしていないが、
グラチャンのときでさえ今垣自身が「もう事故できないんですよ」と
こぼしていたから、B2落ちは確定的なのかもしれない。
だからこそ、ここは開き直ってほしいのだが……。
しかし、12R後の今垣はただただ溜め息。
それを見ているこちらにも溜め息が伝染してしまった。
沈痛な表情というのとは少し違うが、
池田浩二も複雑な表情ではあった。
ドリーム戦で妨害失格を喫して賞典除外。
優勝への道というか、準優進出の道は閉ざされている。
なのに、以降は3連勝! せめてドリームが単なる転覆だったら、
バリバリの優勝候補である。それだけに、
勝利自体は嬉しくても、どこか空しさも残る。
特に勝利者インタビューに出なければならないのが
なかなか複雑らしく、ピットに戻ってきた池田の顔は
どこか苦虫を噛み潰した表情にも見えたものだ。
こちらの先入観? こうなりゃ、妨害以外はすべて1着、
というのはどうだ! 最強戦士の意地を示すには、
最高だと思うのだが。
さてさて、今日の尼崎では我らが王者・松井繁と
オートレーサー・森且行選手のトークショーが行なわれていた。
終了後、森選手はピットを訪問。装着場や整備室を見学していた。
さすが元SMAP、カッコいいっすな。
そこにいるだけで空気が華やかになるのだから、スターである。
SMAPといえば、にわかに艇界のキムタクの二つ名
が定着しつつ……ないけど、森高一真。
「昨日はクサナギくん止まり」と
艇運の係員さんに話していたという件は前半で書いたが、
4Rの転覆後には「今日は1マークまでも行けなかったから、
関ジャニ∞や」と言っていたそうである。
「このままではお笑いで終わってしまう」とも。
関ジャニ∞に失礼ですよ。 後半9Rは巻き返しの1着。
今日の男前ターンはキムタクまで行ったか?それとも森くんなのか?そう聞いたら、渋い顔して「スタートだけやからな」。
どうやらキムタクにも森くんにも届いていないようである。
きっと明日にはまた艇運の係員さんにそんな話を振るんだろうから、
また仕入れておいて、面白い回答だったら記します。
ともかく、明日も男前ターンで勝負駆けを思い切り戦ってほしいし、
6号艇だから男前進入も見せてほしいぞ。
あ、そうそう。萩原秀人が、森選手を見つけて、
「あ、夢がモリモリに出てた人だ」だって。
SMAPの人、でいいと思うんだけど、どうか。だって、
それを耳にした瞬間、森脇健児が来てるのかと思ったもん。
というか、それは古すぎです、萩原選手。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=池田、トークショー TEXT/黒須田)