勝負駆けのゆくえは、わりとあっさりカタがついた。11Rを迎えた時点で19位以下から準優圏内に浮上する可能性があったのは馬場貴也のみ。それも6号艇で1着条件と厳しいものだった。18位以内から落ちる可能性があったのは毒島誠で、6着なら次点に泣くことに。しかしこちらは1号艇。6着大敗はよほどのことが起きたときだけだろう。
ということで、毒島がきっちり逃げ切って準優当確。毒島が先頭に立った時点で、馬場の無念も決まってしまった。これで準優18人はほぼ決定。そりゃあ12Rで事故があれば別なのだが、それをハナから想定に入れて考える人はいない。
などと言っていたら、守田俊介が転覆してしまったわけだが。この転覆が選手責任外なら守田は17位。選手責任なら次点の魚谷智之が18位に浮上する。これがなかなか微妙な事象だったため、ピットの空気はざわついている。長嶋万記も、責任なのか責任外なのか、心配そうだった。結果、責任外の報がもたらされ、守田は準優に残った。ということで、そのこと以外は、終盤のピットは勝負駆けにしては穏やかに空気が流れていた。
もちろん悲喜こもごもはある。12Rに出走した長田頼宗だ。長田は7R4着で、12Rは3着条件のはずだったが、7Rの道中での山崎智也との接触が不良航法とジャッジされ減点。12Rを勝ってもボーダーには届かない状況になった。少しかわいそうな裁定のような気がしたわけだが、減じられてしまった点数は戻ってこない。地元SGに燃えていた長田の心中は察するに余りあるというもの。JLC解説者の山口雅司さんも後輩の不運に落ち込んでいた。
1位争いをしていたはずの峰竜太は10Rでまさかの6着。結果的に10位まで順位を下げてしまった。1マークは2号艇の上を行くかどうかで迷った末に、中途半端なレースになってしまったという。その判断ミスを峰はただただ悔いていた。別れ際も、悔しい、と一言。太陽のような笑顔は、最後まで見られなかった。
魚谷智之も痛恨だ。9R1号艇で3着。これで6・00には届いたが、上位着順数の差で次点に泣くことになってしまったのだ。その悔しさを露骨にあらわしたりはしないが、あそこでこうしていたら、という思いは消えないはずだ。もちろん、守田の転覆が責任であればいい、などと思うような男でもない。
3着条件の10Rを逃げ切った田村隆信はこの笑顔! まずは胸を撫で下ろしたといったところだろう。エンジン吊りでは白井英治に話しかけられて、頬を緩める。午後になって風が強まってきて、スタートは難しかったはずだが、コンマ13ときっちり決めた。それより「もっと日本一の静水面になってほしいですね。それでも風の割には静水面だったけど、僕の好きな日本一の静水面じゃない」だって(笑)。準優で風が止まったら、田村の出番かも!
さてさて、11Rを終えて予選トップ争いもわりと穏やかに思えた。1号艇の白井英治が2着以上で8・00で太田和美を超える。まあ逃げるんじゃないの、そんな空気はたしかにあったと思う。白井が3着以下なら太田に逆転を許すわけだが、もうひとつ、柳沢一が1着ならば、白井が2着であっても柳沢がトップに立つことになるのだった。ただ、柳沢は5号艇。6号艇・守田俊介の前付けもありうるなかで、なかなか厳しいのではないか。そんな空気もまた、あったのはたしかだ。
4カドを選択した今垣光太郎が一気に内を締め、柳沢がまくり差しの態勢に入った瞬間、ピットは沸いた。たったひとつあった大逆転劇が、ピンポイントで起ころうとしているのだ。柳沢一、予選トップ通過だ!
必勝のイン戦を3着と取りこぼした白井は、痛恨極まりないといった表情。グラチャン連覇が視界に入っていたはずが、ややボヤけてしまったのは否めない。それだけに、顔色が変わるのは当然だろう。準優1号艇は守ったが、この時点でそれを考えることなどできなかったはずだ。
柳沢の快勝に、最もソワソワしていたのは原田幸哉だ。自身は長崎支部に移籍したが、柳沢がかわいい愛弟子なのはいささかも変わらない。12Rは九州地区の選手が出走していなかったこともあって、ボートリフトの最前線で柳沢を待ち構えた。陸に上がると肩を並べてリプレイを確認し、公開勝利者インタビューに向かわねばならない柳沢がその場で装備を解き始めると、原田は甲斐甲斐しく世話をし、ヘルメットやカポックを運ぶ役割を買って出ていた。幸哉、嬉しかったんだろうなあ。自身は4号艇で準優出。優勝戦に師弟が揃い踏みするべく、10Rで先陣を切る原田は気合の戦いを見せるだろう。
そして柳沢はお見事すぎる! 原田が満面の笑みで出迎えてくれたことは、喜びを倍加させたことだろう。なにしろ勝利者インタビューに急がなければならないので、抱き合ったり肩を組んだりはその場ではお預けとなったが、今夜の師弟の会話はきっと盛り上がることだろう。柳沢にとって、千載一遇のチャンスがやってきた! 最もプレッシャーのかかる立場となるわけだが、師匠の存在は心強いはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)