広島に尽きる。
8R、船岡洋一郎、6号艇、1着勝負。
12R、川下晃司 6号艇、1着勝負。
98期広島の同県同期の二人が、
奇しくも同じ枠番、同じ条件で勝負駆けに挑んだ。
枠番を考えれば、もっとも苛酷な勝負駆け。
最後の新鋭王座で、二人がどんな戦いを見せるのかは、
戦前から気にはなっていた。
8R。船岡は前付けに出て1着。
動いて、そしてもぎ獲った。お見事!
船岡の充実した表情はとにかく気持ちのいいもので、
そこには達成感や高揚感もあったことだろう。
その船岡を見て、川下は刺激を受けた。
レース間のスタート特訓でも内コースを獲り、
スタート展示でも内に動いた。展示を終えて
工具を整備室へと運ぶ川下の表情はあまりにも凛々しく
そして強烈。まるでSG優勝戦で見られるような
勝負師の表情を見せる川下に、正直、痺れた。
実際は、11Rの結果を受けて、川下は2着条件となっていた。
それでも厳しい勝負駆けには変わりない。
そのノルマを、川下はクリアした! お見事!
ピットに戻った川下は、レース前とは一転して最高の笑顔。
それはあまりにも男前で、そして麗しくもあった。
JLC解説者で広島の大先輩、池上哲二さんと
嬉しそうにハイタッチする場面は、
まことに絵になる一瞬であった。
広島コンビの勝負駆けは、最後の最後に、
新鋭王座をコク深きものにしてくれたと思う。
明日の準優勝戦でも何をしでかしてくれるか、本当に楽しみ。
そして、レース前とレース後の表情も、おおいに気になるのである。
それにしても、ボーダーは混迷を極めた。
前半戦を終えた頃には、6・00が濃厚だったのに、
レースを追うごとに勝負駆け失敗者が続出。
18位以内からも圏外へと転落する選手が複数名あらわれ、
ボーダーは5・83あたりで収まりそうな気配となっていた。
5・83選手は複数いたが、最上位だったのは篠崎仁志。
9R後には19位に位置しており、
気が気ではない立場に置かれていた。
そのせいなのか、単にヒマだったのか、
篠崎はピットをうろうろと歩いていることが多く、
報道陣に得点率状況を尋ねるなど、
落ち着かない様子も見せている。
ただし、篠崎はわりと早めに予選突破が確実となっている。
10Rで上野真之介と河合佑樹が大敗したため、
18位以内が決定的になったのだ。
他人の失敗を喜ぶわけではないが、
しかしベスト18浮上は嬉しいもの。
篠崎は素直に顔をほころばせ、
その後取り囲んだ報道陣に対しては
笑いを起こしたりもしていた。
水摩敦は、5・83で予選を終えたことで、
完全にあきらめモードだったようだ。
地上波放送のMCである武田修宏さんにサインをもらって
感激しているところに、予選突破確実の報が。
水摩は目を丸くし、動きを止めた後、ふーーーーーっと
長く息を吐き、「奇跡」と呟いた。こちらはむしろ
安堵という表情だったが、とにかくいいことが
いっぺんに訪れてよかったっすね!
こうなると、期待したいのは明日の走り。
いったんはあきらめていた準優進出、
ということは失うものは何もないということだ。
最後の新鋭王座、前付けとかチルト跳ねとか
一発勝負の整備とか、そういうものを見てみたいぞ。
たとえ18位突破でも、明日の動きに注目したい一人である。
そうしたなかで、勝負駆けに失敗した面々は、
さすがに顔をひきつらせる。
河合佑樹、高野哲史、下出卓矢など、
新鋭王座初出場にして予選突破を目指した面々が、
それぞれ悔やんでいる顔を見せていたのは、
見ていてなかなかにせつないものがあった。
高野は苦笑いを見せてもいたけれども、
目が笑っていないのだから、その笑顔は本音のはずがない。
もっとも深刻に見えたのは上野真之介だ。
上野は1月の芦屋で準優出し、その準優で敗れたあとに、
頭を抱えて「ダメだぁ……」と悔やんでいたものだ。
今日は、そうした嘆きを口にはしていなかったが、
表情の本質は何も変わらない。
むしろ、暗さがより増している印象を受けた。
こうして全力で悔しがる姿は、師匠そっくり。
峰竜太はそうして強くなったのだから、
上野も涙を噛み締めつつ、上へ上へと駆け上ってほしい。
さて、予選1位は坂元浩仁!
道中、整備を徹底して続けていたことを記したものだが、
それが実った格好だ。面構えからすれば、
準優白カポックに震える男のようには思えないが、果たして。
明日の表情が今から気になる。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)