賞金王のシリーズ戦。選手控室に静かに座っている48人。今年1年、このシリーズを目指してきた選手はひとりもいない。よく言えば、全員がリラックスムード。悪く言えば、気の抜けたビールのような空気が室内を支配していた。毎年のことだ。
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トップバッターの辻栄蔵が、悪戯っ子のような顔で「フフフ、選び放題じゃ~」と叫びながらガラポンを回す。すかさず、最前列の「かぶりつき席」にいるミスター今村豊が「おい栄蔵、なんぼ回してもエースエンジンは入っとらんぞ~」。辻はしかめっ面でミスターを睨みつけた。
とにかく空気が緩いので、
こちらも選手に声をかけやすい。
掲示板に貼られた宿舎の割り振り表を見た池田浩二が
「え、5人部屋!?」と呟く。確かに、
愛知支部の部屋だけが5人になっていた。
私が「5人で寝られるんですか?」と聞くと、
「いやいや5人じゃ無理だから、
たぶん1人がコッチ(3人しかいない佐賀支部の部屋を指差す)に
行くんじゃないかなぁ」と教えてくれた。
池田も完全リラックスムードなのだ。
ただ、その隣に貼られていた出走回数表に目をやった池田は、
「(初日から)1、2、2、1か……よしっ!」と
己に気合いを入れるように呟いたのだった。
続いて私の傍にやってきたのは、
「亮太スペシャル」などで知られる“艇界のエジソン”中村亮太だ。
最近、ナカシマのペラで超伸び型にする方向性を掴んだとか。
「よっ、艇界のエジソン! またまた新発明したそうじゃん」と聞くと、
亮太はにっこり笑って
「はい、エンジンにマッチすると足合わせでふたつ(2艇身)くらい
千切ります。今節も(ヤマトとナカシマの)両刀で行きますけど、
伸びの破壊力ではやっぱりナカシマなんですよ」とのこと。
今節の亮太の気配は、特に注意が必要だ。
という感じで、選手も私もモーター番号をまったく気にしないまま、抽選はどんどん進行していったのだった。あ、ただひとつ、山地正樹が37号機を引いた瞬間「よっしゃ、これで予選突破は決まりじゃ」と呟いたことは記しておきたい。他にも「37、37」と唱えながら引いた選手もいたらしい(中尾談)ので、山地も要注意選手に挙げておく。
(photos/シギー中尾、text/H)