試運転用係留所。
日高逸子がエンジンを始動しようとスターターロープを引く。
かからない。引く。かからない。引く。かからない。
ありゃりゃ、どうしちゃったんだ?
そこに登場! ミスターちょっかい、今村豊。
最高の獲物を見つけた今村は、
嬉しそうに日高に近づいていった。
今村がニヤニヤするなか、
日高はスターターロープを引く。かからない。引く。
かからない。今村の顔がずんずんと嬉しそうにほころんでいく。
JLC解説者で日高の同期でもある秋山基裕さんは
心配そうに見守っているのだが、
今村は焦る日高の様子がおかしくてたまらないようで、
目元のしわが深くなる一方だ。
15回ほども引いただろうか。ようやくかかった!
その瞬間、興味をなくしたのかミスターは、
笑顔をたたえたままどこかへと歩み去ったのだった。
トライアルが開幕する朝、
もちろん緊張感は漂い始めているけれども、
空気自体は柔らかい。84期コンビの中島孝平と笠原亮が、
旧交を温めるかのように談笑している様子などが、
そうした雰囲気に拍車をかける。
プロペラ調整室の前には、イケメン三銃士!
岡崎恭裕、峰竜太、篠崎元志が勢ぞろいしていた。
輪の真ん中にいるのは、スポーツ報知の長谷記者。
若者を集めて悪だくみをしている、
という図にしか見えないではないか。
時折、岡崎や篠崎が身をよじって笑っており、
ますます悪だくみの相談にしか見えない。
この3人+長谷記者がなんかやらかしたら、
ここでお伝えいたします。
1R、寺田祥と川﨑智幸が、2番手争いで激しくもつれ合った。
その間隙を平本真之が差していって、
二人は着を落としたわけだが、レース後、
まずは寺田が川﨑にペコリ。
川﨑もはるか後輩の寺田にペコリ。
レース後にノーサイド、というのは
ありふれた光景ではあるのだが、
笑顔が多くみられるなかでは、
それもまた特別に感慨深く見えたりするのだった。
2R、山地正樹がSG初1着。
上気して控室へと戻る山地を出迎えたのは池田浩二だ。
二人は81期の同期生。池田の顔がほころぶと、
山地もたまらず頬を緩めた。
そこに、同レース2着の田中信一郎も合流。
笑顔がさらに広がった。
つまりは山地の初勝利を祝福しているのである。
その田中も参加した水神祭の模様は、後ほど。
さて、そんななかで顔をしかめていたのは、中村亮太。
1R、ヤマトに交換して臨んだが、結果は出なかった。
レース後の亮太は、さすがに笑うことができないでいた。
それでも10数分後には、こんなことを言っていた。
「SGは楽しい。ベテランの先輩たちを中心に、
いろいろな知識を教えてくれる。
僕が一人でペラを叩いたり、試運転をしたりしていると、
あれこれ話しかけてくれるんです。
SGに来ると、5倍くらいのスピードで進化が進んでいく」
ずっと一人でプロペラの研究に邁進してきた亮太にとって、
キャリアも実績も凄い先輩からの話は、実に刺激的なのだ。
すでにノウハウを得ている亮太にとって、
それらはさらに血肉となって理論を進化させていく。
そして、これが大事なところなのだが、
亮太が進化すればするほど、
我々はより面白いボートレースを味わうことができるのである。
だから、亮太はもっともっとSGの舞台に来なければ!
なんて話しながら、総理杯をF休みで棒に振ってしまうことの痛さと、
なんとか笹川賞に選ばれてくれれば
という願いを実感したのであった。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)