BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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平和島総理杯準優 私的回顧

}{10R 至高の逃げ

 

①今井貴士(福岡)

②山本寛久(岡山)

③向所浩二(兵庫)

④篠崎元志(福岡)

⑤齊藤仁(福岡)

⑥深川真二(佐賀)

 

 ボートレースの華は進入にあり。

 コースを獲りに動く選手が存在するレースには、どれだけコクがあるか。

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 10Rには深川真二がいた。6号艇。前付け必至。スタート展示から当然動く。内の5艇も織り込み済みであっただろうが、簡単に内を獲らせるわけにはいかない。1号艇の今井貴士はなおさらである。それでも深川は内水域を目指した。スタート展示の並びは162/345。本番も同じ並びになった。

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 結果から書けば、今井のイン逃げである。だが、単なるイン逃げでは片付けられない、クオリティの高い逃げ切りだった。今井は100m起こし。それでも、コンマ05のスタートを決めている。一方、カドの向所浩二はコンマ02の強烈スタート。2コース深川がコンマ23、3コース山本寛久がコンマ13だったため、スリットでは中ヘコミの隊形となっている。

 向所から勝負していた方は、カドまくり一撃を予感し、テンションを上げたことだろう。今井から勝負していた方は逆に、悲鳴をあげたかもしれない。5コース篠崎元志から狙っていた方も、絶好の展開が出現することを期待したか。超抜・山本のパワーを信じて買った僕も、今井と向所の競り合いを期待した。

 コース獲りが激しくなったからこそ、多くのファンを熱くさせる展開が生まれた。ボートレースはこうでなくちゃいけない。

 そうしたなかで、きっちり伸び返して向所を迎え撃ち、堂々たる先マイに持ち込んだ今井の勝利は価値が高い。深めの進入ながら自身もスタートを決め、外の攻撃を受け止めて逃げ切った今井の走りには、至高のイン逃げ、という言葉しか思い浮かばない。

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 2着には齊藤仁が入った。超抜・山本は今井より先に向所に抵抗を試みたが、失敗。今井の航跡をなぞる形になってしまっている(それでもいったんは2番手確保と見えたターン足はやはり出色だったが……)、篠崎の攻め(向所とまくり競りのようなかたちとなってしまった)に乗った齊藤のスピードをつけたまくり差しは、よく耳にするコメントふうに言うなら、「展開を突ける足はある」。優勝戦は6コース濃厚だが、簡単に軽視しないほうがいい。

 

}{11R 逆展示航走

 

①吉田弘文(福岡)

②中島孝平(福井)

③湯川浩司(大阪)

④三浦永理(静岡)

⑤山崎智也(群馬)

⑥中岡正彦(香川)

 

 ボートレースの華は進入にあり。

 コースを獲りに動く選手が存在するレースには、どれだけコクがあるか。

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 11Rには中岡正彦がいた。今節は6コースからのレースもしているが、6号艇なら前付け、が中岡の常道である。スタート展示でももちろん動いたが、三浦永理以外が抵抗。12365/4という並びになっていた。

 本番、中岡はさらに激しく動いた。山崎智也は「(展示で)みんながあんなに深くなるなら、エリちゃんマークのほうがいいと思った」といち早く6コース決め打ち。湯川も抵抗を諦めて、カドに引いた。結果、本番は126/345。中岡が断固たる決意で動いたことで、並びが変わった。さらにそれが、レース自体をも濃厚に動かすこととなる。

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 イン吉田弘文がコンマ19。2コース中島孝平がコンマ24。これに対して、中岡はコンマ10。完全に出切った隊形が出現したのだ。エース機・吉田も、さすがに抵抗できない。どう見たって、中岡がまくり切る隊形なのだ。エース機パワーを信じて勝負した方は溜め息をついただろうか。6号艇から大穴を狙った方は、血圧マックス!? 湯川浩司のカド戦を狙った僕は、まず吉田が伸び返して抵抗することを願い、それが無理と悟るや、中岡に乗ってのまくり差しを祈った。しかし、外に変わって展開を探そうとした中島に吉田が抵抗するかたちで大競りとなり、前がふさがってしまったことで、湯川の差しは一瞬遅れた。目の前に競り合いのカベができたことが何とも不運で、その間に中岡は軽快に先頭を確保していた。

 コースを動いて、スタートを決め、鮮やかにまくり切る。まさしく、至高のまくり、である。

 湯川が差しを待たねばならなかった分、6コースから最内差し決め打ちの山崎に展開は向いた。スピードに乗った全速差しは、中岡には及ばなかったが、他4艇をあっさりと切り捨てている。2周目ホームでは三浦に迫られる場面もあったが、2周1マークで捌いて2番手を確保している。

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 そう、三浦は惜しかった! 7年前、まさにこの平和島総理杯で、横西奏恵が果たした女子SG優出。その偉業が、三浦の手の届くところにたしかにあったのだ。いや、三浦自身が引き寄せたのだ。昨年の女子MVPが、MVPを追う展開。しかも、2周1マークでは賞金王を差し置いて、賞金女王が2番手先マイしているのだ。今回は、MVPに軍配が上がったが、いずれリベンジの機会は訪れるだろう。

 4番手を走ったのは湯川。吉田と中島の競り合いの結果、5番手に中島、シンガリに吉田。6→5→4→3→2→1……逆展示航走! 展示航走はインに利のある現代ボートレースではそれほど珍しくはないが、逆展示航走がSGの、それも準優で出現するとは。しかも、1号艇は節イチ男だったのである。

 コース獲りの激しさがスペクタクルを巻き起こすことを、大々的に証明し、ぶち上げてくれた至高の一戦。現時点での総理杯ベストレースは、間違いなく、これである。

 

}{12R 強烈すぎる“順当”

 

①池田浩二(愛知)

②原田幸哉(沖縄)

③田中信一郎(大阪)

④井口佳典(三重)

⑤瓜生正義(福岡)

⑥松井繁(大阪)

 

 ボートレースの華は進入にあり。

 コースを獲りに動く選手が存在するレースには、どれだけコクがあるか。

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 12Rには松井繁がいた。王者も今節は6コース発進のレースがあったが、予選最終走でも5号艇→2コースと動いているとおり、ここ一番の準優で6コースは考えにくい。

 ただ、なにしろSG36冠の強烈メンバーである。王者と言えども、簡単にコースを奪うことはできない。結果、スタート展示も本番も1236/45。全員がSG複数Vの強者たちは、全員が全身全霊で自分のレースをしようと駆け引きをした。

 コース獲りが激しいからといって、すべてが波乱につながるわけではない。このメンバーで、しかも1号艇が池田浩二なのだ。池田がトップタイのスタートを決め、豪快に1マークを先に回れば、そこに付け入るスキはなかなか生じない。さすがに池田以外を狙った方は、諦めの境地に至るしかなかった。

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 それでも池田のターンはやや流れ気味で、池田から大勝負した方は一瞬ヒヤリとしたのではないか。しかし、原田がぶち込んだ狙いすました差しは、ターンの出口で舳先が浮き、スピードを欠いた。この瞬間、2日連続で白いカポックの最強戦士を見ることが確定的となった。「まだ合っていないところがある」とのコメントが出ているが、それは間違いなく、池田の求める最高のレベルには達していないということで、パワーはかなりあると見ていい。逆に言えば、明日、完全に合わし切って12Rに登場したとするなら、死角はほとんどないということになる。

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 2番手は、原田と握って攻めた田中信一郎でバック併走となった。これほどのメンバーの戦いは、極めて順当に収まるのが自然ということか。ただし、もちろんあっさりとレースは終わらない。態勢有利な原田が2マークを先取りし、2番手をもぎ取りにいった瞬間、内からは同期・瓜生正義が逆転を狙って突進気味に原田を攻め立てている。同期同士で競り合うのは銀河系軍団だけではない。このレベルで戦う者たちは、常に勝利を追求し、盟友とも競り合うのだ。

 原田が瓜生を捌こうとするのを見極めたように、田中がターンマーク際を差す。今度は田中が内、原田が外の併走となり、2周1マークで田中が原田を捌き切っている。賞金王覇者のワンツーだ。

 

 ボートレースの華は進入にあり。

 まざまざとそれを見せつけた平和島総理杯のセミファイナルは、まぎれもない至高の準優勝戦であった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=10R進入 TEXT/黒須田)