BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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平和島ダービー優勝戦 私的回顧

『新王者』、降誕。

 

'12R優勝戦 進入順

①瓜生正義(東京)15

④山口達也(岡山)17

⑤今村暢孝(福岡)16

⑥松井 繁(大阪)14

②田村隆信(徳島)13

③中澤和志(宮城)20'

 

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『新王者、生まれる。』

 今節、ポスターに刻まれたこのキャッチフレーズが、妙に気になって仕方がなかった。それなりにオカルト好きの私は、このコピーが還暦ダービーの勝者を暗示しているのではないか、なんて思ったのだ。

 前検あたりは『新王者』=SG初優勝と気軽に翻訳し、新しいスターの誕生に思いを馳せた。が、台風で順延になったあたりで、その解釈が変わる。この世界で『王者』といえば、誰がなんと言っても松井繁である。ならば、このコピーは「王者・松井繁の代わりに新たな最強の王が君臨する」と訳すべきではないか。

 そう思った瞬間、すぐに脳裏に浮かんだのが瓜生正義だ。それほど、予選道中の瓜生の足は他を圧していた。そして、松井に代わって「新王者」を名乗れる者がいるとするなら、現状での候補者は瓜生か池田浩二くらいだろう。

 やっぱり、瓜生か。

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 そんな思いを日々強めながら、今日のファンファーレを迎えた。瓜生は、約束事のように白いカポックを羽織っていた。逃げきって余りあるだけのパワーも健在だった。『新王者』の舞台はすべて整った。あとはスタートを決めて、真っ先に1マークを回るだけ。

 だが。

 私は瓜生のアタマ舟券を、1枚も買わなかった。昨日から、頭から離れないのが6号艇・松井の存在だった。松井が勝つという光景ではない。『絶対王者』が、『新王者』にならんとする者を全力で阻止しに行く光景だった。進入からスリットから、松井が瓜生に襲い掛かる。互いに刺し違えて、下克上の波乱が起こる。キャッチコピーの“予言”は、脆くも崩れ去る。そんな妄想にどっぷり浸かりながら、私はせっせと穴舟券を買いまくった。

 そして。

 

 

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 瓜生は、逃げた。ファンファーレから松井が激しく攻め、山口達也と今村暢孝も負けじとつっぱり、内4艇は100mを切る厳しい起こしになり、5カドから田村隆信が伸びなりのまくり差しで襲いかかったが、それでも逃げきった。田村の差しハンドルは、完全に空を切った。完全無欠の超光速インモンキーだった。

 

 

 

 

 

 

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 ぶっちぎりのゴール。スタンドの全体に、温かい拍手が響き渡る。瓜生が勝ったときの拍手は、とりわけ温かい。その温厚で実直な人柄、潔い進入、ラフプレーには縁遠い爽やかなレーススタイル。あまりにも潔癖すぎて物足りなく思うファンはあれど、瓜生というレーサーを心の底から嫌い、憎むファンに出会ったことがない。

 この優勝で、獲得賞金は1億円を超えた。賞金王争いの先頭に立った。が、例によってこの男の顔からは、慢心や野心といった類のものは、微塵も感じられない。

 

 

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「次は、福岡さんに呼ばれているので、そこで全力を尽くします。その先のことは、まだまだ」

 表彰台で、静かに言う。今節のコピーになぞって瓜生を『新王者』とするなら、「瓜生王国」はとても平和で心豊かな国になるだろうなあ。なんて、ぼんやり考える。心技体、ともに王と呼ぶに相応しい男だなぁ、とも。

 いや、だがしかし。

 私の脳裏に、またあの男の顔が浮かんだ。今日の直接対決によって“政権交代”がなされたとしても、誰があの男を『旧王者』と呼べるだろう。

 今年の真の王を決する舞台まで、あと2カ月。最強者たちの闘いは、まだまだ続く。(photos/シギー中尾、text/畠山)

 

追記/連日50キロで戦い続けた俊キチ、お疲れさん。とりあえず、思う存分ローリングスーシーの梯子をしてくださいな。でも、今日と明日くらいまでにして、ね!!

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