ピットに入っての第一感は、緊張感が高まってきた、だ。
最大の勝負駆けを迎えているトライアル組が醸し出しているのか、準優を迎えたシリーズ組が発散するものか、その両方が入り交ざっているのか、とにかくピリピリした空気が伝わってくる。
シリーズ組では、桐生順平が想像以上に険しい表情でいるのが、おおいに印象に残った。笹川賞優勝戦の日は、緊張を紛らす意味もあったのか、かなり柔らかな表情を保っていた。それ以降のＳＧでも、キツめの表情をあまり見ていない。だが、今日はどこか様子が違った。不機嫌にすら思えるほど、目つきが険しくなっているのだ。
江口晃生にもおおいに気合を感じた。愛弟子の毒島誠は、トライアルで大勝負に臨む。師匠は準優勝負。挨拶をすれば、江口はいつも細い目をさらに細め、優しい笑顔を返してくれるが、今日は違った。決して険しい顔ではないが、真摯な表情をついに崩さなかったのだ。もっとも、江口の場合は緊張しているというのとは違うだろう。百戦錬磨の江口が、ここで妙な心持になろうはずがない。整備士さんとの会話では、「なんでやねん！」とエセ関西弁も繰り出しており、リラックスはしている様子である。やはり、いい緊張感のなかで、いい気合を抱えているというべきだろう。
もちろん、昨日までとは雰囲気が変わらない選手もいる。岡村仁はその一人で、思い入れの深いふるさとＳＧの準優を迎えながらも、リラックスした表情を見せている。動きもハツラツとしていた。１Ｒ発売中にモーターを装着しており、これを手伝ったのは齊藤仁。おぉ、仁コンビ！ ジンジンズだ！ と一人ほくそ笑んだ次第だが、岡村はジンではなくマサシである。そうそう、西村拓也も非常に明るいいい表情だった。大阪若武者コンビが怖いぞ。
そうした空気の中で、笑えるシーンが。１Ｒが終わって、いざエンジン吊り。整備室にいた中島孝平が勢いよく駆け出してきた。作業の手を休めて、急いでボートリフトへ向かおうとしたわけだ。続いて出てきたのは、菊地孝平。菊地も作業中だったのだ。すると、菊地は前方を走る中島を見て、突如として全力疾走！ 超抜級の出足で中島を追い始めた。さらに超抜級の伸びで、一気に差し切り！ “孝平ダービー”を制したのであった……って、菊ちゃん、何をしてるんでしょうか（笑）。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
