BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

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スパイダーV

 

12R優勝戦

①今村 豊(山口) 10

②菊地孝平(静岡) 09 差し

③服部幸男(静岡) 19

⑤今垣光太郎(福井)21

④茅原悠紀(岡山) 23

⑥丸岡正典(大阪) 24

 

 デジタル王子・菊地孝平が、2コース激差しで3度目のSG制覇を成し遂げた。もちろん、スリットはコンマ09のトップスタート。誰もがナーバスになるSG優勝戦で、「全速です、自信がありました」(記者会見)と胸を張る快ショットだ。今節は一度だけコンマ21というらしくないスタートがあったが、あとはコンマ11・07・09・14・05・09……さすがの一語。キックが優勝するたび、「ボートレーサーにとって、スタート力は最強の武器だなぁ」と思い知らされる。今節は、その天性のスタート勘をさらに揺るぎないものにする出足もあった。4日目からペラには触れず、ひたすら己の出足を信じてスタートに集中したという。そう、スタート勘だけで勝ったわけではない。最大の勝因は「自分を信じたこと」、また胸を張って言い切った。

 

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 レースは、今垣の前付けからはじまった。スタート展示では動かず、本番だけピットアウトからエンジンを噴かせた。

「光太郎、行けーーーっっ!! インまで獲ったれーー!!」

「こらぁ今垣ィ、なんばすっとやぁぁ!!」

 スタンド騒然。光太郎には、いつだってコレがある。サプライズ進入。断言してもいいが、この「スタ展やらず、本番やり」も含めたいきなりの前付けは、本人が事前に練った作戦ではない。ピットから発進したら、ただ勝ちたい一心で身体が勝手に動くのだと思う。光ちゃんの場合。イン強奪、突然の3カド、道中の突進、ツケマイ張り飛ばし……おそらく、すべて無意識に身体が動いている。これが「平常心」。常人からすればまったく逆に思えるが、光ちゃんの「平常心」=「無意識の闘争心」なのだと私は勝手に解釈している。(※クリオネさん、遅ればせながら4日目のコメントありがとうございます。私の考えを簡潔に言うと「ボート界は真のヒールと真のベビーフェイスが多々いてこそ面白い。現在のボート界は優等生のミルキーフェイスだけが増え続けている。もっとヒールよ、出て来い!」ってな感じです。だから、4日目の赤岩のような前付けがあると、声援を送ってしまうのです。で、私の中で光ちゃんは「天然真性のヒール」として英雄視しておりますw)

 

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 今日も、今垣は平常心を激しくフル稼働した(笑)。が、内3艇が譲らず4コースまで。菊地は「まったく気になりませんでした」と言い、ミスター今村の待機行動にも動揺は見られなかった。5カドになった茅原も「想定内でした」とのこと。選手はみんな、光ちゃんの平常心を知っているのだ。

 そして、スタート。菊地は当たり前として、ミスターも張り込んだ。コンマ10。つい最近までF2の足かせに苦しんだミスターだが、やはり行くときは行く。今村豊の凄いところは「常識を覆す斬新なアイデア」だけではない。負けず嫌いの勝負根性も艇界トップ級。私はそう思っている。だからこそ、52歳の今でも8点前後の勝率を維持し、SG優勝戦の1号艇に乗ってくるのである。このスリット同体は、私の想定内だった。

 逃げたっ!!

 

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 私はそう確信した。他の4艇はスリットで完全に後手を踏み、まったく脅威になっていない。菊地とのスリット同体の一騎打ちなら、行き足は今村が上。しっかり伸びて、差させずまくらせずのインモンキーを打てば、それで最年長SG制覇が決まる。オールスター笹川賞に至っては、「30年ぶりの優勝」というくらくら眩暈がするような伝説が生まれる。いや、もはや、生まれたと言い切っていい。そう思った1マーク、ミスターの艇がターンマークからダダ漏れした。博多の魔物「うねり」の影響か、それとも昨日の菊地を見てまくりを必要以上に警戒したのか、とにかく、漏れて流れた。

 

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 逆に菊地のターンは、5年ぶりのSG制覇というプレッシャーを微塵も感じさせぬ完璧な鋭角ターンだった。1ミリも流れなかった。まるで、スパイダーマンの指から出る蜘蛛の糸が、しっかりねっとりターンマークに絡み付いたかのような(笑)。

 この瞬間、菊地の勝利が決まった。ミスターの様々な新伝説も、服部の約17年ぶりのSG戴冠の夢も、光ちゃんのドラマチックな復活Vも、一撃の差しで消し去った。オールドファンとしてはちょっと寂しい結末でもあったのだが、「とっておきの楽しみが、次の機会に持ち越しになった」とポジティブに考えるとしよう。

 とにもかくにも、おめでとう、キック。君には真のベビーフェイスに君臨する資質がある。必殺技のデジタルスタート&俊敏なスパイダーターンを駆使して、暮れの平和島でも大いに暴れてもらいたい。(photos/チャーリー池上、text/畠山)