BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――感動あげます

 

 

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 諸般の事情があって、今日はかなり早い時間にピットに入った。選手たちはみな、モーターを装着するために駆けまわっている。あちこちで、「せーの」という声があがり、次々とボートにモーターが乗せられていった。エンジン吊りを見ていても思うことだが、選手たちは本当に手際がいい。テキパキと動き、それまで裸状態だったボートの群れがあっという間にモーターを乗せた「戦闘用の武器」に変わっていく。ものの10分ほどで、菊地孝平が水面に降りていっており、それからは着水ラッシュが始まっている。

 優勝戦メンバーも、もちろん装着作業を開始している。ただ、今日は12時45分から公開優勝戦出場選手インタビューがあるから、モーターをボートに乗せるだけ。「優勝戦メンバーは12時40分までに集合」のアナウンスが流れて、時計を見ると12時30分。もう時間はほとんど残されていないのであった。

 

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 そんななかで、池田浩二が丁寧に丁寧に装着作業をしていた。他の優勝戦メンバーが、ひとまずモーターを乗せて準備に向かい始めても、池田は作業を続ける。できうる限りの準備をしておきたい、ということか。インタビューが終わりピットに戻れば、スタート練習も待っている。それまでに少しでも、ということだと思われる。「池田選手はレーシングスーツに着替えてください」。40分まであと1~2分といったところで、そんなアナウンスが流れた。それを聞いて、控室へと向かう池田。思い出したのは、優勝した11年徳山周年。池田は最後の最後までペラ調整を続け、それはまさに展示ピットにボートを移動しなければならないギリギリまで行なわれていた。この男、クールに見えるが、ここぞというときはとことん仕事をする。今日は言うまでもなく、ここぞという一日である。

 

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 インタビューが終わり、ピットに優出メンバーが戻り、それから装着作業やスタート練習などひととおりの動きがこなされると、6人はいったん装着場周りから姿を消している。いや、谷村一哉が自艇のもとにいたな。優出インタビューでは衒いなく「緊張してます」と言ったという谷村だが、そのときに関しては、そこまでガチガチになっているようには見えなかった。報道陣に声をかけられ笑顔も見せている。その奥に緊張感が隠されていた? それができるならたいしたものだと思う。

 

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 三角哲男を見たのは、1Rのエンジン吊り。19年ぶりのSG優出ということで、かえって緊張したりするのではないかとも想像していたが、さすがのベテランはそんな様子を見せていなかった。毒島誠に歩み寄って、耳元で何かささやくと、二人揃ってワハハハハハ! えらく楽しそうに笑っていた。毒島もささやき返して、またワハハ。何の話だったのだろう?

 

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 辻栄蔵はペラ調整。この人も池田同様、とことん、ギリギリまで、調整をする人である。昨日の優出会見では「昼間と夜では感触が違うので、昼間は特に何もしないかもしれません」と言っていたが、それは「水面には出ません」という意味だろう。とはいえ、10分後くらいにペラ室を覗いたら姿がなかったので、非常にゆったりと過ごしてはいるのだろう。

 

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 10分後、というのは寺田祥がペラを外したのを見かけたタイミングである。2R発売中に装着場にあらわれ、自艇のもとにしゃがみ込んでプロペラを外したのだ。ペラを手にしたということは、行先は決まっている。そーっと覗き込むと、案の定。寺田はペラにゲージを当てて、じっと翼面を見つめていた。僕が見ている間は、ハンマーを手にしてはいなかった。

 

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 ちょうど寺田がペラ室に向かった頃、白井英治も装着場にあらわれている。白井が始めたのはボート磨き。さらにモーターまでもピカピカに磨き上げている。これ、実は白井のルーティンである。といっても、モーターがヤバければ調整が優先となるから、「出ているときのルーティン」が正確な言い方。11年オーシャンカップの優勝戦の日、やはり早い時間にモーターを噴いていたので、その理由を問うたら「モーター噴けるということは余裕があるということでしょ。いいことですよ」と白井は言った。ボートへの愛情、感謝を表現できる時間があるということは、パワーにまったく不安がないということである。

 まあ、今日の白井は、もはやそんな問題ではないだろう。パワー的には勝てるということは誰でもわかっている。白井の作業を眺めながらあれこれ考え、声をかける。今日は泣かせてくれ。白井はニッカーと爽やかに笑った。

「泣きたいでしょ? 泣きたい? 感動、あげます」

 その言葉で充分だと思う。もはや獲れずに悩み、悩むから考え過ぎて優勝戦に臨んできた白井英治ではない。感動、いただこうじゃないか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)