BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――田村、散る……

 

 

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 ただただ沈痛であった。田村隆信がフライングに散った。深い起こしながら踏み込んで、コンマ01の勇み足。先マイして先頭を走っていたのだから、まさに紙一重のフライングである。悪いほうに転がってしまった紙一重であったが、これもまた勝負の綾。それは、おそらく選手たちにとっては他人事ではないし、充分に理解していただろう。

 それでも、レースが終わる前にピットに戻ってきた田村に、すぐには誰も言葉をかけられないようだった。いや、イの一番にリフトに出迎えに出て、すぐに寄り添った森高一真が何か声をかけた可能性はある。それがあったとしても、田村のエンジン吊りを始めた選手たちの表情は硬直し、口を開く者はいない。かける言葉が見つからない、とは、こういうことだろう。森高は、田村が競技棟に入っていくまで寄り添うのをやめなかったが、その表情はやはり痛々しかった。

 レース前、田村は笑顔で「応援してくださいね。なんか、スポーツ紙を見ると僕の印が薄いんですよ」と声をかけてきた。実は本命にしていなかった僕もズキッと来たが、しかし田村には絶対にトライアル2ndに進んでほしいと願っていた。勝ち抜いて、2ndを盛り上げてほしい。田村が盛り上げねば誰が盛り上げるのだ、といきり立っていたと言ってもいい。だから、「もちろん応援してるに決まってるじゃないですか!」と返したのは本音である。実は、◎丸岡アタマの舟券とは別に、田村アタマの舟券もこっそり買っていた。予想と本音は必ずしも一致するとは限らないのである。

 だから、僕もたぶん沈痛な顔をしていたかもしれない。F2、来年クラシック(総理杯)からオーシャンまでのSG選出除外、来春から3カ月のGⅠGⅡ除外。このグランプリから戦線離脱しただけでなく、来年の夏までの重荷を背負うことになってしまった。それを思い起こせば、このフライングはさらにつらい。田村の心情や境遇に対してはもちろん、今いちばんレースを面白くしてくれる、ボートレースには絶対欠かせない男である田村隆信を、大レースで見られないのもつらい。

 そんなリスクを背負い、腹を据えて勝負した田村に、今はそっと拍手を送ってもおきたい。それで救われるわけではなかろうが、本当の勝負を見せ、また勝負の冷酷さを教えてくれた田村は、やっぱりプロフェッショナルだと僕は思う。

 

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 田村のFで首位に浮上したのは、丸岡正典である。同期の痛手があっての勝利に、レース後はさすがに複雑な表情を見せていた。それはそうだろう。心底から喜べる勝利でないのは、レーサーではない僕だってわかる。

 ただし、この勝利は結果的に大きかった。丸岡をトライアル2ndへと導いたのだ。もし田村がセーフで、丸岡が2着だったとしたら、ちょっと微妙だった。同期の勇み足が自らを救ったとなれば、さらに複雑なところもあるかもしれないが、丸岡には同期の思いも背負って、2ndで大暴れすることで田村に笑顔を贈ってほしい。

 もっとも、12Rが終わった頃には、いつもの丸ちゃんらしさも見せてはいました。JLCの展望インタビューに呼ばれながら、「今日だけね。ニャハハハハハ」と笑ったり。ということは、明日もいつも通りの丸岡正典らしさで、攻めるレースを見せてくれるだろう。

 

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 もう一人の同期、井口佳典の勝負駆けもお見事だった。もし4着ならば結果的に敗退していた12R、3周2マークの見事すぎる切り返しで逆転し、3着。勝負根性を見せつけて、2ndに駒を進めてみせた。いつも通り、ひたすら闘志をあらわにしている今節の井口である。それを水面でもきっちりと反映させて表現してくれる。改めて言うまでもないが、タダモノではない。

 ちなみに今日は、帰宿便が4便まで設けられた。2nd進出選手が共同会見やJLC収録などをこなすからである。ただ、それを井口は知らなかったらしい。さっきまで競技棟の前にいたはずの3便が消えていたのに気づき、「ええっっ、どうやって帰ればええの……」と心細そうな声をあげたのには、ちょっと笑っちゃいました(笑)。井口佳典にそんな一面もあるとは、発見です。

 

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 さて、いよいよ明日からトライアル2ndがスタートする。ついに賞金トップ6が登場する!

 今日も今日とて、一日びっしりと調整に試運転にと忙しく過ごしていた2nd発進組。白井英治曰く「実に有意義に過ごせました」だし、菊地孝平曰く「レースがないとか関係なく、いつも通りに過ごせました」だし、吉田拡郎曰く「いろいろ試せました」なのである。

 戦前、この「レースのない3日間」については、いろいろな声があった。前検である程度の手応えがあれば、2日間は何もしない選手がいるのではないか。あるいは、レースないのに管理下に置かれるとは気の毒ではないのか。いざその3日間が終わってみれば、そうした予測は当たっていなかった。2nd発進組はひたすらに動いていたのである。

 

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 その結果、6人全員が、会見でポジティブなコメントを出した。

菊地「僕のなかで手応えはあります。全体的に不満はない」

太田「雰囲気はいいし、乗りにくさもない」

松井「ちょっと弱い感じはするが、レースに参加できるような調整はできている」

山崎「悪くないと思ってるし、乗り味もいい」

白井「悪くないと思うし、試運転では舟の返りがよかった」

吉田「今日がいちばんいい手応えでした」

 白井が言うとおり、本当に有意義な3日間だったわけである。

 戦前にささやかれたことでは、「トライアル1st組が有利」というものがあった。先に実戦を走れるのが有利だし、そのうえで調整できるのもアドバンテージ、という意見だ。たしかにその見立てに説得力はあった。

 

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 しかし、松井繁はハッキリとこう言った。

「利はこちらにあるでしょう。いろいろ試せるというのが大きいわけですよ。失敗しても、次の日にやり直せばいいんだからね。でも、レースがあるとなかなか試すというわけにはいかないんです。それを考えれば、僕はこっち(2nd発進)のほうがいいと思う」

 6人のコメントを見れば、なるほど、松井の言い分にこそ理があるように思える。

 松井は、会見後だって動いていた。12Rのファンファーレが鳴っても、ペラ室で調整を続けていたのだ。もちろん、松井以外に調整をしている選手はいない。みな、水面を注視している。しかし、松井は明日戦うかもしれない相手のレースよりも、自分の調整に没頭した。やはり松井の言葉には、うなずくしかない。

 ともあれ、実際のところは明日からのトライアル2ndでハッキリする! とにもかくにも、その戦いを凝視しようではないか!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)