BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――魅せてくれた若武者たち

 声が出た。ピットから眺めていた待機行動。西川昌希が舳先をスタートラインに向け、ずんずんとインに進んでいくのを後ろから見ながら(ピットは2マーク奥です)、鳥肌がぞわぞわと立った。

 TOPICSのほうに書いたが、とにかくあのイン獲りには痺れた。カッコ良すぎでしょ!

 

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 もちろん、インを奪われそうになった毒島誠はたまらない。起こし位置はもくろみとはまるで違っただろうし、イン逃げ決めて予選ロード快走という狙っていた路線に狂いが生じたのだ。ピットでは、峰竜太が渋面を作りながら毒島に声をかけている。

「油断してた……」

 そう言って茫然とする毒島。しかし毒島のなかに「西川はこれがある」という教訓が植えつけられただろうし、次に対戦する時には同じ轍は踏むまい。あるいは、今節においても、ひとつのバネとなっていくかもしれない。選手間の雰囲気的には、なんとなく毒島への同情が強かったような気がする。つまりは、それほどまでに観戦していた選手たちも虚を突かれる西川の動きだったのだ。

 

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 僕も毒島がやや気の毒だと思いつつ、しかし西川昌希は最高なのだと主張し続ける。これがボートレースでしょ? 西川は何もルール違反を犯していないのだ。真っ向から勝負に出てくれる選手は、舟券を買う側からすれば最大に評価する対象である。

 11R後に捕まえた西川に、「最高!」と声をかけると、西川はニカッと笑った。

「昨日からいろいろ考えてたんですよ」

 6号艇が決まった瞬間、西川は戦略を練った。さまざまなシミュレーションが脳裏でなされたことだろう。結果、作戦は「スタ展動かず、本番動く」に決まった。言っておくが、僕はそれを1ミリも卑怯だとは思いません。ファンも「西川にはその戦法がある」と頭に叩き込んで、次に生かせばいいだけのこと。「山崎智也は2コースまくりがある」と変わらないのです。舟券は情報戦でもある。今日、西川の情報に触れたファンは、ひとつスキルを積み上げたわけである。というわけで、その点についても西川に拍手! 西川はまたニカッと笑った。

 3日目終了時点で予選19位。明日の勝負駆けは1号艇だ。今日のレースを見た先輩たちは、だったら俺が西川からインを奪ってやると思うかもしれない。それがレースを面白くすることに異論のある人はいないでしょう。そう、やられたらやり返すのが勝負の鉄則である。そして、そのリスクを十分に理解しつつ、打って出た西川はやっぱりカッコいいのだ。1号艇とはいえ楽な勝負駆けにならない可能性もかなり高いが、そこをどう切り抜けていくかにも注目したい。何度も言うが、この男、確実にボートレースを面白くしてくれる存在である。

 

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 で、10Rのレース後は、桐生順平がかなり悔しそうな表情で引き揚げてきている。そうだよなあ。スリットを超えた瞬間、勝ち筋は見えたはずなのだ。スロー3艇がスタートで後手を踏んで、4カドとなった桐生は一気に内を叩きに行った。ところが、吉田拡郎に差されて2着。この2着は面白くないだろう。この10R、若武者たちがさまざまな表情を見せてくれた。勝負の深淵を見せてくれた。毒島も拡郎も含めて、大拍手だ!

 

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 で、笑える場面を見せてくれたのは、篠崎元志だ。僕の目の前で、突然「あぶねっ!」と声をあげたのだ。なんだなんだ? 僕と目が合い、バツが悪そうにどこかに向かう元志。その脇に挟んでいたのは白の勝負服。……ん? それはもしかして……。「あぶねっ!」とまた元志の声。

 元志は、12Rの展示準備をするため、勝負服を手に待機室へ向かっていたのである。ところが、間違いに気づいた。そう、12Rは2号艇での出走である。1号艇は王者! そのことに、ちょうど僕の目の前で元志は気づいた。悪い人に見つかっちゃいましたね(笑)。

 たった今、西川昌希の前付けを見たばかりである。かつて、4号艇の山崎哲司が黄色の勝負服を手に待機室に入ろうとしたことがあった。6号艇に前付けする選手がいて、本人は5コース想定だったのだ。元志、まさか西川ばりに1コース想定!? 元志を追いかけ、それを伝えると、元志、大笑いで「あぶねっ!」。黒い勝負服に取り換えて、また「あぶねっ!」。なんべん言うのよ(笑)。

 まあ、勝負師というのは「1」が好きなものである。それに、元志はいつか王者の立つ位置に君臨したいと願っているだろう。というわけで、「1着獲って帰ってきてね」と元志に言うと、元志はやっぱり「あぶねっ!」。はいはい(笑)。結果はやっぱり2コースでした。そして2着。でも気持ちだけは「1」が欲しかった、篠崎元志でありました。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)