BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――頑張る若武者にエール!

 

 

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 10R発売中、小康状態となっていた雨空から、強く雨粒が落ちてきた。気がつけば本降りになっていて、水面はパシャパシャと跳ねている。

 佐藤翼が出てきて、水面と空を覗き込む。「やっぱりな~」。翼はこの天候を予測していた?「こうなると思ったんですよ~」。気象予報士の資格、持ってたっけ?

「僕、雨男なんです」

 ガクッ。それは知らなかった。翼とはこの時期、あの12年徳山新鋭王座以来毎年会っているわけだが、別に雨の印象はない。でもまあ、そういうことなのだろう。翼は11Rに出走。まだ雨がやんでいるうちに展示ピットにボートを移して、その後にこの雨を確認したようだ。きっと自分のレースのときは雨が降り出すんだよな~。そんなふうに思っていたんでしょう。

 で、11R。ダハハハ、雨、やみました。そして翼はまくられてしまった。レース後は、逆に翼の表情が湿っていた。涙を流したとかじゃなくて、かなり落胆し、悔恨にくれていたということだ。明日は雨男の本領を発揮することがあっても、表情は快晴でいこう!

 

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 10R終了後、エンジン吊りが終わると、ピットは一気に閑散となっている。1便バスが出発するので、それに乗る選手はバス前で待機。必然的にピットの人口密度が薄くなるのだ。

 そこに、通勤服に着替えた黒井達矢が登場。その服装からして、1便に乗るのは明らかだ。お疲れ様、明日も頑張って! それはともかく、黒井はいったい何をしにピットにやって来たのか。

「大池さん、1便で帰らせてもらいます!」

 装着場で話し込んでいた大池佑来と山田康二。その大池に対して、先に帰ると挨拶をしたのだ。黒井はさらにピット内を見回して、荒井翔伍の姿を発見。荒井は12R出走だから、当然最後まで残る。

「翔伍! 1便で帰らせてもらいます!」

 えっ、後輩に挨拶したばかりか、敬語!? 1便で帰る選手はみなそれぞれ、同支部や同地区の選手にひと声かけて帰るのだろうが、わざわざ探し回ってまで挨拶をしている選手は初めて見た。黒井達矢という男は、トビキリいいヤツなのだ。

 黒井と尼崎といえば、3月クラシックで先輩のSG初Vに涙していたのを思い出す。めちゃくちゃいいヤツだからこそ、今度は自身の勝利に泣きくれる姿が見られるよう、エールを送りたくなりますよね。

 

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 で、黒井に挨拶された大池と、山田の会話はずいぶん長かった。黒井が消えたあとも、延々延々、続いていたのだ。ピットが静かだったから、時折、途切れ途切れの言葉は聞こえてくる。別に聞き耳を立てていたわけではなく、時にちょっと語調が強まったりすると、言葉が届いてくるのだ。山田が大池に向けた言葉が。

 そう、ほんの少しだけ聞こえてきたパズルのピースを眺めてみると、どうやら山田が大池にアドバイスのようなものをしているらしかった。別にそんなに偉そうな物言いではなく、大池がちょっとネガティブなことを言ってそれをたしなめる、というか。まあ、断定はしないが、聞こえてきたのは圧倒的に山田の声だったのは確かである。

 それにしても、この二人の絡みはちょっと意外だったかな。101期と102期だから、やまとで一緒の時期はあった。ただし東京支部と佐賀支部。これまで絡みは見たことがなかった。その二人のかなり長きにわたった語り合い。エンジンやペラの調整も大事だが、この会話もきっとそれに匹敵する必要なものだったに違いない。

 

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 長いといえば、小野生奈の試運転が実に長かった。雨が降り出した10R発売中、遠藤エミとともに走っている姿を見て、えらいなあ、なんて思ったりしていたのである。雨も厭わず試運転。問答無用で感心させられるわけである。遠藤は、10Rで試運転を切り上げている。しかし、生奈は一人、試運転用の係留所にボートをつけて、ペラ室へと向かっている。まだやめるつもりがないのは明らかだった。

 

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 11R発売中、もちろん生奈は水面とペラ室を往復。それを装着場から見守る竹井奈美。途中、1マークを旋回した生奈を見て、竹井はリフトへと向かっている。おっ、いよいよ終了か。それを遠目で察知した奈美ちゃん、さっすが~。とか思っていたら、たしかに生奈はピット手前でスローダウンしたけれども、ボートリフトへは向かわずに、またまた係留所へとボートをつけている。気づけば竹井も係留所前で待っていて、即座に燃料入れを手渡していた。えっ、奈美ちゃんは燃料が少なくなっているのに気づいていたのか? だとしたらもっとさすがだ。ちなみに、その動きを見てモーター架台を手にリフトに駆け寄ったのが島村隆幸。試運転が終わると思って、エンジン吊りを手伝おうとしたのでしょう。しかし空振り。島村の想像を超えて、生奈の試運転は続いたわけだ。

 

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 12R発売中、生奈はまだ走った! ここまで徹底的に走るか~。正直に言えば、機力に不満があるから、ここまでやるのである。ペラ調整と試運転の往復は、そういうことだ。だが、少しでも改善しようと、あるいは何としても不満の原因を見つけようと、叩いて乗ってを繰り返すのは、強者の姿勢だと思う。それを誰よりもやって来た一人が王者だと思い出せば、生奈の行動はその道に通じるかもしれない道標を探す行為だと思う。

 というわけで、明日も引き続きエールを送ろう。あ、奈美ちゃんも、生奈に比べて怠けてたということじゃないですよ。しっかり自分の作業をまっとうしての、生奈ヘルプだったのだ。頑張る若者は素敵です!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)