BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――終盤レースの戦士たち

 

 

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 午後のピット、原田幸哉と守田俊介が、何やら密談している。原田が「俊ちゃーん」と呼び止めて、会話が始まった次第だ。

 今節、二人の絡みは何度か見かけている。原田がペラを手に守田に問いかけ、守田はペラの翼面のある部分を指さしながら説明している。明らかに、原田がペラのアドバイスを求めている格好だ。

 しかし、このときは二人の手にペラはなく、代わりに出走表があった。

「コースについて相談してたんですよ」

 と原田。出走する11Rは、4号艇に今村暢孝、5号艇に深川真二。前付け必至だ。2号艇の自分はこれにどう対処するべきか、原田は悩んだらしい。そこで守田の意見を聞いたという次第。レースで原田の選択は2コース。「もう迷わず2コースでしたよ」。そして1着! 作戦は大正解だ! そしたら幸哉は言ったね。

「ねえ……たまにはあいつも役に立つわ」

 ダハハハハ、先輩に対して何を言う!「たまには」も「あいつ」も「役に立つ」も全部失礼です(笑)。ようするに、そんな軽口を叩けるほど二人は仲良しだし、また守田が愛されているということの証し。そんな関係だからこそ、そんな言葉も出てくるというわけだ。

 ところで……明日は11Rで二人は戦うではないか! しかも、守田4号艇に対して原田は6号艇。さすがに明日は相談するわけにはいかないぞ。原田のことだから、“恩人”相手でも容赦なく動くんだろうなあ……。あるいは、前付けあるかもしれない中岡正彦が内を深くするなら、腹据えての6コースという手もあるか。11R、進入から楽しみになってきた。

 

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 原田が勝った11Rでは、峰竜太が2着、太田和美が3着。峰は2マークで逆転の差しを狙ったが、内から伸びてきた太田を交わさなければならない分、原田に突き放されるかたちとなった。ピットに戻って、まず「ゴメン」と言ったのは太田。もちろん峰は笑顔で、いえいえと返し、すみませんと言葉をつなげている。かたちとしては太田をツケマイで沈めるような格好になっているので、峰も頭を下げたというわけだ。そしたら太田は峰に一言。

「差せよ」

 思わず峰が笑い出す。俺を先に行かせて差せ、ということ? でもあと2艇が太田と併してきていたから、差すんなら全部待たなきゃいけないんですけど。あるいは、「幸哉を差せよ、ということ? タイミング的には接触の可能性もあった2マーク、太田がそれを回避した部分があったかもしれない。だから、俺を交わしていくんなら、せめて幸哉を差せよ、ということかも?

 

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 後者に近いのかもしれないですね。峰は「差せませんよ」と言ったから。「差しませんよ」なら前者かなと思うけど、「差せませんよ」ですから。後者なら、太田からのエールだな。つまり、まさにノーサイドの瞬間だったのである。まあ、あくまで推測ですが。

 峰は明日2着勝負。枠は黄色。やや厳しい条件だ。明日こそ「差せよ!」といきたいところだろう。

 

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 12R、石野貴之が逆転勝利。颯爽とピットに凱旋してきた。レースが終わったので、ヘルメットのシールドを上げて、出迎えた大阪勢に笑顔を見せる。すると、大阪勢が「シールドを下げろ!」のアクション。田中信一郎は「歯を見せるな」とも言っていた。もちろん、全員笑顔である。

 

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 同じようなことが10R後にもあった。5コースまくりで快勝して帰ってきた松井繁が、出迎える田中を見ながら、上げていたシールドを下げたのだ。田中がにっこりと笑顔。ただ、このときは松井は、ヘルメットのアゴの部分をクイッと持ち上げるようなアクションも見せている。さらに初日、田中が3コースまくりで勝ったあとも、出迎えた松井が田中に向かって同じようなアクションを見せた。う~ん、謎である。ちなみに、今日の石野と松井は、シールドをいったん下ろしたあと、すぐにまた上げてヘルメットの奥で笑顔を見せている。う~ん、やっぱり謎だな~。僕とか池上とかがレンズを向けてるから、あいつらに撮らせるな、ということ? そのわりにはすぐにシールドを上げてるんだけど。きっと大阪勢でこれにまつわる会話があったんでしょうね。明日も大阪勢が勝ったときには、そのアクションを拝見することにしよう。

 

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 その12R、惜しかったのは岡崎恭裕だ。ピット離れ遅れた今垣光太郎の回り直しと、今垣を入れたくなかった吉川元浩の抵抗を、岡崎はやり過ごして5カドを選択。スリットの瞬間はこれが奏功したかに見えた。鋭発から一気に締めて、伸び返した山崎智也を行かせてのまくり差し。ただ、これが完全に届き切らなかった。舳先がわずかにかかったまま内で粘って、2マークでは山崎に抵抗していったが、山崎がねじ伏せるかのように岡崎を沈め、岡崎は大きく流れる格好になってしまった。

 

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 ピットに戻った岡崎は、リフト前に立ち止まって艇運係の方の控室のモニターを覗き込んでいた。リプレイが流れていたのだ。表情は険しく、眉間にシワが寄る。やはり悔しい敗戦である。ただ、映像が2マークに差しかかる前に、岡崎はエンジン吊りに向かっている。確認したかったのは1マークか。なぜ完全に山崎を捉え切れなかったのか、何が悪かったのか、それとも山崎が強かったのか……。

 これが、その悔しい思いを含めて、岡崎の糧になる。残念ながら明日1着でも6・00には届かない計算だが、リプレイを見ていた視線の強さに、5年半前の当地での衝撃が近く再現されるであろうことを確信したぞ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)