「よしっ! よしっ!」
ピットの岸壁際の柵に腰かけてレースを観ていた、渡辺浩司、岡崎恭裕、篠崎仁志の叫び声が響き渡る。
バック水面で峰竜太がリードを広げるにつれ、叫び声は徐々に大きくなっていく。そして1周2マークを回った瞬間、
「よっしゃあ!」
3人はそう叫ぶと、係留ピットへと駆け出していった。
通常のレースは競走が終わるとリフトへ艇を戻すが、優勝戦の1着選手だけはウイニングラン用のボートに乗り換えるために、係留ピットへ戻ってくる。つまり九州の3人は、SGを勝った峰を真っ先に祝福するために、ダッシュしたのだ。
ゴールイン。大輪の花火が峰のSG初優勝を飾る。
ピットへ戻ってきた峰は、ヘルメットをかぶっていても、泣いていることが想像できるようなたずまいをしている。
そしてヘルメットを取ると、案の定、顔を赤らめながら大号泣していた。
「涙は出ないと思っていたんですが、3周目くらいから涙が出ていました」
かつて「泣き虫王子」と呼ばれた峰が、嬉し涙のインタビューを受ける。インタビューが終わると、すでに帰宅準備を終えてレース場を後にしようとしていた松井繁や服部幸男と握手。昨日「やっぱり無冠の帝王や」と峰をイジっていた石野貴之は、
「泣くな~!」
とツッコミを入れながら帰っていく。
峰の泣き顔と、選手たちに祝福される姿をみて、ピットに集まったマスコミ関係者たちも、とてもうれしそうだ。
「(スタンドからの声援は)全部、自分への声援だと思って走りました」
峰は レース後にこう語った。ボートレースはギャンブルスポーツなので、現実的には一人に声援が集中することはありえない。しかし、今日の優勝戦に限っては、舟券の当たりハズレを抜きにして、峰を応援したファンが相当に多かったのではないだろうか。同じことはマスコミにもいえるし、選手にもいえる。峰の努力と苦悩を知っているからこそ、彼を応援したくなるのだ。
負けた選手も、口惜しさを表に出す姿は見られなかった。
辻栄蔵は11レースの発売中ギリギリまでペラを叩いていた。ガンガン叩くわけではなく、ソフトに微々調整といった風に仕上げていた。回った後の足に望みを託したが、惜しくも差しは届かなかったが、「仕上がりは良かった」と満足している。
逆に伸びに賭けたのが井口佳典。スリットで一瞬のぞいたが、攻め切ることはできなかった。ただし井口も「脚は納得の仕上がり」と語っている。前本も「いい調整ができた」、丸岡も「仕上がりはよかった」、坪井も「調整は悪くなかった」と語っている。
モーターのポテンシャルを限界まで引き上げてレースに挑んだという自負があり、「やるべきことはやった」という思いがあるから、サバサバしていたのだろう。
ちなみに、丸亀オーシャンカップは「完全無事故」で幕を閉じた。優勝戦6選手は力を出し尽くしたし、あえなく予選落ちした選手たちもベストを尽くして戦った。
その結果が、峰竜太の悲願のSG制覇と、完全無事故。さらに舟券売上も約117億円と大幅に目標を達成した。
まさに「大団円」の言葉ふさわしいSGであった。
(水神祭)
地上波インタビュー、ウイニングラン、表彰式、記者会見、JLCインタビュー……。SGウイナーがこなすべき仕事を忙しそうにこなして、やってきました水神祭。
峰を真っ先に祝福した、渡辺浩司、岡崎恭裕、篠崎仁志が音頭を取って、ウルトラマンスタイルで担ぎあげる。
「怖い。夜、怖いんだけど(笑)」
という峰を、そのまま水面に放り込むと、半回転してドボーン!
かなり夜遅い時間だったのだが、ピットにいた関係者の数はかなり多かった。もっとも多くの人間に祝福されたSG優勝の水神祭といっても過言ではないかもしれない。
そして、ズブ濡れになった峰を出迎えたのは、愛妻と子供たち。今日は峰の笑顔をたくさん目にしたが、このときの笑顔が一番うれしそうだった。
(TEXT/姫園 PHOTO/池上)