BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

百獣の女王、胎動

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12R優勝戦
①中村桃佳(香川) 12
②山川美由紀(香川)13
③藤崎小百合(福岡)20
④細川裕子(愛知) 35
⑤水野望美(愛知) 35
⑥長嶋万記(静岡) 38

 110期台の女子レーサーで、初めて記念のタイトルをGETしたのは25歳の中村桃佳だった。しかも114期。去年の羽野直也のGI制覇に続いて、この期の勝負強さを改めて印象付けた。おめでとう!

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 レースを振り返ろう。スタートの時点で、勝者はほぼほぼスロー3艇に限定された。上記のスタートタイミング。まるで去年のGPファイナルのように、スローとダッシュ勢が1艇身以上の大差で鮮やかに分断された。ただ、あまりの大差に、今度は昨日の12Rの光景が脳裏に浮かぶ。
 まさか、スロー勢が早すぎるのでは??
 大歓声で実況が聞こえない中、そんな不吉な思いがよぎったのだが、まったくの杞憂だった。トップタイミングの桃佳のそれは、コンマ12、しかも全速! 素晴らしい。昨日の大惨事を目の当たりにしたであろう桃佳は、1号艇という立ち位置とともに相応の重圧を感じたはずだ。それを踏まえてのコンマ12全速は、完璧すぎるスタートと言っていいだろう。

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「9Rくらいから緊張していて、1マークはちょっと……」
 初動がやや遅れてオーバーランのようなターンになってしまったが、それでもターンの出口からグイッと加速し、同県にして前年度覇者の大先輩を一気に突き放していた。そのターンスピードも見事。2マークを豪快にぶん回して、山川に続く2代目の栄冠が約束された。

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 男子のリーダー格は松尾拓、女子は中村桃佳。
 114期のやまと学校卒業記念レースの直前、教官たちはふたりの選手の名前を口にした。そして、ある教官がこう付け加えたのをはっきり覚えている。
「向こうっ気の強さでは、中村訓練生が圧倒的に上ですかね(笑)」
 さすが、山川美由紀と平山智加を育んだ香川支部。単に女子レーサー王国(女王国?)に留まらず、男子顔負けの向こうっ気の強さでも他を圧倒している、と私は勝手に思っている。そんな土壌を根城にして、デビューしてからも桃佳はすくすく成長してゆく。ある同期生からは、こんな逸話も聞いた。
「どこのピットでも、桃佳と一緒に斡旋された同期生は桃佳から招集命令を受けるんです。で、ボートレース講座というの名の説教タイム。あなたはこの部分のターンがなってないとか、このままじゃ強くなれないぞ、とか言いたい放題言われる(笑)。でも、そんな桃佳が114期の起爆剤というか、心の支えになっているんです」
 桃佳先生、恐るべし! 今日の度胸満点のスタートも、そんな男前な性格のなせる業と言えるだろう。今後はもちろん、女子GIの頂点を目指しつつ、同時に男女混合のGIやSGでも活躍してもらいたい。ことメンタル面では、すでにSG常連と同等の強さを持ち得ていると思うのだが、どうか。

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 最後に、節間を通じて特筆すべきことがある。女子レースの「枠なり3対3」化が年々加速し、ついに今節は72レース中71レースがそれだった。唯一の非枠なりも、3・4コースが入れ替わったのみ。まあ、これはこれで「現代の女子レーサーのらしい在り方」とか「舟券がわかりやすくて買いやすい」とか肯定するファンがいてもいいのだが、たとえば桃佳が男子レーサーと互角に戦うためには大きなマイナス材料になり得るだろう。
 SG常連レーサたちは、待機行動での様々な駆け引き~それに伴う起こし位置の変動~それに伴うスリット隊形と行き足の変化~それに伴う1マークの攻防~それに伴う2マークでの攻防……そのすべてが連動して、まったく気の抜けない高いレベルの実戦を毎月のように繰り広げている。現在の女子レースはそれらと全く別の次元と言いきっていいだろう。「それはそれでよし」と思う女子レーサーはそれでいい。が、そうではない次元を目指すレーサーには、できる限り別次元のレースを戦い抜いてもらいたい。
 でもって110期台で初めて記念レースを制した中村桃佳は、果たしてどっちにいるべき存在か……今日、その“解答”がさらに明確になったと思うのは、私だけだろうか。(text/畠山、photos/シギー中尾)