BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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浜名湖クラシック優勝戦 私的回顧

漆黒の袈裟斬り

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12R優勝戦
①白井英治(山口)14
②井口佳典(三重)12
③岡崎恭裕(福岡)13
④瓜生正義(福岡)21
⑤寺田 祥(山口)22
⑥峰 竜太(佐賀)23

 一閃のきらめきで、勝者が決まった。2コース井口佳典の強ツケマイ!
 戦前、人気を二分したのは白井44号機と岡崎47号機だった。私も『BOATBoy』4月号で◎47号機vs○44号機としており、昨夜からこの2艇の対決だけを脳内に投影していた。特に、スーパーエース機の岡崎47号がどこまで伸びるか、井口を一撃で潰すことができるか、を。
 今日の私の結論は、「井口が岡崎をブロックする」だった。F持ちの井口ではあるが、暮れのGPファイナルでドカ遅れに散っている。今日は気迫の踏み込みで、岡崎の攻めを受け止めるはず。だから、白井が逃げきる、と結論づけた。

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 いざ本番。私のこの推理は的中した。1マークの手前で、そう思った。スリットほぼ同体から井口は直進して岡崎を牽制し続けた。岡崎47号機の行き足が一息にも見えたが、とにかく井口を超える気配はない。3艇の舳先が並んだまま、1マークが近づいていく。ダッシュ勢のスタートはやや凹んでいて、内3艇には届きそうにもない。
 白井が勝った。
 6艇の隊形を見て、そう確信した。おそらく、インの白井英治本人も。ここからは私の勝手な推測だ。岡崎47号機の脅威から解き放たれた白井は、外のブロックよりも先マイを優先させた。もっとも怖いのは井口の差し。そう考えても不思議ではない。白井は2コースの早差しを警戒しつつ、ややスピードを落としながらじわりとターンマークににじり寄った。そのまま先マイできれば、完璧なインモンキーになったことだろう。

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 その直後だ。井口が外の岡崎を捨てて、おもむろに握ったのだ。戦法としては超リスキーな2コースからの強ツケマイ。時間にしてわずか2秒ほどか、気がつけば白井は井口の引き波にスパンッとハメられていた。私の予想がそうであったように、白井もまた岡崎47号機を意識するあまり、一瞬の虚を突かれたのではないか。

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 それにしても、鮮やかすぎる一太刀だった。後から何度もリプレイを見たが、井口が握るのと同時に岡崎47号も握っている。つまり、あの初動がコンマ数秒でも遅れていたら、2艇は競り合う形で真横に流れただろう。また、コンマ数秒でも早すぎたら白井を一撃で沈めるほどのマイシロはなかったはずだ。
 井口が自力で白井を攻め潰すには、あのタイミングしかなかったのだ。きっと。今日の白井の敗因を「油断」と言いきるのは簡単だが、井口の凄まじい一太刀をこそ絶賛しておきたい。SG優勝戦の大舞台で外の刃を全身で受け止め、まさに返す刀でもうひとりの強敵を一刀両断に斬り捨てた。その度胸と切れ味! SG優勝戦での2コースジカまくり決着は、奇しくも2014年8月メモリアルの白井英治以来の大技でもあった。

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 もうひとりの敗者、岡崎恭裕47号機についても少しだけ書きたい。今節、シリーズ全体に潤いのある物語性を与えたのは、間違いなく岡崎47号機だった。岡崎自身もその物語の中に深く入り込み、47号機という“主人公”に寄り添う形でハッピーエンドを目指した。最後の最後でそのエンディングは意図しないものになったが、バッドエンドだからこそ文学的に高められることもある。実際、今日の井口の美しすぎる“袈裟斬り”も、その背後には間違いなく岡崎47号機という強烈なスパイスが潜んでいたのだ(断言)

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 この1週間、私は岡崎&47号機が紡ぐ物語の愛読者として、本当に楽しい時間を過ごさせてもらった。浜名湖が誇るスーパーエース47号機の相棒が、岡崎恭裕という非常に人間味のある男で良かった。心の底からそう思う。(text/畠山、photos/シギー中尾)