BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット最終日②シリーズ優勝戦――冷静力

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 ゴールの瞬間、派手なガッツポーズではなく、頭をペコリと下げた平尾崇典。
 ピットに帰って来て、ヘルメットを取った後の第一声も――。
「忙しいんで“巻き”で」
 たしかに、テレビ取材、表彰式、記者会見などを12レース発走までに終わらせなければいけないので、シリーズ優勝者は忙しい。ただ、優勝後の第一声がこの発言だったことに、ベテランの冷静さが感じられた。

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 テレビ放送のインタビューにも淡々と答える平尾。そのテレビカメラの後ろを、心底悔しそうな表情をしながら、新田雄史が早足で通り過ぎていく。
「くそっ」
 新田のとても小さな声が耳に入った。これ以上ない完璧なターンを決め、逃げる平尾を差し切る寸前まで追い詰めた。しかしバックでは圧倒的な機力差で一気に突き放された。その表情は「あと何が足りなかったのか」と自分に問いかけているようだった。

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 インタビューが終わると、平尾は石野の下に駆け寄って行って叫ぶ。
「ごめん! ほんまゴメン!」
 これは進入についての謝罪だろう。2号艇の石野はピット離れで飛び出した。強引に絞れば平尾からインを奪えそうな状態だったが、石野は直前で引いた。展示で大外カマシに入ったことが示すように、石野は伸び仕様にペラを仕上げていた。もしも通常仕様のペラならインを取っていたはずで、このあたりも勝負のアヤになった。

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 平尾が優勝表彰のためスタンドへ向かった後、石野は、
「あかん!不発や!」
 と記者たちにボヤいた。その表情はやり切ったように見えたが、内心までは……。

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「勝たせたもらった勝利です」
 平尾は記者会見では最初にこう語った。奪われそうだったインに入ることができ、1マークで並ばれても機力の差でしのぎ切った。もちろんファンの応援も力になった。色々な面で後押しがあったからこその優勝ということなのだろう。
「児島のダービーに出場することが目標です。今日フライングを切ってしまうと、それが飛んでしまうというのが気がかりでした」

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 SG優勝戦の1号艇を手にしながら、このあたりも冷静そのものである。
 30代から40代前半にかけてが活躍したグランプリ&シリーズだったが、シリーズの優勝はベテランの冷静力で平尾が引き寄せた。
「来年はシリーズではなくグランプリに出場するという気持ちはまったくないです。それが僕らしいんじゃないですか」
 と平尾は言うが、この冷静さがあるなら、発言とは裏腹に、しっかりと出場してくるのではないかと思えてくる。

(PHOTO/池上一摩 TEXT/姫園)