BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

グランプリW優勝戦 私的回顧

鬼伸び

11R 並び順
①平尾崇典(岡山)13
③新田雄史(三重)12
④山田康二(佐賀)13
⑤中野次郎(東京)12
⑥湯川浩司(大阪)18
②石野貴之(大阪)12

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 2号艇の石野がピットアウトから勢いよく飛び出した。スタンド騒然。まさかのバナレ飛び! 本人が「たまたま」と振り返るそのスーパーバナレは、あと30cmほどで1号艇の平尾を飛び越えるほどだった。おそらく、その気で絞め込めばインコースを奪えた、と思う。
 が、平尾の抵抗を受けた石野はスッと艇を右に振って、何事もなかったかのようにオレンジブイを通過した。なぜか。浪速の勝負師・石野の今日の勝負手は、イン戦とは真逆の戦略&セッティングだったのだ。

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 伸び型に特化し、たとえ6コースでもアウトから自力で攻める。
 これが石野の最終決断だった。直前でリングを1本換えたのも、ストレート足を強化するための勝負手だろう。もちろん、その根底には「2コースでは節イチパワーの平尾に勝てない」という意識があったはずだ。バナレで飛んでも無理にインを獲りに行かなかった石野は、同県・湯川の前付けにもどこ吹く風。3号艇の新田が「どーぞどーぞ」という風情でゆったりと艇を流し続けても、石野は頑として入らない。
 最終的な石野のポジションは、スタート展示と同じ6コースに落ち着いた。2号艇という好枠の利を捨てて、6コース単騎ガマシ。
 横一線でじわり前へ進む5艇を尻目に、石野が颯爽と舳先を翻した。眼前でそれを目撃した2マーク寄りのファンはもうお祭り騒ぎ。
「引いた引いた引いたーー!」
「よっしゃ、それでええ」
「イシノ、行ったれやーーー!!」
 12秒針が回って、石野が発進する。他の5艇は100m手前あたりで同時に進みはじめたが、もちろんダッシュ・石野の勢いだけが際立っている。一気にまくりきるか。思ったものだが、スリットからすぐに絞めはじめた石野を徹底的にブロックしたのは、同県の湯川だった。渾身の勝負手を放った後輩と、その勝負手に対して身を挺して抵抗した先輩と。シビアな「大阪競り」に拍手を贈りたい。

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 外からの攻撃が不発となり、1マークは完全な内寄り決着に。もっとも凄まじい攻撃を繰り出したのは2コースの新田で、狙いすました鋭角差しは完全に逃げる平尾を貫いた。ターンの出口では半艇身ほどめり込んでいたはずだ。

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 だがしかし、そこから先の平尾27号機の伸び足と言ったらもうっ!!!! 軽々と新田の舳先を振りほどき、逆に2マークまでに半艇身ほども引き離したそのストレート足は、ただただ驚き呆れるしかない。新型モーターで、しかも前節までほとんど特長らしき特長がなかった中堅機が、初日から圧倒的な伸び足でSG制覇。このバック直線の“大逆転”も含めて、平尾マジックと呼ぶしかないな。
 もちろん、今後の平尾(と住之江27号機)の伸び足も興味津々なのだが、やっぱり最後にもう一回だけ、今節の私の決まり文句を言わせてください。
――今日とは真逆の、イン石野vsカド平尾の対決が見たかったぞーー!!

ナンバーワン野郎

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12R 並び順

①峰 竜太(佐賀)12
②井口佳典(三重)10
③白井英治(山口)15
⑥菊地孝平(静岡)04
④岡崎恭裕(福岡)09
⑤毒島 誠(群馬)19

 やはり、菊地が動いた。スタート展示より激しく。オレンジブイを回って岡崎を飛び越え、抵抗する素振りを見せた毒島をツケマイのような形で追い抜いた。徹底抗戦したのは内の3艇。ポールポジションを主張した峰は当然として、井口も白井もダッシュの利よりもコースの利を選択した。

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 勢い、内4艇が深くなる。外の岡崎、毒島もゆっくりと舳先をスタート方向に傾けたが、直後に毒島だけがレバーを握り込んだ。回り直し。選手間ではいささか卑劣な行為とされているらしいが、1億円と艇界の頂点を懸けた戦いに、選手道もへったくれもない。
 1236・4/5。
 11Rの石野に続いて、6コースだけが光り輝いて見える単騎ガマシ戦法! しかも、内4艇は11Rよりもずんずん深くなっている。12秒針が回って、毒島が始動した。前付け艇を入れたときの毒島のスタートは、私の知る限りほとんどがコンマゼロ台だ。
 今日も行くか、行っちゃうのか、毒島!?

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 が、スリットラインを超えてアタマひとつ飛び出したのは、やはり艇界随一のスタート野郎・菊地孝平だった。泣く子も黙るコンマ04!! そして、覗けば迷わず絞めるのも菊地という男。内で凹んだ白井をゴリゴリ絞め潰す。そこでもうひと伸びがあれば大波乱という強襲だったが、伸び返した白井が身体(艇)を張って応戦。そのまま玉突き状態で井口、峰へと幅寄せし、それぞれのマイシロが相殺されてゆく。そして、そんな混戦のスロー勢の中から、最内の峰が例によってダイナミックかつ超スピーディなインモンキーで抜け出した。本人は「外に緑が見えたのは覚えてるけど、それ以外は何がなんだか、まったく覚えていない」と回想しているから、身体が勝手に反応したのだろう。それは、文句の付けようのない(ほぼ)無意識の完璧なターンだった。

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『ナンバーワンになる』
 これが最近の峰竜太の夢で、開会式でも優出インタビューでもこの単語を口にしている。それまでの夢は「オールスターのファン投票1位になる」だったが、2年連続で実現し、ハードルを一気に高くした。ナンバーワン。艇界最高峰のレースを1号艇で制して2億円プレーヤーとなり、4年連続の勝率1位を確定させたクリスマスイヴ。今日の峰竜太を「ナンバーワンと呼ばず、いつ呼ぶ!?」と思うのだが、当の本人の定義はまるで違うようだ。

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「まだまだ、ぜんぜん! レースも勝率も人間的にもぜんぶ圧倒的な存在になって、すべての人からナンバーワンって呼ばれる選手になりたい。それには全部が足りてないし、ネガティブで頼りない人間だし、だから一生なれないと思うんですけど、今日でちょっとだけ何かを超えられたかも。少しでもナンバーワンに近づけるように、来年も地道に頑張ります」

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 殊勝すぎるコメントにも聞こえたが、同時に「この男は今日を境にまだまだ強くなるのではないか」とも思った。GP制覇は単なる通過点。誇らず奢らずほとんど哲学的な「ナンバーワン」という定義に向けてさらに邁進する。そんな男が強くならないわけがない。
 やることは、わかってる。
 立ち上がる。立ち上がる。
 レース後の心地よい記者会見を聞きながら、私は大好きなバンドの大好きな歌のワンフレーズを脳みその中で口ずさんでいた。何がどうあっても自分をナンバーワンと認めないであろう泣き虫レーサーが、来年はどんな圧倒的なレースを魅せてくれるのか。今日のところはちょっと想像がつかない。(text/畠山、photos/チャーリー池上)