BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――あのときと同じ光景

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 9R発売中、松本晶恵の表情はカタかった。11R発売中、松本晶恵の姿はプロペラ室にあった。他の5選手がすでに調整を終えているというのに、1号艇の選手がまだペラを調整している。
 デジャヴか。いや、これは確かに見たことのある光景なのだ。2年前の大晦日。あのときも松本はレースが近づくにつれて表情がカタくなり、そして最後までプロペラ調整を粘った。松本が初めてGⅠを制したときと同じシーンが今日も、目の前に展開された。水面でもあのときと同じものを目にすることになるのではないか。大袈裟でもなんでもなく、そう思った。

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 ただ、あのときとは明らかに違う部分もあった。2年前の松本は群馬支部から単独の参戦だった。今日は、土屋千明と今井裕梨がかたわらにいる。プロペラを叩く(といっても、きれいに叩くという程度だったようだが)松本の隣で、同郷の先輩が彼女を見守っていたのだ。これは大きかったはずだ。松本自身、会見では二人の名をあげ、アドバイスをもらったり足合わせをしてもらったりしたことが支えになったと語っている。群馬一人でも2年前はプレッシャーを跳ね返したのだ。心強い先輩の存在を感じながら過ごした今日、緊張感に押し潰されるはずはなかった。
 松本晶恵、2度目のティアラ戴冠、おめでとう! レース後は、とにかく多くの選手たちのおめでとうの言葉を投げかけられた。戦った相手に一人一人、丁寧に頭を下げて回りながら、そのライバルたちにも祝福されている。何より、土屋と今井が大喜びだった。リフトで出迎える顔の中に、お世話になってきた人を見つけたときの感激は本当に大きかっただろう。

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 前回の制覇時は、トライアルでは好枠に恵まれた。2、2、1枠。それで得点トップで優勝戦1号艇にすわった。しかし今回は、すべて外枠だった。6、4、5枠。昨日は前付けを浴びる厳しいレースでもあった。それで1号艇にすわり、2年前と同じように逃げ切った。松本は「私がいちばんツイてましたね」と言ったが、これはツキだけでは片付けられないだろう。前回ももちろんティアラにふさわしい覇者だったが、さらに重みを増した、ティアラの似合う女王となったと言える。
 2019年、松本晶恵が何を見せてくれるのか、さらに楽しみにしたい。まずは、これで権利を獲ったクラシックだ。今年のオールスターでは準優に進出し、2番手争いに加わった。あれ以上の結果をぜひとも期待したい。なんてったって、ティアラを2回かぶったのは松本晶恵だけなのだ。その誇りを胸に、もう一丁上の舞台での活躍を望もう。重ね重ね、おめでとう!

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 敗者についても少し。遠藤エミのツケマイは、届かなかったけど、素晴らしいものだった。さすが遠藤エミ! ただ、いちばん悔しいのも遠藤である。ピットに戻ってきた直後は、さすがに落胆した表情を見せている。

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 もちろん、他の4人も大晦日を勝利で締められなかった悔いは残る。山川美由紀は表情をカタくしているようにも見えたし、寺田千恵はモーター返納後に疲労感を漂わせていた。日高逸子も同様。ひとつ言いたいのは、このベテラン3人が今年のクイーンズクライマックスをやっぱり引き締めていた、ということ。来年は、松本たちの世代、あるいはさらに下の世代から、この偉人たちに世代交代を迫る勢力に台頭してもらいたい。もちろん、山川も日高も寺田もそれを簡単に許すはずはなく、そのせめぎ合いがレディースレースをさらに面白くしてくれると僕は思う。

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 守屋美穂は、やはり悔しさをにじませながらも、少しだけ充実感のようなものが見えないでもなかった。守屋もまた、松本と同様、ギリギリまでプロペラ調整室にこもった一人である。レースは、展開がまったく向かなかった。それでも攻める姿勢は見せた。4年ぶりの出場となったクイーンズクライマックスで優出し、全力を尽くせたことで、来年はさらにステップアップした守屋美穂を見せてくれることだろう。

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 シリーズは塩崎桐加が優勝! 4カドまくり一撃で、クイーンズクライマックス優勝戦前のピットを華やかに彩った。
 2年前の松本ではないが、塩崎は三重支部からの単独参戦だった。そんな塩崎を支えたのはやはり東海地区の先輩たち。笠野由紀恵と一緒にいる場面を何度か見たが、ピットに戻った塩崎が駆け寄ったのもその笠野だった。敗者となってしまった谷川里江も、モーター返納が終わった後には塩崎を祝福。塩崎に対しても、多くの選手が拍手を送っている。宇野弥生や細川裕子が笑顔で話しかけているのも見ている。もちろん同期の渡邉優美も。

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 塩崎は今年の1月に産休から復帰。その復帰戦でいきなり優勝している。そして12月、クイーンズクライマックスシリーズを優勝! 優勝で始まり、優勝で終わった2018年なのだ。そして明日からはA1級! 2019年はシリーズではなくGⅠのほうへの出場権争いにも加わってくるだろう。仲間からの祝福を受けて笑う塩崎は輝いていた。来年の大晦日、あるいは近い将来の大晦日、12人のほうで笑い、輝く塩崎を見られることもきっとあるだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)