「平成の申し子」のハッピーエンド
12R優勝戦 並び順
①今垣光太郎(福井)09
②太田和美(大阪) 06
③大場 敏(静岡) 10
④吉川元浩(兵庫) 07
⑥松井 繁(大阪) 13
⑤矢後 剛(東京) 22
デビューから30年と5カ月、平成の水面を疾駆し平成の艇界を牽引し続けた今垣光太郎が、平成最後のビッグレースを制圧した。大団円と呼んでいいだろう。
第20代名人・今垣光太郎。
今垣光太郎名人。
うん、そこはかとない風格を秘めた姓名も含めて、なかなかにお似合いな字面ではあるな。とりあえず向こう1年は、随所に「今垣光太郎名人」と呼ばせてもらうとしよう。おめでとう、光ちゃん!
レースは1マークでケリがついた。展開の鍵を握っていた松井がピットアウトから矢後を出し抜き、ひとつ内に潜り込んでの123/465。強引な前付けとは違って、スロー3艇にはふんだんな助走距離が与えられた。今垣にとっての今節の障壁は「見えないスタート勘」だったが、それもコンマ09という絶好のタイミングで突破した。あとは1マークを先取りするのみ、豪快なインモンキーで差した太田、吉川の46歳コンビらを一気に突き放し、そこで勝者が決した。
平成時代に獲ったSGタイトルは9個、GI制覇は今日も含めて29回。今垣名人の強さはここで多くを語る必要もないだろう。「平成最後のビッグ制覇」という事象はなかなかに大きなトピックだが、私個人としてはこの優勝で来年のSGクラシックの権利を早々に獲得したことも実に嬉しい限り。とりあえず、今垣名人は最高のリズムで来月の「令和最初のビッグレース=福岡オールスター」に参戦することになる。
勝者を離れ、今シリーズをちょこっとだけ振り返ってみよう。一言で総括するなら「やっぱ“名人戦”は楽しい」だ。舟券こそ空振りばかりだったが、今節は私の大好物の「まくり&マーク選手のワンツー決着」が多発した。最大の要因は、F2持ちの今村暢孝(今節の陰のMVPだと私は思っている)はじめ西島義則や江口晃生、石川真二、渡邊伸太郎などなど50代の個性派レーサーの果敢な前付けだ。彼らが激しく動くたび、カドに引いたセンター勢に絶好の展開が生まれ、まくり&マークの穴舟券が発生した。
年齢が45歳まで引き下げられても、ピットアウトから変幻自在神出鬼没に動きまくるイン屋たちが多数いる限り、“名人戦”の本質は変わらない。
去年に続いてそう確信できたし、その頻度は去年より多かった気もしている。さらに地元の市川哲也、前本泰和、太田和美に渡邊伸太郎までもが3カド攻撃に踏み切り、宮島水面をさらに多彩なものにした。つまり、今年のマスターズも「人間の思い」が色濃く投影される水上の格闘技であり続けた。
ファンの中には「進入からもつれるレースは買いにくい」と思う方もいるだろうが、今シリーズの売上が目標を5億円近くも上回ったことは実になんとも嬉しい限り。多くのファンが、この年に一度のオッサンたちの水上のバトルを楽しんでくれた証として捉えたい。
現在の全国津々浦々のボートレースの大半は、枠番の利と実力と機力と展開のアヤと、選手たちの大なり小なりの気力で着順が決まる。が、私がボートレースに期待するファクターは第一に気力ありきで、その先に枠番の利や機力や実力や運などが綿密に絡み合って着順が決まる。そう信じたいし、それを信じさせてくれるビッグレースの端的な一形態が「待機行動」からごく普通に気力を露出してくれるマスターズだ。
全国のファンがどのファクターに共感するかは人それぞれだが、気力というファクターがないボートレースに未来はない。これだけは間違いない。なぜなら、舟券という存在(ボートレース業界のほぼすべてを形成している土台だ)そのものが、さまざまな人間の思いで成り立っているからだ。
サイコロの目を当てるだけのギャンブルに、25%ものテラ銭を取られることを知りながら参戦する馬鹿はいない。なぜ人々は25%ものハンディキャップを負いながら、それでもボートレースに飽きずに参加しているか。その意味を、施行者もギャンブルの駒である選手も知らなければならない。
おっと、なんだか説教臭い話になってしまった。つまりは「45歳以上のマスターズでも、とことん楽しかった」と。で、「きっと多くの人もそう思って舟券をたくさん買ってくれてよかった」、と。そして、最後に勝者に戻るなら、今垣光太郎名人はまさに気持ちで走る典型的なレーサーであり、今節の勝者に相応しい男だった、と。今回はそんなとりとめのない流れで〆させていただきます、はい。(photos/シギー中尾、text/畠山)