レディースvsルーキーズバトルの4日目は、やはり団体戦と個人戦の両者がより色濃く水面に投影される。個人戦の彫りが深くなるのは、もちろん予選最終日の勝負駆けだから。団体戦の色合いについては初日から継続されているものだから、個人戦の色合いが濃くなることで全体の濃密さが増すということか。
10R、4艇Fが出てしまった。びわこでは、スタートが判定となることが判明した瞬間、チャイムが鳴ってそれを知らせるのだが、この10Rはチャイムの音にピットは一瞬静まり返り、数秒後に「返還:③④⑤⑥」と表示されて一気にどよめいた。選手や関係者が悲鳴のような声を太くあげていたのだ。
フライングは小野生奈、森照夫、橋本明、鈴木雅希。紅白ともに賞典除外となる事態が起こったということで、団体戦はポイントなし、である。3回目にして初めて、ノーカウントが起こってしまった。4人とも、痛恨の表情である。
個人戦でいうなら、小野はバリバリの勝負駆け。最低でも2着が欲しいところだった。機力に苦しむも立て直し、勝負駆けに持ち込んだのはさすがの一言。立場的にも、何としても予選突破を果たしたいところだった。その気合が、勇み足を呼んでしまった。小野は入っていると思って踏み込んだというから、目いっぱいの勝負に出たのだ。内2艇の紅組勢をも躊躇なくまくっている。まずは勝負駆けを全力で走ったのだ。もちろん責められて仕方のない事象ではあるが、彼女の強い気持ちが伝わってくるレースぶりであったのは間違いない。
11Rは岩橋裕馬が逃げ切り、吉田凌太朗が3着に入ったことで、本来なら白組に1ポイント。ところが、吉田は待機行動違反をとられており、紅組にポイントが移った。モニターで見ている限りは何が悪かったのかまったく不明で(吉田がやけに浅い起こしだな、とは思ったが)、実際にどこを咎められたのかはリプレイを見てもよくわからなかった。だから、吉田の減点のアナウンスが聞こえたとき、たまたま装着場にいた吉田の顔をまじまじと見つめてしまったものだった。これは団体戦の無念であろう。
勝負駆けでいうなら、香川素子の転覆が残念。結果的には2着勝負、3着でも可能性は残された。道中は4~5番手だったが、追い上げの意識もあっただろうか、2周1マークで転覆。地元戦で無念の予選落ちとなってしまった。体が無事のようなのは何よりだ。あ、転覆といえば、8R転覆の渡邉翼が途中帰郷。白組は明日から23人で戦う。ちなみに、片岡大地が団体戦2走となっている。
そして、最大の無念は遠藤エミだ。同期の樋口由加里がまくりを放ち、その展開を突きたいところだったが、4着まで。これでも38点=6・33には届いていて、12Rの結果次第では予選突破の可能性は残されていたが、その12Rはなにしろ女子が1~3枠。その布陣を見ても、かなり厳しいところに追い込まれたのは間違いなかった。それを悟ったのか、レース後の遠藤はただただ肩を落とした。すれ違った水口由紀も、後輩の苦境と憂鬱を察して、渋面を作っていた。地元のエース、あるいは紅組のエースがまさかの予選落ち。団体戦のポイントを獲ったことよりも、その時点では敗れたという事実が重かったはずだ。
12Rは、とりわけ女子の勝負駆けが熾烈であった。その時点で大山千広と今井美亜が5走31点。2着でも39点に得点を伸ばすが、しかし3号艇の守屋美穂も3着以上が欲しいところで、事情はなかなか複雑だった。さらに、4号艇の浜先真範が2着条件の勝負駆け。外から団体戦のポイントと予選突破の約束手形を狙ったルーキーが攻め入ってくるのだ。女子3人がいったいどこまで団体戦を意識に組み込めていたのか、ちょっとわからない。
いや、レース直前に見た今井の表情を見ると、ただただ1着を求めようとする気合が見えたような気がしたものだ。リラックスとは程遠い張り詰めた雰囲気が、今井にはあったのだ。おそらく最低2着というのはわかっていたのではないか。番手争いで後れをとりそうになった2周1マーク、今井の内への切り返しは無理やりに見えた。追走する山田晃大と重なるのが目に見えていたが、今井は一か八か艇を向けている。案の定の結果になったが、僕には今井の「何としても!」の思いが見えたような気がする。レース後のひきつったような顔を見ても、その感覚はそう間違っていないと思う。
大山1着、守屋2着で、この二人が勝負駆け成功。浜先は悔しいだろう。いったんは2番手を走る場面もあったのだ。江戸川レディースvsルーキーズのときも、序盤連勝の快進撃の間、特に感情をあらわにしていなかった浜先。このレース後も、一見したところではやはり心中を強く表に出すようなところはなかった。それでも心中穏やかなわけがないのであって、それは紅組にポイントを持っていかれたことが理由ではないだろう。
12R終了直後、必死で得点を計算しているところに長嶋万記が歩み寄ってきた。長嶋はこのレース前まで、まさに結果待ちの状態だった。長嶋が6位以内に残る可能性は充分あると言ってよかった。いやー、パニクった。ただでさえ算数が苦手なのです。長嶋が何を聞きたいのかももちろん承知している。唸りながら、手元の計算では6位かもかも……、としどろもどろに応えると、長嶋はふっと微笑んでエンジン吊りに向かった。念のため、もう一度、得点率を計算。……あっ…………。1カ所重大な計算間違いを発見、長嶋は7位、次点なのだった。万記ちゃん、ごめんなさーーーーい! とそれを伝える。長嶋は、覚悟はしていたとばかりに、やはり微笑んだ。その微笑に無念が浮かんでいたのを僕は見逃していない。これは計算間違いではないはずだ。団体戦にとびきり意欲を燃やす長嶋万記。しかし一人の勝負師としては、敗れたことがとことん悔しいのだ。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)