選手達はペラと試運転に集中。今日のピットは閑散としていたのだが、後半に二度沸いた。
一度目は9R。小野生奈が内2艇をねじ伏せるようなまくりを打つ。それに乗った津田裕絵が擬音が聴こえてきそうなキレキレのまくり差しを放って、一気に突き抜けた。
リフトの前では、津田の出迎えがやけに賑やかだ。寺田千恵は手を振って「おめでと~!」と声をかけているし、同県の向井美鈴や佐々木裕美も祝福している。同期の川野芽唯も笑顔。さらにあまり関係の深くなさそうな選手まで何だか嬉しそうだ。ピットに上がってきても、津田とすれ違う選手が次々とお祝いの声をかけていく。
なんでこんなに盛り上がっているんだろう。と思いきや、選手の声を小耳にはさんで気づいた。え、水神祭なの!?
てっきり津田はすでにGⅠ初勝利をあげていると勘違いしていた。女子王座で何度も見た記憶があるし。しかし津田のG1成績を調べてみると――。
15LC 535435435
17地区 635563564
17LC 232352253
18LC 222364664 準優出
19地区 534653364
なんと今節までに45走して1着ゼロが1本もなかった。準優出はしたことがあるのに。そういえば去年の桐生レディチャンにもそんな原稿を書いたなと、後になって思い出した。G1に参戦するようになって4年越しの水神祭。そりゃあ、同僚たちがみな祝福するのも当然だろう。
勝利者インタビューが終わり、津田が係留ピットの最前列に登場。ウルトラマンスタイルで担ぎあげられ、躊躇なく水面へ。一緒に同期の平高奈菜と深川麻奈美もダイブ。
水面に上がったあとは、ツーブロックの髪をイジられ、笑顔をみせていた。髪をおろすとカワイイ系サブカル女子の雰囲気なのだが、髪を上げると少年のようだ。
もうひとつは10R。私はペラ調整室のガラスに張り付いて、室内にあるモニターでレースを見ていた。
ペラを叩いている選手たちは、レースになるとペラ叩きを中断して観戦する人もいるし、1マークを過ぎたら見るのを止める人、レースを見ずに叩き続ける人など様々。しかしこのレースに限ってはほぼ全員の選手が手を止めてモニターを見ている。64号機大山千広をチェックしたいのだろう。
レースは圧巻の一語だった。スリットで一気に出ていき、内を絞り、引き波を乗り越え、鋭くまくり差す。しかもターンマークを回った瞬間、あっという間に前へ出ていた。
そのレースぶりにペラ室内にいた岩崎芳美は「え~っ!」と声をあげる。今井美亜はとてつもない足に苦笑いしている。レースが終わり、出走選手の引き上げを待つ間も、あちこちから「ヤバイよね」という声が聞こえてくる。神モーター降臨の瞬間である。
敗れ去った他の5選手たちは、一様に呆れた顔をしていた。
しかし上がって来た大山は意外に冷静。周りに選手がいるときは嬉しそうな顔をしているのだが、選手棟に戻るときは、わりに素の顔に戻っていた。
優勝への手応えを抱いたのか。それともモーターに対する畏怖なのか。
ここまで大山はすべてのレースで歴代女王を撃破している。初日7Rは谷川里江、初日11Rは海野ゆかりを置き去りにし、今日の10Rでは日高逸子と寺田千恵を6コースから撃破した。さらに明日の7Rは新田芳美とクイクラ覇者の遠藤エミ、12Rは1号艇の田口節子に挑む。
母の意思を継いだクイーンハンターが相棒64号機とともに、歴代女王を次から次へとなぎ倒して新女王の座へ向かう。少年マンガのような展開に胸がアツい。
(TEXT姫園 PHOTO池上一摩)