BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――どよめく準優

10R 堂々逃げ切り

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 完勝だったと言っていいだろう。すぐ外に41号機・渡邉和将がプレッシャーをかけながらいたわけだが、まるで関係なく、自分のレースを貫いて堂々逃げ切り。レースに行く前は緊張感があったというが、いざ本番となったら集中できたという福田宗平。その言葉通り、ゆるぎないレースぶりで初GⅠ、初準優、しかも1号艇をクリアしてみせた。
 レース後は、やはり大阪勢が沸いた。上條嘉嗣が先頭で出迎えて笑顔を向ける。福田もすぐに上條兄に報告とばかりに歩み寄っている。彼らの気持ちとしては当然、11Rの木下翔太につなげるという思いだったはずだ……が……。

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 2着は豊田健士郎。島村隆幸との競り合いは、バックでは先行される態勢だったが、2マーク先マイで逆転。引き波を苦にしない足色が目立っていたと言える。この優出には、東海勢が沸いた。戻ってきた豊田を4~5人が頭上で手を叩きながら出迎えていた。同期の野中一平はとりわけ嬉しそうに豊田を称える。同支部の春園功太、高田ひかるも嬉しそうだ。それらに豊田はとびきりの笑顔で応える。豊田はGⅠ2節目、いまだGⅠ1着はない。今節も未勝利のまま優出だ。水神祭を果たすには、優勝しかない!「そうなったら最高ですね」と豊田。今までGⅠで一度も1着のない選手の優勝ってあったのだろうか。とにもかくにも、成し遂げたら偉業だ!

11R 東京ワンツー!

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 1マーク、宮之原輝紀が差して先頭に届いたとき、ピットにはどよめきが起こっている。今節最年少の男が、準優を勝ってしまうのか! 結果は、逆転されて2着となるのだが、しかし優出は果たした。あのSGファイナリストの猛追をしのいでの優出だから、価値が高い優出だ。
 このヤングヒーローを、やはり多くの選手が称えていた。今節、随所で宮之原をイジっていた野中一平も、嬉しそうに笑顔を向け、そしてイジっていた(笑)。宮之原は、少し照れたように微笑を浮かべながら、仲間の声掛けに応じていた。

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 展開を作りながら、惜しくも3着に敗れた佐藤隆太郎も、後輩の優出に笑顔を送っている。1号艇の先輩に容赦なく攻め込んでいったが、それが後輩の展開を引き出すことにもなった。心中は複雑であろう。いや、自分が優出するというのが最優先なのだから、悔しさの割合が大きいか。それでも、後輩を称えるような振る舞いを見せた佐藤に拍手を送りたい。

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 佐藤が敗れても、結果は東京ワンツーだ! ここには東京3選手が集結していたので、最低でも1人が優出を逃してしまうのは仕方ない。勝ったのは永井彪也。後輩に差されはしたものの、2マークで差し返して先頭を奪い返した。女性ファンの皆さん、優出選手インタビューではとびきりのイケメンに生で会えます。最終日はぜひボートレース三国へ! というのはともかく、宮之原との同時優出をともに喜びあって、イケメンスマイルをほころばしていた永井であった。

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 東京勢が沸いた一方で、木下翔太のせつなさを思う。今節唯一のSGファイナリストという格上であることは、本人も意識していないはずがなかったと思う。足も仕上がっていたように見えた。ならば、ノルマは優出。道中もさすがの捌きで宮之原を追い詰め、ノルマを果たすべく力量上位の走りを見せている。しかし、わずかに優出には届かなかった。今日は最終日前日ということで、レース後はボートの洗浄が行なわれる。木下は誰よりも早く、その輪から離れて控室へと戻っていった。その様子が、ただただせつなかったのだ。途中、荒井翔伍がしかめ面を向けて、木下の心中を気遣った。木下は顔をしかめ返して、胸の内をあらわにした。格上にしか味わえない敗戦の痛み。木下が味わったのはそれだ。

12R まさか!

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 その瞬間、ピットにはどよめきという言葉では足りない、大音量の声の塊がとどろいた。予選トップ通過の吉田裕平が、村岡賢人の差しを許したのだ。誰もが、F2の吉田が負けるパターンはスタートで後手を踏むというものではなかったか。スリットでほぼ同体の隊形となったとき、やはり吉田が逃げるのかと多くの人が思っただろう。それが、差された。誰もが驚いたのだ。

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 永井彪也は、目を真ん丸にしていた。そう、このままなら優勝戦は1号艇! 周囲の選手たちも永井に笑顔を向け始める。その後、2番手を走っていた吉田が逆転を許して3番手に後退し、もう一丁どよめきが起こるのだが、永井とその周囲はその間も信じがたいというような顔つきでレースを眺めている。レース後、同期の大上卓人が永井の肩を揉む。宮之原が走り寄って左肩で軽く体当たりをする。絶好のチャンスが到来した! レース後は永井に声をかける選手が何人か見られている。

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 それにしても、吉田が優出を外そうとは。1マークはターンを漏らしており、これがプレッシャーということなのか。レース後の吉田は素直に顔をしかめ、悔しさを隠そうとしなかった。いや、隠せなかったのか。いずれにしても、痛みを全身で感じているかのように、ボート洗浄の間も息の荒さは止まらなかった。

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 差し切った村岡賢人は、優勝戦メンバーでは唯一のGⅠ優勝戦経験者。本人も「自分だけマイペースで行ける」と口にしており、これがアドバンテージになる可能性は充分あるだろう。今節の岡山支部4人は、全員がヤングダービー卒業。それだけに全員が強い思いを抱いているという。だから、1マークでの大きな大きなどよめきのなかには、岡山支部3人の歓喜の声が含まれていたはずなのだ。明日も同支部同い年軍団の後押しを受けて、大仕事を狙うだろう。

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 2番手を走る吉田を逆転したのは今泉友吾だ。いや~、最近の今泉はこういうレースが本当に巧い! まさに今泉らしい走りでGⅠ初のファイナル行きをもぎ取ったと言える。そして、今泉も東京支部! 優勝戦には東都から3人の若者が参戦だ。「東京支部はなかなかこういうことがないので」と今泉も笑っていたが、東京のファンはこういう優勝戦を待っていたのだよ! もう14年半もビッグレース取材をしている我々だが、こういう事態はちょっと記憶にないぞ。というわけで、こっそりと東京の上位独占も応援します。今泉は6号艇だが、初優勝も6号艇6コースだったから、侮れないぞ。

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 1号艇で敗れた吉田以上に悔しそうな表情を見せていたのは、磯部誠だ。磯部もここでは格上であり、本人としてはやはり優出はノルマにしているところがあっただろう。足がなかなか仕上がらず、苦労もしてきたはずだが、準優に乗ったからにはここをクリアすることを強く自分に課していたはずだ。渋面を作る磯部に声をかけたのは、木下だった。磯部のそのときの心中をわかるのは、木下だけだったかもしれない。アイコンタクトを取り合った二人は、一言二言、言葉を交わし、うなずき合った。木下も磯部も、この屈辱を噛み締めて、さらに上の舞台に歩み出していく。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)