BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

三国ヤンダビ準優ダイジェスト

浪速の鬼平、仁王立ち

10R
①福田宗平(大阪) 15
②渡邉和将(岡山) 17
③島村隆幸(徳島) 15
④豊田健士郎(三重)09
⑤竹田和哉(香川) 07
⑥関 浩哉(群馬) 08

f:id:boatrace-g-report:20190922195725j:plain

 スリットは↑ご覧の通りダッシュ勢がやや優勢だったが、すぐに内3艇も伸び返して1マーク手前はほぼ横一線。そこから3コース島村がかなり早いタイミングで握って攻めたが、もうそこにはイン福田の影も形もなかった。先マイをした瞬間にスパーンと伸びて出口でははや2艇身差。やはりこの回り足は“鬼”という形容が相応しいだろう。

f:id:boatrace-g-report:20190922195757j:plain

 一方、この鬼平に差して肉薄すると信じていたナベカズ41は、なす術なく艇団の引き波に沈んだ。あえて敗因を探すなら「もっともスタートが凹んで島村の強襲をモロに浴びた」か。初動から余裕のない態勢を強いられ、ハナから流れ気味の1マークではあった。が、完全な節イチパワーであれば、スリットからの伸び返しも含めて優勝戦へと導く形が作れたはずだ。もちろん、道中の追い上げにはキラリ光る部分はあったが、宗平との直接対決は完敗と認めるしかない。

f:id:boatrace-g-report:20190922195828j:plain

 一人旅を決め込んだ宗平の後方で、4コースの2番差しからじりじりと2番手を取りきったのは豊田健士郎だ。もちろん、2着が欲しい島村&和将の先輩があの手この手の嫌味なターンを繰り出したが、健士郎は手のひらでピシャリと振り払うように決め手を与えない。隙のない回り足と出足を駆使して、嬉しい優勝戦へのゴールを駆け抜けた。1着がないままここまで上り詰めた今節の健士郎30号機らしい2着ではあった。全部の足がちょい強めのバランス型で、特に引き波に負けない馬力が魅力。明日の優勝戦でもスリットから一撃で突き抜けるパンチ力はないが、展開がハマれば接戦のV争いに持ち込むことは可能だろう。基本は2、3着に適したパワーではあるのだが。
 宗平の鬼足については昨日からの3戦を観てもらえば一目瞭然。パワーだけで言うなら、2コースから一撃で差しきるだけの破壊力を携えている。明日は上積み云々よりも台風との関連による気圧や気候の変化にしっかり合わせきることが何よりも大切だろう(開催自体もまだ微妙だが、優勝戦の時間帯は過ぎ去っているかも?)。今日の足を維持するだけで、十分にイン選手を脅かすことができるとお伝えしておく。

底の見えないターン

11R
①永井彪也(東京) 13
②木下翔太(大阪) 13
③佐藤隆太郎(東京)13
④宮之原輝紀(東京)15
⑤高倉和士(福岡) 22
⑥丸野一樹(滋賀) 21

f:id:boatrace-g-report:20190922195920j:plain

 スタートは↑御覧の通りのスロー優勢で、不気味な伸び足を誇る高倉は立ち遅れ。完全に内寄りの流れで1マークへと持ち込み、私の目には「彪也が逃げるか翔太が差すか隆太郎がまくりきるか」の三つ巴の展開にしか思えなかった。

f:id:boatrace-g-report:20190922195958j:plain

 だがしかし、ターンの出口から凄まじいスピードで先頭に突き抜けたのは、二番差しの宮之原だった! 一番差しはSG常連にして優出まで果たした翔太だからして、遅いはずはない。が、輝紀の差しはその翔太を軽々と追い抜いた。これだ。今節、何度か私はこんな輝紀の並外れたスピードターンを目撃している。昨日、やはり格上の羽野直也を真っ向勝負で捌ききったターンも見事だった。
 で、そんなときの私は、「足がいいから」と決め込むことが多い。格上の相手を倒すには、相応のパワーの介助が必要なことが多いから。ところが、輝紀の一連のターンは「パワー勝ち」と思わせない何かがつきまとうのだ。今日の1マークもそれだ。「回り足から出口の足が宗平級に超抜」と合点すれば話は早い。それで片づけたいのだが、そこに引っ掛かりが生じる。ではパワー勝ちではないとすれば、考えられるのはたったひとつ。

f:id:boatrace-g-report:20190922200034j:plain

 現時点で峰竜太や桐生順平レベルのターンスピードを携えているのではないか。
 さてさて、レースは続く。バックで先頭に立った宮之原に対して、3艇身ほど後手を踏んだ翔太が反撃を開始した。経験の浅い後輩を惑わせる、絶妙のタイミング&スピードでの押っつけ。SG常連の大先輩がさほどスピードを落とさず真っすぐ向かってくるから、輝紀としては気持ちが悪い。その分、初動のタイミングと握り込みが早くなるから、艇は横に流れやすくなる。そこにこれまた絶妙のタイミングで落とした翔太がくるりと小回りして勝負形に持ち込む。今節の翔太が要所で何度か見せた高等テクニックだ。

f:id:boatrace-g-report:20190922200102j:plain

1対1の勝負なら、このターンマークの競り合いは翔太の一本勝ちと言っていい。が、翔太自身もやや流れたところに、外から開いて差した彪也が先頭に躍り出る。3艇の差はわずか。2周1マークの手前、翔太が今度は彪也に対して例の技を仕掛け、それに乗じて輝紀が開いてから差しに構える。非常にハイレベルな交互の3艇旋回。ほぼ横並びのターン出口からシュッと進んで2艇の舳先を振りほどいたのは、おそらくこの部分の足がほんのわずかに強い彪也だった。

f:id:boatrace-g-report:20190922200132j:plain

 彪也が抜け出した後の輝紀vs翔太の一騎打ちがまた凄まじいのだが、これを書いていたらまだまだ時間がかかってしまうな。互いがスピードと旋回力を余すところなく露出したバトルを制したのは、2周1マークの出口からわずかな位置的なアドバンテージを握っていた輝紀だった。艇の安定を重視してあまりサイドを掛けずに出口から流れるように出て行く姿は、やはり桐生順平のそれを思わせた。のみならず、翔太の動きに目をやりながら、次なる勝負手を先読みして防ぐような動きも見てとれた。ゴールの直後に「後生おそるべし」という言葉が浮かび、すぐに「もう今が恐ろしいのか」と訂正した。
 なんだか私的回顧のようになってしまった。次に進もう。

三河の鬼平、散る

12R 並び順
①吉田裕平(愛知)17
②村岡賢人(岡山)16
③磯部 誠(愛知)19
④山崎 郡(大阪)16
⑥木村仁紀(滋賀)18
⑤今泉友吾(東京)19

 F2持ちという極めて重いハンデをモノともせずにシリーズリーダーまで上り詰めた

f:id:boatrace-g-report:20190922200201j:plain

裕平が、よもやの苦杯を喫した。スリットはきれいな横一線で絶好のイン戦モード。このままあっさり押しきるかに見えたが、今日のインモンキーは明らかにチグハグだった。1マークの手前でわずかに切り直すように見えたし、ターンマークも漏らして外へと流れてしまった。やはり、白いカポックの影響があったか。

f:id:boatrace-g-report:20190922200232j:plain

 すかさず2コースの村岡が的確な差しハンドルで迫る。態勢を立て直した裕平も上体を激しくしゃくって舳先を並べた。もちろん、内の村岡が圧倒的優位で、このまま2艇が折り合えばすんなり最後のファイナル2議席が埋まったことだろう。
 だが、2マークの手前で裕平が選んだ戦法は、逆転の1着だけを狙ったリスキーな鋭角の全速差し! その迫力たるや一撃でファイナル1号艇の座を取り戻したかに見えたのだが、さすがにエンジンが悲鳴を上げて村岡の艇に接触、大きく上下にバウンドして村岡だけが前へと突き進んだ。

f:id:boatrace-g-report:20190922200301j:plain

決死の勝負手が空振りに終わった裕平だが、ここは準優という舞台。悔しくとも2着でファイナルに進む優先権を2艇身ほどはキープしていた。そして、それを脅かしたのは、東都の追い上げスナイパー・今泉友吾だった。1周バックでは大差(裕平とは軽く5艇身以上の差)の5番手だったのに、いつの間にやら2艇身。さらに友吾は2周1マークの手前でじわじわ内へともたれて先マイを示唆。外の裕平に差しハンドルを選択させた。余裕のある態勢からの差しで、訳もなくズッポリと差し抜ける。が、これは追い上げ名人・友吾の挨拶代わりの“初手”でしかなかった。

f:id:boatrace-g-report:20190922200337j:plain

 次なる2周2マーク、3艇身ほど後方の友吾はまたしてもつつと艇を内に寄せながらスピードを上げ、切り返しの意思を表明した。裕平の戦法はまたしても「行かせて差す」待機戦法。ならば行きますよ、と友吾が相応のスピードで裕平の舳先を通過して行く。半周前のそれより当たりの厳しい切り返しだった。艇が流れて、再び3艇身差。友吾にとってこの2度の切り返しは徒労でしかなかったのか。おそらく、そうではなかった。

f:id:boatrace-g-report:20190922200413j:plain

 3周1マーク。友吾はまた内に動いた。同じように見えたが、3度目は打診も意思表示も何もないいきなりのスピードアップでターンマークに向かい、回る直前にその速度を微妙に緩めた。対する裕平はまったく同じように差しハンドルを入れたが、もうその舳先は友吾の艇を捕えることはできなかった。なぜなのか、私には分からない。2度の切り返しで裕平に水を浴びせた効果なのか、切り返しのタイミングとスピードの押し引きが絶妙だったのか……とにかく、友吾は3手を掛けた勝負手で3艇身差を逆転してしまった。おそらく、裕平はこのターンマーク(あるいはその手前)で全速で抱きマイを仕掛ければ見事に引き波にハメていた可能性は高い。もちろん、それができるだけのスピードもある。その選択肢を選ばせなかったのは、あるいは友吾の徒労に見せかけた最初の2手だったのではないか。そんなことを考えさせる逆転劇だった。友吾マジック、恐るべし??
 うーん、今日はどうしても私的回顧のような散文になってしまう。それだけ良いレースだったと言うことか。初日からゼロ台連発&3カドなどの勝負手を放ってここまで辿り着いた裕平は、老獪な魔術師の勝負手を浴びて散った。そんな絵図が浮かぶのだが、今節の吉田裕平の輝きは多くのファンの脳裏に焼き付いたことだろう。(photos/シギー中尾、text/畠山)