BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――強烈な踏み込み、強い思い!

f:id:boatrace-g-report:20200426180554j:plain

 出走待機室へと向かう前、金子龍介は掛けられたままの松本勝也さんのSGジャンパーの下をあえて通った。左手でそっとジャンパーを触り、手にしていたバッグを控室へと運び、そして待機室へ。松本さんとどんな会話を交わしたのか、金子はたしかに一瞬だけ触れ合って、レースに臨んだのだ。
 このジャンパーは、ファンファーレ直前に吉川元浩に着込まれることとなった。規制線の外からは見ることができなかったが、吉川はその姿で水面際に陣取ったと思われる。松本さんと一緒にエールを送っているよ。金子が水面でそれに気づいたかどうかはわからないが、兵庫勢の魂は間違いなくひとつになっていた。

f:id:boatrace-g-report:20200426180625j:plain

 これで勝っていれば大団円だったが、勝負は甘くなかった。「スタートで放ったのがすべて」と言う金子は、5カドから伸び切れずに敗れている。仕方がない。コンマ01。放っていなければ踏み越えていた。また、道中での接触でプロペラが破損したようだ。それでもなんとか完走にこぎ着けた。無事故完走で終えたことは、きっと重要なことだった。

f:id:boatrace-g-report:20200426180648j:plain

 とにかく、皆が皆、踏み込んだ。回り直して6コースに出ることになった松井繁もコンマ03。回り直したのは結果オーライで、金子の攻めに乗って準Vを手にすることになった。松井は報道陣の問いかけに「上出来や」と応えているが、スリットオーバーすることもなく、大外枠から準Vならたしかに上出来であろう。

f:id:boatrace-g-report:20200426180719j:plain

f:id:boatrace-g-report:20200426180740j:plain

 前本泰和、上平真二はコンマ05、06。西島義則の前付けに突っ張った前本、松井の前付けに突っ張った上平、ともに楽な進入ではなかったはずだが、彼らもまた踏み込んだ。レース後の前本は笑みも浮かんでおり、敗れはしたものの全力を尽くした実感は残ったか。上平もまた同様だろう。

f:id:boatrace-g-report:20200426180804j:plain

 レース後も終始、厳しい表情だった西島義則はコンマ01だ。真っ先にカポックを脱いだ西島は、駆け足でモーター格納へと向かった。だが途上で、モニターにリプレイが流れているのに気づくと、足を止めた。カタい表情で見つめる西島。やがて横には、金子もやって来た。両者が接触した1周2マークを見届けると、二人はそろって整備室へ。結局、二人は言葉を交わすことはなかった。西島はただただ、一人で悔恨を噛み締めた。

f:id:boatrace-g-report:20200426180830j:plain

 そうしたなかで、村田修次もコンマ02だ! よくぞ、楽ではないイン戦でここまで踏み込んだというしかない。1マークも文句なしだ。深い起こしを覚悟してインを死守し、強烈なスタートを決めて、他の攻め筋を完封して逃げ切る。まさしく完勝である。
 沸いていたのは、もちろん東京支部の面々だ。濱野谷憲吾を筆頭に、拍手でヒーローを出迎えた。濱野谷は、表彰式に向かう村田からヘルメットを預かるべく、駆け寄ったりもしている。それも嬉しそうに。東京支部では登番が下から2番目の村田なのに、濱野谷は少しも先輩風を吹かせることなく、後輩の快挙を喜んでいるのだ。

f:id:boatrace-g-report:20200426180911j:plain

 そして、村田は淡々とした微笑で先輩たちの祝福を受け取った。なんというか、実に落ち着いたたたずまいだった。SGだったらまた別なのかもしれない。記者会見で「名人と言われても、自分はまだまだだと思う」と言っているように、マスターズチャンピオン覇者という称号に自身、ピンと来ていなかったのかもしれない。ただ、そうした心の安定の中で、とにかくインを死守するのだと覚悟を携えつつ、冷静に戦うことができたのではなかったか。メンタルの面も含めて、やはり完勝だ。
 会見で村田は、「まだまだ向上心を持ち続けたい」と言っている。これで来年のクラシックの権利を得ることはできたが、ここまでで最後のSGはなんと2011年オーシャンカップである。もう9年も遠ざかっているのだ。マスターズ世代に突入したとはいえ、ここで終わってしまうわけにはいかない。たしかに向上心とともに、SGの舞台を目指さなければならないだろう。本人もどこかこそばゆいかもしれない名人位の称号だが、それをここまで豪華になっているメンバーを相手に手にした以上、この戴冠をひとつの契機にしなければならないのだ。

f:id:boatrace-g-report:20200426181136j:plain

 これで賞金ランクは20位に上昇。近況は記念常連というわけではないだけに、これをどこまで維持できるかは何とも、であるが(名人なんだから、メモリアルは選ばれるべきでしょう!)、この位置から見える高みも意識してほしいところ。村田修次のピークはここからだといつか言われるようになってもらいたいものである。同じ東京在住だから特にね! おめでとう、ムラッシュ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)