BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

優勝戦 極私的回顧

土下座と感謝

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 ムラッシュこと村田修次さま、12年5カ月ぶりの記念制覇&第21代の名人就位、おめでとうございます!
 でもって、ムラッシュとムラッシュファンの方々にこの場を借りて陳謝します。121221①という初日からずっと予選トップ~優勝するに相応しい成績だったのに、予選中のTOPICSではトップが決まるまで1文字も書かずすいませんでした。準優を鮮やかに逃げきったのに、あれこれ難癖ばかりつけてすいませんでした。『BOATBoy』スタッフの三島敬一郎がしっかり推奨10基のひとつに推していたのに、パートナー32号機を「そんなに出てると思わない」などと中堅扱いしてすいませんでした。そんなだから優勝戦予想でも無印にしてすいませんでした。今シリーズ以外でも『BOATBoy』の全国斡旋予想で勝率上位にも関わらずなんとなく◎や○を付けにくくて▲とか△ばかり付けてすいませんでした、2年ほど前に「黒フライホイールがモーター相場を変えた!?」みたいな企画の取材で某・元整備士さんからムラッシュのインタビュー記事を頂戴してあれこれ参考にさせてもらったのに御礼どころかこんな恩知らずなことをしてしまってすいませんでした!!!!
 深く頭を垂れつつ、レースを振り返るとしよう。

12R優勝戦 並び順
①村田修次(東京)02
②前本泰和(広島)06
④西島義則(広島)01
⑤上平真二(広島)05
③金子龍介(兵庫)01
⑥松井 繁(大阪)03

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 鬼の西島がどこまで村田・前本を攪乱するか、と見ていたが、いざレース本番の作戦は意外に穏やかなものだった。おそらく「前本はどこまでも徹底抗戦して絶対に内には入れさせてくれない」という長年の経験則が働いたのだろう。
 この西島よりも激しい陽動作戦を繰り出したのは、王者・松井だった。まずは前付けに動き、村田と広島トリオの外5コースに潜り込んでから、さらりとそのポジションを捨て去った。回り直しのダッシュ6コース選択で、最終隊形は1245/36! 松井はかねてから「自宅は尼崎の方が近い、兵庫支部の一員という思いもある」的な言葉を発しており、ある意味、強固な“兵庫ライン”が大外に並んだわけだ。

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「金龍、まかせた!」
 そんな王者の叫びが聞こえるような回り直しに、金子が燃えないはずもなし。5カドからコンマ01のタッチS! すぐに絞め込んでカド受けの上平を強引に攻め潰したが、その直後に高く分厚い壁にぶち当たった。3コースの西島もまた、コンマ01まで突き抜けていたのだ。出足~行き足が強烈な西島53号機は、金子のダッシュの利ざやを軽く食いつぶした。絞める気満々の金子のまくりはここでドン突き一時停止。代わってブロックした西島が全速でぶん回す。同時に2コース前本がセオリー通りの差しに構える。そう、まさにこの瞬間まで私は、「どっちかの攻めが決まって、ムラッシュは敗れ去る」と思い込んでいた。

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 だがしかし、今日の村田32号機はスリット~1マークの出口まであまりにも完璧だった。スタートは外の韋駄天連中にも負けないコンマ02。そこからの行き足も、節イチと呼ばれた前本とほぼ一緒。そして、ターンマークを舐めるようなインモンキー(実際、わずかに掠っていたかもしれない)。ターンの出口では、西島と前本を軽く3艇身ほど突き放していた。心の底から土下座するしかない、パーフェクトな逃走劇!!

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 2コースで敗れた前本の視点からひとつだけ言わせてもらうなら、今日のような玉突きで圧迫されながらの差しではなく、しっかりマイシロのある差しハンドルでどこまで村田に肉薄できたか、は見てみたかった。いや、これは難癖ではない単純な欲求で、おそらく逃げて差しての一騎打ち勝負でも村田が圧倒しただろう。西島の前付けや松井の回り直しなどなど百戦錬磨の猛者たちの作戦、駆け引きは、強い村田の引き立て役でしかなかった。

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 その直後には前本×西島の不慮の接触で前本の失速あり、2マークで西島←金子の突進・追突あり(不良航法)、その影響で金子のエンジン不調あり、とやや荒れた展開になったが、もちろん記者席の階下のスタンドからは物音ひとつ聞こえてこない。やんちゃなオヤジ軍団が思い思いに暴れているさまと、あまりにも静かなスタンドのギャップは、眩暈が起きそうなほどに不自然だった。昨日も少し触れたが、ピットアウトからファンの想像を超えたあれやこれやが発生しやすいこのマスターズこそ、現場のスタンドで多くの人々に見てほしかった。この優勝戦を私もスタンドの片隅にでんと構えて、渦巻く歓声に負けないくらいの声で本命の西島を応援したかった。それでも……

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「こんな状況の中で、ちゃんと仕事ができる人って少ないと思うんです。こうして仕事ができること、本当に、感謝の言葉しかないです」
 ファンのいない優勝インタビューで、村田はマスクの向こうからこう言った。現場のスタンドには立てないが、その言葉は全国のファンにとっても同じだろう。こんな状況の中で、ちゃんと舟券が買えて、好きな選手を応援できて、選手たちの一挙手一投足に感動したり文句を言ったりモーターを軽視したり100万円を狙ったり心の中で詫びたり(笑)、自宅や記者席(←特権利用、すいません)でそうできることが、どれだけストレス解消や癒しにつながっているか。関係者と選手たちに感謝しつつ、誰もがスタンドで思う存分に叫ぶことができる日を待ち続けましょう。(phtos/シギー中尾、text/畠山)