BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――痛恨の……

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 うぎゃーっ、と悲鳴をあげたのは西山貴浩だ。11R、水面際のアリーナ席でレースを見守っていた西山は、スタートの瞬間に声を発した。たしかに対岸のビジョンに映し出されたバーチャルのラインを、特に今垣光太郎が超えているように見えていた。さらに、西山の先輩である江夏満も、敬愛してやまない池田浩二も。まくり切った今垣が先頭を走るバック水面、ちょうどそのタイミングでビジョンには「返還②③」の文字が映し出された。江夏と今垣。先輩がフライング艇に含まれていたこともあってか、西山はその文字を見て立ち尽くした。呆然としていたと言っていい。やがて、江夏と今垣が先にピットに戻ってくることを思い出して、西山はリフトへと駆け出している。ピットには陰鬱な空気が漂い始めていた。

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 先に戻った江夏、今垣はもちろん、出迎えた面々も声はない。フライング後はいつもこうだ。直後にかける言葉はなかなか見当たらないし、本人もさまざまな思いが脳裏に渦巻いている。粛々とエンジン吊りは行なわれ、江夏と今垣はやや肩を落として控室へと消えていった。

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 先頭に浮上したのは深谷知博。だがもちろん、江夏と今垣が先に控室へ戻った後であっても、笑顔は見られない。勝者にしても、なかなか複雑な1着であり、レース直後には喜びの思いが顔を出すことはない。出迎えた菊地孝平にしても、神妙にエンジン吊りを行なっていた。それでもラッキーはラッキーなので、この勝利を明日以降につなげたいところだろう。

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 池田浩二に対しては、西山貴浩が両手を水平に広げて「セーフッ!」とややおどけて出迎えている。池田はコンマ01で生き残った。だからセーフ、ということである。スリットをまたがなかったことには安堵があったとしても、1号艇で敗れた、それもF艇にまくられてのものだから、複雑ではあろう。そんな思いを、西山が癒してくれたかも? エンジン吊りの間も西山がイジりまくって、苦笑であったとしても、池田から笑みを引き出していた。

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 11Rの面々が控室へと消えていったあと、ピットの隅っこに置かれているデジタルスリット写真の前には人だかりができていた。なかには、付属の定規のようなものを使って、どれだけはみ出していたかを確認している者もいた。それを遠目で見て僕は、まさか“非常識”か……と不安になったものだ。結果、今垣がコンマ04、江夏がコンマ03で、即日帰郷は避けられた。今垣も江夏も気配は悪くない。石野貴之がF後も連絡みを続けているように、二人にも外コースからおおいに舟券に貢献してほしい。

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 厳戒態勢で選手となかなか接触できないので、それこそ遠目で見た感想レベルの話になってしまうのだが、終盤のピットでやはり沈鬱に見えたのは原田幸哉である。7R1号艇でまさかの5着大敗。これで準優進出は苦しい立場となってしまった。残念ながら長崎支部は原田も桑原悠も赤坂俊輔も、ボーダーが6・00のままだったとすると、すでに届かない状況である。大将格の原田としては、1号艇で大きな着を獲ったことも含めて、強く傷つく状況と言うしかない。それでもペラ調整は続けているのだが、ペラ室へ向かうときなど遠目から見てもはっきりわかるほどに俯き加減で、落胆しているとしか思えないのである。

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 10R大敗の平本真之も、もともと悔しさを隠そうとしないタイプだとはいえ、かなり落ち込んでいる様子だった。それに寄り添って慰めているのが原田というのがまた、こちらとしては同様に俯いてしまうわけだが、原田は元愛知支部で平本もかわいい後輩の一人だから、今日は6着2本の平本に気遣いを見せたというところだろう。平本はまさに這ってしまっている状態、苦しい戦いを強いられている。しかし、平本は同時に喜びも隠さないタイプ、あと3日、どこかで平本らしい笑顔を見たいものだ。痛恨を味わってしまった選手たちには、明日以降も奮闘してもらいたい!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)