ピットに締切5分前のアナウンスが流れると、まるで無人の荒野のごとく、しんと静まり返る。どこかで野球の試合でもやっているのだろうか、男声の掛け声がいくつも風に乗って流れてくる。5日目の序盤のピットは、それほどまでに動きが少ない。目立った動きがほとんど見られず、閑散とした雰囲気なのだ。
もちろん本当に無人のわけがなく、整備室を覗けば選手の姿はちらほら。たとえば原田幸哉はゲージ擦り。1R発売中まではモーターを装着もせず、そちらの作業に没頭していた。これもまあ派手な動きとはいえないわけで、静寂の中の作業である。そして、足的に納得の域であることの証しでもある。
プロペラ調整室には今垣光太郎、角谷健吾らの姿があって、金属を打つ音は聞こえては来た。しかし、調整室の様子は満員というにはほど遠く、初日や2日目には和音のようにも聞こえる金属音の重なりはほとんど聞こえてこない。だから、普段のペラ室から聞こえてくる音量に比べれば、かなり静かにも感じてしまう。
もちろん、レースが終わればエンジン吊りに選手が集合するので、にわかに喧騒は生まれる。しかしテキパキと作業を終えると、準優組も多くが控室へと戻っていくので、あっという間に装着場は人の姿が少なくなるのだ。予選トップ通過の太田和美もエンジン吊り後は控室組。ただし2R発売中に装着場にあらわれて、モーターを磨いていた。まあいわゆる調整作業ではないわけで、余裕が感じられる動きと言える。
とまあ、ようするに特筆すべき動きがほとんど見られない準優日序盤のピットなのである。
そんななかでの動きといえば、まず濱野谷憲吾の本体整備。早くから取り掛かっていた様子で、1R発売中には整備を終えて、ボートに装着している。準優に向けての勝負整備といったところか。
2R発売中には、吉川元浩がギアケース調整。整備士に見守られながら、粛々と作業を進めていた。
1R発売中、辻栄蔵が試運転からあがってきている。そしてペラを外して、調整室へ。辻といえばギリペラの代表選手。展示ピットにボートを移動させなければならないギリギリの時間まで、ペラと向き合い続けることだろう。
試運転をしていたのはもう一人、今村暢嵩。1R発売中にはいったん切り上げ、控室へと消えていった。
あと、瓜生正義が原田とともに1R発売中にはまだモーターを装着していなかった。2R発売中に原田とともに装着を終えて、ペラ調整室へ。といってもまるで慌てている様子はなく、静かに穏やかに作業に移ったように見えた。
結局、このクラスのベテランは準優といってもアタフタすることなく、過ごし方を確立しているということだろう。また、足的にも焦って調整しなければならない選手がおらず、それなりに仕上がってきている選手が準優に駒を進めたということだ。また、初夏と言うべき気候になっている昼間と、少々冷えてくる夜では気候が明らかに違う。最も気温が高い2~3時頃に調整を急いで進める必要性もないということかも。夕方に向かって、選手たちの動きは加速していくはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)