BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――平坦のなかに見えたもの

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 結局、最後まで特筆するような大きな動きがなかった優勝戦。それぞれが仕上げに抜かりはなく、そのうえで毒島誠に日本一噴いている64号機が渡っていた。ベスト6には早々たる面々が並び、そしてこれはそのメンバーの豪華さでありながらもGⅡの優勝戦である。レース直前もレース直後も、どこか平坦な印象を受けてしまうのは、当然かもしれない。

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 SGであれば、ゴール後にピットでテレビのインタビューがあり、ボート上で祝勝撮影を受け、レスキューに乗ってファンの前で歓声に応え、ピットに戻れば多くの祝福が降り注ぎ、しかし急かされるように表彰式に向かい、ステージの真ん中で称賛を浴びる。しかし今日は、ゴール後にはそのままウィニングランを走り、ピットに戻れば出迎えたのは鹿島敏弘のみ。すでに管理解除で選手の数自体がかなり減っていたこともあって、11Rのエンジン吊りからそれぞれが実に手薄になっていたのだが、優勝戦後もまた同様で、勝者の毒島であっても多くの選手が取り囲んでおめでとうの雨を降らせるシーンは見られなかったのである。これもまた、さらに平坦な印象に輪をかける。

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 優勝後の忙しさは実際のところ、あまり変わりはしない。テレビのインタビュー、プレス撮影、囲みインタビュー、表彰式と、次々に毒島の体は運ばれていく。派手にガッツポーズをするヒマもなく、それぞれをこなしながら穏やかな笑顔を振りまく毒島。そこには優勝の高揚感はあまり感じられず、訥々と勝者のスケジュールに従っている誠実な男がいるというわけなのだった。
 これがSGだったら、と考えてしまうのは致し方ないが、勝つべくして勝ったレース後の表情は、それがGⅡであるのならこれが自然なものなのだろう。
 もちろん、普段とは質の違うプレッシャーはあったはずだ。昨日の準優後、毒島は「緊張した……」と呟いている。GⅡの準優1号艇でこの男が緊張に震えるというのはいかにも不思議なことであるが、しかし64号機という相棒を手にしたことがもたらしたものだと考えればなるほどと思わされる。選手仲間が「毒島の足がスゴすぎる」と口にする。それは直接、本人の耳にももたらされる。ブス、優勝だな、なんてそれこそ前検日から言われていたかもしれない。それは彼であっても、妙な重圧になっていてもおかしくはない。

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 だが、僕は準優を乗り切った時点で、開き直りのようなものが生まれたのではないかとも睨んでいる。行事に追われたという面はあったものの、昨日のレース後のようなため息交じりの呟きや、明らかにわかる安堵感は、今日の毒島にはなかった。感じられなかった。勝たねばならぬの思いは強くとも、普段通りに戦った結果、至極当然とも言える結果が出たという、そんな雰囲気を毒島には感じたのである。

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 ともかく、毒島誠おめでとう! あなたが超エース機と組めば、そりゃあこうなるよね、という当たり前の結果が出る気持ちよさを節間通して、感じさせていただきました。根っこは穴党な私ですが、これもまた良し。芦屋オーシャンで会えるのを楽しみに、今日は毒島の強さを肴に酒呑みます。

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 敗者にしても、これがGⅡということなのか、平坦な空気を感じた。毒島がウィニングランを走る間、対岸からは花火が何発もあがって、夏の夜を彩った。2着の峰竜太は、普段ならもっと悔しさや、あるいは苦笑いが見えてもおかしくないはずなのに、リフトに乗りながらその花火を眺めていた。これがSGだったら、とやっぱり考えてしまうんですね。花火を見る余裕があったのかどうか、と。
 これだけのメンバーが、GⅡの優勝戦で全力を尽くし、しかしレースの格の違い(ということは名誉の違いであり、賞金の違いでもある)が次への切り替えを素早くさせている、ということなのか。日々SGのような緊張感で戦っていたらパンクしてしまうのが必定、そういうなかでもトップクラスのトップクラスたるゆえんを随所に見せてくれた甲子園を、ある意味で象徴していたのが優勝戦のレース後だったような気もしますね。これもまた甲子園の良さかも。

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 ただ一人、平高奈菜はそうはいかなかったかもしれない。初めての混合記念の優勝戦。いろいろな思いはあったはずだが、6着。名だたるSGウィナーたちに歯が立たなかったという結果である。モーター返納の際、平高だけが表情をカタくしていたように見えたのは、果たして気のせいだろうか。実際、馬場貴也に声を掛けられ、笑顔で返したものの、その直後にふたたび険しい表情に戻っていくのをたしかに見た。これがいい経験になって糧となってウンヌン……みたいなのはあまりに月並みすぎるが、水面上のことに関しても、レース前やレース後に生まれた感情にしても、多くのものを得たのは間違いない。それが次のオーシャンにどう反映するのか、楽しみにしたい。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)